平成18年7月12日

シロギス
通称名 キス


旬の時期

春から秋

漁場

伊勢湾

漁法

刺し網定置網など(参考:三重の遊漁と漁業のルール

小売の形態

一匹丸ごと、開き

品質の特徴

柔らかく、淡泊な白身

見極め

体にボリュームがあり、体表に透明感があるもの

料理

刺身、焼き物、揚げ物、干物、煮物など

 三重県、特に伊勢湾でキスというと普通はシロギス1種のことを指し、その特徴的な外観から見間違うこともありませんが、日本全国ではキスの仲間には数種類あることが知られています。シロギスは体にもヒレにも斑紋がないことで、よく似た別の種と区別できます。シロギスは私たちの身近にある砂浜にすみ、釣りの対象としても大変親しみのある魚で、魚屋さんの店頭よりもむしろ釣り人のクーラーに並ぶ方が多いかもしれません。もちろん、美味しいシロギスは漁業の対象にもなり、市場の人気商品でもあります。一方、私たちにとって身近な砂浜をすみかとしているが故に、シロギスは危機を迎えています。今回は、よく知っているはずの魚の知られざる一面も含め、ご紹介します。


砂浜のスター

 シロギスの産卵は春から秋にかけて、やや浅い砂地の海域で何度も繰り返して行われます。春になると深みから浅場に押し寄せ、産卵に備えるのですが、釣り人にとっても待ちに待ったシーズンの始まりで、砂浜は長い竿を持った投げ釣り客で賑わいます。シロギスは姿が美しいことが人気のひとつですが、針にかかった後のファイトも釣り人を楽しませる魅力を持っています。誰からも親しまれ、さまざまな魅力を併せ持つシロギスは、まさに砂浜のスターと呼ぶにふさわしい存在です。
平成18年7月7日 シロギス 松阪産


砂浜で育つ

 シロギスの卵は産み出された後受精し、海の表面を漂いながら発生、ふ化します。私たちがふつう目にしている海水は透明ですが、その中にもいろいろな小さな生き物がたくさん泳いでいます。シロギスの赤ちゃんもその一つ。生きているときは体が透き通っていて、とても見つけることはできません。この写真は浅い海にすむ小さな生き物を捕まえる特殊な網によって採取したシロギスで、死んで体の色が白っぽくなりかけています。シロギスの赤ちゃんは、同じところにいる小さい甲殻類などを食べ、成長していきます。
スケール(黒い線)の長さは1センチです。
平成15年10月10日 シロギス 伊勢湾産 みえのうみ提供


市場の人気商品

 シロギスの産卵は長期にわたって続きますが、盛夏には活力が落ちて一時的に中断することもあるようです。一般に、魚の旬は産卵前といわれますが、シロギスのように長期間産卵する魚の場合、体のエネルギーを一度に使い果たすようなこともなく、産卵期間中も餌をたくさん食べて体を作っていきます。つまり、食べて美味しい期間も長いというわけで、見た目によく肥えているものならいつ食べても間違いはありません。市場の前浜もの売場においてもシロギスは人気商品のひとつで、良いものが入るとひっぱりだこで売れていきます。シロギスの柔らかさと淡泊な味わいを満喫するにはなんといっても鮮度が一番。すぐ近くの浜でとれ、まだ生きているシロギスは大変な魅力を持った商品といえるでしょう。
平成18年7月7日 シロギス 松阪産


シロギスの危機

 シロギスは生まれてからひと月ほどの間、プランクトンとして海の表面を漂い、砂浜の波打ち際で着底して一人前の姿になります。また、着底後もしばらくは波打ち際にとどまり、体が大きくなると少しずつ深いところへと移動していくのです。波打ち際は、天敵となる大きな魚にとっては浅すぎて動きにくいだけでなく、水の動きも激しくて餌を見つけにくいこと、砂底にはシロギスの餌となるさまざまな小動物が多いこと、海の表面近くを漂うシロギスの赤ちゃんがスムーズに海底に移行することができることなど、プランクトンという、か弱い状態から魚の姿に成長するために有利な条件がそろっているため、シロギスをはじめ、多くの魚の保育場として大変重要と考えられています。
 しかし近年、さまざまな理由から砂浜が少なくなっています。また、伊勢湾では赤潮や貧酸素水塊が毎年のように発生し、通常は安全なはずの波打ち際を墓場に変えてしまうことがあります。泳ぐ力の弱い魚の赤ちゃんは、これらの脅威を避けることができません。シロギスにとって、特にプランクトンから魚の姿に変わるところに大きな壁ができたようなものです。一生のうち、ほんのわずかな期間であれ生きることが困難になると、その生き物にとっては存続の危機といえます。まさに今、シロギスはその危機にさらされているのです。一方、幸いなことに、伊勢湾にはまだ各地に砂浜が残っており、毎年どこかの場所は貧酸素の影響を免れ、数は減ったといわれますが毎年元気なシロギスが育っています。危機的な状況ですが、まだ手遅れではありません。美しく、美味しいシロギスをはじめ、伊勢湾の海の恵みを受け続けることができるかどうかは、これからの私たちの取組次第ではないでしょうか。
平成16年7月19日 貧酸素で死んだ魚やカニが打ち上げられている伊勢湾の海岸 みえのうみ提供


シロギスを食べる

 シロギスは柔らかく、淡泊で上品な身質です。刺身、焼き物、揚げ物など、さまざまな料理をお楽しみいただけます。天ぷらをはじめ、定番といわれるお料理はもちろんおすすめなのですが、ちょっと趣向を変えて、淡泊さが過ぎて物足りないと感じる方におすすめなのが干物や昆布締めです。干物はごく軽く干すだけでも水分が抜けることで味がぐっと濃くなり、味わいは格別です。もちろんしっかりと干すと干物独特の旨みがたっぷりと加わります。刺身で食べられる魚を干物にするのはもったいないと感じられるかもしれませんが、新鮮だからこそ干物にして味が引き立つのです。保存のためだけではなく、味を良くするための干物を一度お試しあれ。釣りの大漁や箱買いも決して怖くはなくなりますよ。
 なお、紀州などでキスの干物というと、ニギスという全く別の魚が出てきます。これはこれで美味しく、おすすめできる一品でもありますが、シロギスだと思っているとびっくりすることになります。これは嘘や偽物ではなく、当地では普通にそう呼んでいるだけのこと。魚の呼び方はその地方の文化でもあり、魚への親しみ度合いを表すものでもあります。目くじらを立てるのではなく、呼び名の違いをきっかけに現地の人と話をはずませるのも旅の醍醐味ではないでしょうか。

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