「ふむ。深くはないが、広範囲に切れとるなぁ」

カチ、コチ…。
定期的に時を刻む壁時計の音が、白い室内に静かに響く。
不安げな表情でペルハァの診察を受けるゲイナー傍らで、黙々と掌に包帯を巻いていくエリザベス。
 「…大丈夫なんですか?」
付き添っているサラも、心配そうに老医師の方ををじっと見つめている。
ガウリ隊の要請でキングゲイナーを駆り、各ユニットの様々な諸雑用をこなしていた途中の出来事だった。
装甲の一部が剥がれていたのか、それに気づかなかったゲイナーが機体から降りる時右掌をザックリと切ってしまったのだ。
最初は「大した事無いから、」と心配するサラ達を宥めていたのだが、
余りの出血の多さにとうとうバッハクロン内部の医務室へと連行されてしまい、そして今に至る。

 「だーいじょうぶさ。そんな怪我、怪我の内に入るか」

突然。先程からずっと姿を見せていなかった男の声がして、ゲイナーが反射的に顔を上げる。
その瞬間、何処からか騒ぎを聞き付けたのか、医務室の扉付近に背を預けている男…ゲインとばっちり目が合ってしまった。
 「ゲイン!そう云うけど、すごい出血だったんだから…!」
自分が口を開く前にサラが勢い良く反論すれば、それを受けた男は白いコートのポケットへ両手を突っ込み、広い肩を竦めて鼻白む。
 「まぁまぁ、請負人の云う通りじゃ。大丈夫、このくらいの切傷なら4、5日で塞がるよ」
それまではこちらに通いなさい。
優しい声音でそう云われ、包帯まみれの自分の右手をまじまじと眺めながら、ゲイナーはすみません。と頭を下げた。
 「…良かった、大した事無くて」
ふう、と安堵の溜め息を吐きながら、サラがゲイナーの肩にそっと手を掛ける。そんな仕草ですらゲイナーの心臓は痛い程、音を立てる。
 「…し、心配掛けてごめんね、サラ。ベローにもゴメンって云っといて」
分かったわ。そう云ってにっこりと頷くサラ。ピンク色の髪の毛がふわり揺れてとても綺麗だ。
自分が気を付けていればこんな怪我、防げていたものの、サラにこんなに心配してもらえるなら…たまには怪我もいいかも。
などと考える不謹慎な自分に、慌てて心の中で首を振る。
傷口は痛むけど、なんか嬉しい。

ゲイナーはただ純粋にサラの優しさを受け止め、感動していた。

…勿論、そんな天国のような気持ち、長く続く訳なんてないのだけど。



 「…ちょっと、何なんですかゲインさん!一体…」
脱衣所。
贅沢にとられたその広い空間に、ゲイナーの甲高い声が響き渡る。
彼が先程と打って変わって立腹しているのには、ちゃんと理由があった。
例によって未だゲインの部屋で居候状態を続けているゲイナー。
その彼が何時ものように浴室を借りようとしたのだが、部屋の主から突然のストップが掛かったのだ。
 「今日は止めとけ」
渋い顔で命令するゲインの真意が分からず、首を傾げて意思表示を示すと、
 「お前な、自分が怪我人だって事自覚してるのか?」
 「…こんなの怪我の内に入らないって云ったクセに」
唇を尖らせ揚げ足を取る。つまらない事だけはしっかりと記憶してやがる…。ゲインの両目が据わった。
 「化膿して熱が出ても知らんぞ。と云ってるんだ」
その至極最もな意見に、う…。と少年が言葉に詰まった。
確かに、傷口に水と一緒に菌が入って化膿してしまう可能性は、ある。
けれど、軽い潔癖症の感があるゲイナーにとって、お風呂に入らない、入れないというのは我慢出来ない事なのだ。
ゲインは自分の身体を気遣って云ってくれている。それは理解出来る。
(突然脱衣所に入って来た時は、そりゃびっくりしたけど)
でもお風呂に入れないのは辛い。ただでさえ今日は結構汗をかいたし。
 「…き、傷口はちゃんとタオルで巻きます…お湯が掛らないように気を付けますから」
しどもどと言い訳を作り出す子どものように、ゲインの顔色を窺いつつ、口を開くゲイナー。
対するゲインは、相変わらず険しい顔でそんな子どもをじっと見下ろしている。
 「………湯船にもつかりません、から」
弱々しく、消え入りそうになる語尾。
その不安げな表情をしばらく難しい顔で眺めていたゲインだが、がしがしと髪の毛を掻き上げ、「あ〜…」と天井を仰いだ。
 「…分かったよ。だが長風呂禁止だ。さっさと出てくるんだぞ」
 「…はい!」
途端、ぱあっと明るくなるゲイナーの顔。
奴の周囲がやけに輝いて見えるのは………勿論気のせいだな。
ゲインは自分が起こし掛けた錯覚にゲンナリしつつ、脱衣所を後にすべく踵を返した。

