――紅い月――


 緋色の双眸に月が写る
紅い、紅い月

何のために自分はいるんだろう
高い木の上、枝に腰掛けて足を揺らす
ぼんやりと月を見上げる
独りぼっち
闇を彷徨い続ける
闇から闇へと渡るだけの自分
誰かが中にいる
苦しそうな女の人
血を流してもがいている
死にそうで死なない
でも、私の心は何も感じない
「苦しそうだね」
声をかけてみる
――煩い
「痛くないの?」
――此処から出せ
「どうやって?」
――知るか
其れが初めての会話
それからずーーっと一緒にいる
女の人はそれからずーと一緒にいる
私の中にいる
誰だろう、名前は聞いても答えてくれない
ただ、出せって言う
でも、私にはそんな方法はわからない
だからずっと一緒にいる
私は何処へ行くのだろう
この夜が明ける前に私はまた夜の世界へと行く
朝は見ない
昼も見ない
夜しか見ない

少女の白い脚が木の上で揺れる
長い黒髪が靡いている
緋色の双眸は月を見ている
許された唯一の光を見詰めている
明るい場所を知らない
誰のことも、唯一、声の女の人しかしらない
闇の中だけをずっと旅を続けている
何処へ行くのだろう
何のために...