――焼き芋――

 カイムが焼き芋をしてくれた
崖の上に簡単な竈を作り、落ち葉を集めた
私は芋を濡れた新聞紙でくるみ、それをアルミホイルでくるみ、用意をしていた。

2人でその竈に芋を突っ込み火をつけた
甘い芋
2人でビールを飲みながら食べる
美味しいと思った
初めてこんなことをした、今まで誰もこんなことをしようとは言わなかった
私もこんなことをしようとは言わなかった。
カイムとであって、初めてそう思えたことはなんだか不思議な気がした。
なんとなく、カイムの体温が欲しくて背を凭れさせた
こうして、2人で暮らし始めたのは夏になる前じゃなかっただろうか。こうして再び主を持つことになるなんて、それまでは思ってもいなかったことだった。
でも、主を持てば私の存在は安定する。
心も体も安定する
そして影響を受ける。
甘い焼き芋を齧りながら、こうして自然にいられる相手が素直に嬉しいと感じていた。
何気ないこと
きっと、何気ないことなんだろう。
でも私には初めてのこと。
人間らしいことは初めてのこと。
人形だと拘らないカイムは、私を世間知らずなひねくれた女だとしか思っていないだろう
でも、それもまた楽しいのだと思えるから不思議だ
誰かに望まれたいと思っているのか、誰かを望みたいと思っているのか、どちらがが強い気持ちなのかはわからない。
でも、今のこの関係を不満にも思わない。
何時からだろう、こうしていることを自然だと思えるようになったのは、一緒にいたいと強く望むのではなくて、いつの間にか傍にいて家に帰るといる存在になったのは
夜空を見上げて、誰かの待つ家、誰かを待つ家の嬉しさを、背に感じる温もりの有難さを改めて感じた。
有難う