貴方が見せる
甘い顔も
厳しい顔も
大きなアクビも



視界一杯に拡がる深い緑。
その色にいつも、見惚れてしまう。
此処では見ることの叶わない、あの緑の樹々を思い出させる所為かもしれない。

そして視線は、褐色の肌へ。
隆起したその肩や、均整の取れた逞しい腕、純粋に綺麗だな、と思う。
男相手に何を云うか、と笑われそうだけど。

そうして間近になる、両眸。
鼻先が触れ合う距離に、何時の間にか彼の顔が接近している。

ゆっくりと、音を忍ばせて。

まるで獣のように気配を殺して。

真っ直ぐな視線を、射るようなそれを受けても、返す事が出来るようになったのは、何時の頃からだったろう。

精悍な顔つき、ああでも最近は眉間に皺を寄せている時の方が多いかもしれない。
その皺がふ、と緩む時が今この瞬間なのだという事を、ゲインは知っているだろうか。



今この瞬間。
僕は。
貴方は。
何を考えて。



触れ合う吐息。
重ね合う視線。

少しだけ乾燥した唇の感触だけが、これは紛れもない現実なのだと実感させる。
こんな事しても有益なものなど何ひとつ生まないのに。

泥沼にも似た思考に嵌りかけていると、それを知ってか知らずか、ゲインは鼻先を自分のそれに軽く押し付けてきた。
二人で居る時、彼は結構、こういう子どもっぽい仕草をする。28のクセに。

すり、と。
まるでその柔らかな感触を確かめるように、幾度も。
眼鏡がズレるからやめて欲しいと云っても、聞いてくれた例しは一度も無かった。

 「…、」

少しだけ息を吸い込めば。
深い深い蒼碧の瞳が、こちらを窺うように覗き込んで。

 「爛れてますよね、こんな関係」

吐息と共に呟いたら、ゲインの両眸が三日月を描いた。

 「全くだ」

みんなを騙して裏切って、隠れてこんな事をして。
こんな関係、永くは続かないと、理解っているのに。
それなのに。
いつのまに。



繋いだ手を。
絡めた指を。
この体温を。

離せなくなってしまったのだろう。



 「正直僕は、貴方の事が嫌いなんです」
 「そりゃ初耳だな」

耳朶をくすぐる、笑いを含んだ湿り気のある低音。
否定的な言葉を投げつけて、自分だけ関係の無いフリをして、上辺だけの安心を得て。
反発するしか出来ない子どもの僕は、受け流す事で遣り過ごす術を持つ大人の貴方の腕の中で、
胸の奥じくじくと緩やかに疼く罪悪感を抱えながらそれでもなお、この無意味な関係を続けていくのだろう。



貴方がする
キスも
抱擁も
名前呼ぶ声も



それらのあらゆる刹那を手離す事が出来ない限り。

 

 

◆end◆

 

先の見えない関係。暗中模索し続ける2人。それでも、
お互いを手離せないのはゲインもゲイナーも同じではないかなと。

 

 

貴方が見せる〜@吉田美和「DARLIN'」