が、背中越しに伝わってくる、悪戦苦闘の気配。
 「…っあれ?…ぬ、脱げない…これをこう、して…」
 「…」
 「…えーと」
 「……」
 「……痛っ」
 「あーもう!こっち来い!」
 「え、えぇ?!」
服を脱ぐだけでもコレだ。この調子では無事風呂から上がるまでどれ程の時間が掛かるか、分かったものでは無い。
自分の甘さとゲイナーの馬鹿さに辟易しつつ、半ばヤケになったゲインは、さっさと手際良く手負いの少年の服を剥ぎ取っていったのだった。



 「…だからって、一緒に入らなくてもいいじゃないですかー…」
浴室に弱々しく響く、泣きそうな声。
右手はがっちりタオルで武装されているものの、裸で洗い場の腰掛けに座るゲイナーは、居心地悪そうに身体を竦めていた。
背後には黒のタンクトップを脱ぎ、上半身だけ裸になったゲインがシャワーヘッドから出る湯の温度を調節している。
 「服も脱げない奴が髪を洗えるのか?身体は?」
 「…う」
 「ただでさえ風呂で溺れるような前科者を一人にしておけるか」
 「…うー」
ぐうの音も出ない。
そりゃあ利き手が使えなくて不便なのは間違い無い、けれどこれでは余りにも情けないではないか。
ゆっくり、時間を掛ければ髪の毛だって、身体だって自分で洗える筈…だ。多分。
 「お湯掛けるぞ」
 「…はい」
全身に降り注ぐ温水。はあ…と溜め息を吐いてそれを受ける。
右手にお湯が掛からないよう、きちんと其処を避けて、掌が髪の毛に触れた。
優しく撫でられるようなその動きが気持良くて思わずぼーっとしてしまう。
あれだけ髪の毛に触られるのが、嫌だったのに。
シャンプーを掌に垂らし、少々猫毛気味の茶色い髪に手を滑らせる。
 「…なんだ、えらく静かで気持悪いな」
一言も言葉を発しないゲイナーに対し、思わずゲインが苦笑した。
 「そんなに気持ちいいかい?」
からかい口調にはっと我に返ったゲイナーが思わず顔を上げる。
 「な…っ、んな訳無いでしょ!」
 「はいはいそうでした。ほら、動くと泡が目に入るぞ」
いい加減ゲイナーの扱いにも慣れてきたゲインである。
が、しかし。
 「…ゲ、ゲインさん………もう、入りました」
 「…はいはい」
云った傍から、痛〜…と身を屈めるゲイナー。
その髪の毛に勢い良く温水を浴びせ掛けながら、顔についた泡を拭き取ってやる。

…。
何と云うか。
(甘やかされてる…)
(甘やかしてる…)
お互い微妙に複雑な心境に陥りつつも、それを口には出せない二人だった。

しかし、それまでは大人しくされるがまま状態のゲイナーだったが、
ボディーソープをたっぷりつけた柔らかなスポンジが腕に押し付けられた時、無意識に身体が怯んだ。
 「い、いいです、身体は自分で洗います…!」
急に余所余所しくなった態度に、スポンジ片手のゲインは…明らかに楽しそうな笑みを口に浮かべ、背後からゲイナーに近付く。
 「何を恥ずかしがってるのかな?ゲイナー君は」
 「恥ずかしがってなんか…!」
あるに決まっている。
思い切り図星だった。
かつて彼には何度も恥ずかしい場面を見られてきてはいる。いるのだが、それとこれとは状況が別である。
 「身体を洗うだけだろ?別に何をしようって訳じゃない」
至極真面目に云ってのけたその言動とは裏腹に、ゲインは後ろから抱き締めるようにゲイナーの身体にするりと手を廻す。
 「…勿論、何か期待してるって云うなら話は別だが?」
耳許、ぎりぎり触れない距離で囁かれたそれは、ゲイナーの体内に確かにゾクリとした何かを流し込んだ。
 「…っ、期待って…」

