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 キハダ解体作業

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 キハダは黄色く長い背びれと臀びれが特徴で、暖かい海を好み、大きいものでは百キロを越える中型のマグロです。三重県ではキハダの消費が多く、当市場でもマグロといえばキハダというほど人気があります。庖丁さばきは某仲卸会社の社長。丁寧で無駄のない動きはさすがベテランです。


 市場に入荷するキハダはほとんどが海外から空輸されています。現地で内臓やエラを取り除き、氷詰めにして航空機で送れば鮮度も問題ありません。仲卸店舗に搬入されたキハダは、まず頭をカマや胸びれ、腹びれごと切り落とします。


 腹側からひれの付け根に沿うように切り、次いで腹腔内に包丁を入れ、肋骨を切り離します。腹側を背骨まで切り終えたら魚体を回します。


 背中側をひれに沿って切ります。右(上)側を切り終え、左(下)側にも包丁を入れています。動きに無駄がありません。


 背腹両側から背骨まで切り離せたら、切る向きを変え、体の横から背骨めがけて切り込んでいきます。わずかに残っていた背骨とのつながりを失うと、重たいマグロの身は自分の重みで転がり落ちようとします。むしろゆっくりと支えるようにしてやさしく身を離します。よっこらしょ、と声が出そうなところ。文字通りごろんと転がり、皮を下にして着地します。


 腹側の節がとれました。キハダ特有の鮮やかな赤身が映えています。背側の節も背骨に沿って包丁を入れるとたやすく離れます。包丁の先が背骨にあたるカリカリという音が心地よい感じ。包丁さばきの腕は音にも現れます。


 マグロの身は赤身と言われることがありますが、学術上の赤い筋肉とは血合いのことで、背骨の近くやひれの付け根、体表近くなど、常に動いている部分にあります。体の断面が一番わかりやすいのですが、この写真でも血合いの部分がおおよそご理解いただけるのではないでしょうか。そしてそれ以外の部分は白色筋、つまり白い筋肉にあたります。確かにマグロ類は血合いも多いのですが、ほとんどの食用部は白色筋なのです。いわゆる赤身魚とか白身魚は、食用としている白色筋の中に含まれる成分が違うということなのです。



 ひれに沿って丁寧に包丁を入れています。ひれの周りの鱗や筋肉に埋まっている骨があるため、なかなかすんなりと切らせてはくれません。少しずつ角度を変え、立体的に。庖丁人の体にはマグロの体内のどこにどんな骨があるのか、そしてどのように筋肉と骨がくっついているのか、すべてが深く刻み込まれているに違いありません。腹側、そして背中側とリズム良くさばいていきます。





 体の横から入れる包丁は5枚おろしの最後の工程です。右上の写真は、血合い肉の色がよく解ります。皮から背骨に向かって幅広いマグロの血合い肉は、高速で長時間泳ぎ続ける魚にふさわしく、大きく発達しています。血合い肉には太い血管が通っており、酸素の供給が豊富にありますので有酸素運動を行い、筋肉に疲労がたまりません。また、血合い肉にはエネルギーの素であるグリコーゲンやビタミンなども豊富で、健康食品として優良なものです。ただし、新鮮なものは大変美味しいのですが、古くなるといわゆる生臭さが出ますので嫌われがちです。

 5枚おろしの完成と、残された骨です。まるでレントゲン写真のように背骨が透けています。写真だけでも、無駄なく肉を確保していくプロの技術がおわかりいただけると思います。 ところで、いわゆる背骨というものは一本の骨ではなく、脊椎骨という短い骨が長く連なっています。そして脊椎骨からは背中側と腹側に太い骨が突き出し、体を支えています。ちなみに、横方面にも骨はありますが、このような太いものではありません。左右に体を動かす関係上、このような形になったのでしょう。ちなみに、 もう骨の周りにはほとんど身が付いていませんが、これをスプーンですきとったものがすき身で、マグロの解体をするところでないと味わえない極上の旨さです。

 最後の仕上げ、整形です。包丁が変わっているのがおわかりでしょうか?用途ごとにさまざまな道具が使い分けられています。腹側の節に残る肋骨や腹膜を取り除き、尾の筋も切り落とし、完成です。37キロ、小学生の子どもくらいあるキハダに要する時間は10分もありません。皮や血合いは付いたままですが、その方が形が崩れにくいようです。小売店やお寿司屋さんなどはこの節の形やさらに小分けにした形で購入します。私たちが店頭で見るのは皮も血合いも取り除き、もっともっと細かく切っていったものになります。一片の刺身からは想像もできない作業が、毎日行われているということがおわかりいただけたでしょうか。ものすごい早さということもあって簡単な作業に見えますが、魚の体、特に筋肉と骨がどのようになっているかが解っていないと簡単には切れません。包丁も特殊なもので、道具も技も職人というにふさわしいもの。これら専門の仕事は市場の魅力のひとつです。


平成18年7月29日更新

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