訊いてはいけない。
これは罠だ。
分かっているのに。

しかしゲインはその問いに答えず、泡まみれのスポンジをゲイナーの二の腕に滑らせた。
ゆっくりと、僅かに力を込めて身体を洗われる。
洗われている、だけなのに。
何故、彼が触れた場所がこんなにも熱を持っているのだろう。
 「…っ、」
今口を開いたら何か変な声が出そうだった。必死で唇を噛み締め、終るのを待つ。
両腕を洗ったスポンジは、首、耳の裏、鎖骨、そして胸へと滑り落ちていく。
しかし、ぬるりとした泡を伴ったスポンジが胸の突起を掠った時、我慢出来ずに息が漏れてしまい、
ゲイナーは慌てて左手で口を押さえに掛かる。…が、時は既に遅過ぎる。
 「どうしたゲイナー?…そんな声出して」
耳聡く聴きつけたゲインがうなじの傍で、囁くように問うた。
 「…、ぁ、なんでも…な……っ!」
スポンジがゆるりと輪を描くように乳首を撫でる。それだけで身体はビクン、と正直に揺れてしまう。
 「俺は、身体を洗っているだけなんだがな?」
言外に、いやらしい奴だ。と云われているようで、余りの恥ずかしさに無言で俯いてしまった。
そもそも、「そう」したのはそっちの責任ではないか。
心の中で反論はするものの、声に出そうとすればそれは甘い声にすり替わってしまう。
ゲイナーの葛藤をよそに、ゲインの持つスポンジは下腹部へと降りていく。
 「…っ!や…、」
其処こそ自分でやる!
ゲイナーは慌てて身を立て直そうとしたが、背後からしっかりと抱き竦められた身体の主導権は、最早自分の手に無かった。
そろそろと内股をなぞられ、無意識に喉が鳴る。
 「や。じゃない」
 「…だ…っ、て…」
右手と同じように右脚を浴槽のへりに掛けさせられたが、抵抗なんて出来なかった。
 「こん…なの……っぁ、」
ぬるついたスポンジが其処に触れたかと思うと、ゆっくりと撫でられる。
緩い快感。
裏側までじっくりと擦られ、そのまま双丘の入り口に到達する。
柔らかいスポンジで煽られ続け、ゲイナーはそれでも声を出さないよう必死で耐えた。

濡れた浴室は恥ずかしいくらい声が響く。
それは以前手に入れた、嬉しくも何ともない教訓だった。

 「…今日はやけに頑張るな、少年」
気付いていたのか、ゲインがひっそりとそう呟いた後。
口を押さえていた左手の上から自分の掌を重ね、ゆるゆると一回り小さな掌を取り外してしまった。
 「…ぁ、」
 「しかし俺は声が聴きたい派なんだ」
そんなの知った事か。
心の奥で毒吐いてみるものの、左手は捕われ、口を覆うものが無くなってしまった現実に焦る。
幾らなんでも右手は使えない。その間にもスポンジはいやらしく自分の弱い部分を這い廻っている。
思考が分散しそうになる自分を、なけなしの理性で何とか押し留めた。
 「…く、…」
頑なに声を押さえるゲイナー。
その努力は称賛に値する、が。
ゲインはスポンジに少し力を込めて、其処を擦り上げる。
 「…んぁ…っ」
その動きで微かに開いた小さな唇に、空いている方の指を侵入させた。
 「…っふ、あ……」
くち…、
口内で蠢く筋立った指はソープの味で少し苦い。
溢れる唾液を指に絡ませながら、少しずつ中を蹂躙していく。
シャワーから出っ放しのお湯が生成する乳白色の湯気のお陰で身体は余り見えないが、
先端からとめど無く液体を伝わせ、浅ましく屹立しているソレはきっとゲインに知られているのだろう。
そう思うと堪らない。早く何とかしなければ。陥落寸前の理性はそう訴えるが、反面身体は余りにも欲望に忠実だった。
柔らかなスポンジの愛撫なんかじゃ足りない。
もっと、強い快感が欲しい。
 「…ぁ、…や、だ…」
 「何が嫌なんだ?」
ゆるゆると上辺だけを撫でるゲイン。
 「…っ、じゃ、なくて…」
瞳は熱で潤み、目許は仄かに紅い。
自分の今の状況で云いたい事を分かって欲しいゲイナーだが、ゲインはそれを許さない。
最近では、自分がして欲しい事をちゃんと云えるまで、絶対に行動を起こしてくれないのだ。
 「…ンの、手で、…さわって………」
屈辱的な言葉。
けれど、それを口にすれば自分の薄弱なプライドなんて忘れ去ってしまう程の快感を得る事が出来る。
何時の間にかゲインに教え込まされていた「それ」は、既にゲイナーにとって抗い難いものとなっていた。
 「手で触って欲しい?」
もう一度問われ、目を閉じてゆっくりと頷く。
 「…って、ほしい…」
云えば緩慢に口内を弄っていた指が出ていき、そのままそれは胸許へと移動していく。
緩く抓られ、ぐり、と指の腹で乳首を捏ねられ、恥ずかしいくらい濡れた声が唇を割って零れ落ちた。
 「…ッ、…っぁ、」
気付けば身体は自分の力で座る事を放棄し、全体重は背後の男に預けっ放しだった。
ゲインはスポンジを離した手で、無造作に棚に並んでいたある硝子の小瓶に手を掛ける。
瓶の表面に張られている紙面にはブルーの小さな文字で商品名が書かれているが、遠くて見えない。
蓋を開け、無色透明のそれを指先に垂らしていく。質感的に…何か、オイルのような物だろうか?
 「…な、に……?」
彼の行動をぼんやりと瞳で追っていたゲイナーが少しだけ不安気な表情を浮かべる。
しかし頭は既に与えられる快感に侵され、まともな思考など持ち合わせてはいない。
 「…ん?ソープは流石に辛いからな」
一人ごちるようにそう呟くと、へりに掛った脚から内股にかけてヌルリとその液体を伝わせた。
室内は温まっているとは云え、急な温度差にゲイナーの身体はピクン、と無意識に震えてしまう。
そしてぐちゅ。と、唐突に奥へ滑り込んでくる長く無骨な人差し指。
 「…ちょ…っ、や、…」
刺激を求め痛い程そそり立っている自身はそのままに、内奥のみを解していく。
 「ゲイン…っ、………」
思わず非難がましい目でにらみつければ、上気した頬に口づけされた。まるで聞き訳の無い子どもをあやすような、キス。
 「触らなくても後ろだけでイけるだろう?」
ほら。
ヌク…、と指が二本に増やされ、ゾクゾクと理解不能のあの感覚が背筋を走った。肌が粟立つ程に、強烈な。
 「い…ぁ、」
オイルでぬるつく指が出入りする度に、淫蕩な音が浴室に響く。
こんな音を出させているゲイン。出している自分の身体。どちらがいやらしいのか、もう分からない。
繰り返される後ろだけの刺激。それが耐えられなくて、我慢できなくて、ゲイナーの左手が無意識に自身へ伸びる。
しかしそれはあえなくゲインの左手に捕らえられ、戒めるようにきつく互いの指と指が絡まり合い、手の甲にキスされた。
 「我慢の足りない坊やだな」
 「………っ、」
くす、と深みのある笑いを含んだ声が耳許に囁かれ、羞恥で全身が熱くなるのが解った。

と、突然。何を思ったか、自分を支えているゲインの身体がぐいっと前に倒れ掛かる。
背にのし掛かる重圧に何事かと思って顔を上げれば、背後から伸びる腕は正面の曇った鏡に向かっていた。
 「なに…ゲイン………?」
厭な予感。
質問は、しかしゲインの次の行動によって、示される事になる。
狼狽えている間にゆるゆると解放された、ゲイナーの左手。強く握られていた所為か、まだ痺れている。
そして同時に自分の左手を自由にしたゲインはその大きな掌で、キュッと備え付けられている全身鏡の曇りを拭い取っていったのだ。
 「…ちょ……ッ」
驚いたのは勿論ゲイナーだ。今、この鏡の前で恥ずかしい格好を晒しているのは彼しか居ない。
片脚を浴槽のへりに掛けさせられて、上半身は崩れかかるようにゲインの身体にしどけなく預けられている。
 「やだ…っ、」
 「ちゃんと見てみろ、ゲイナー」
鏡の前。脚を大きく開き、濡れた数本の指を熱の帯びた其処で咥えているのは。
 「何処を触られて、どう感じてるのか。…そしてお前がその時どんな顔をしているのか」
濡れた前髪から覗く潤んだ瞳と、上気した紅い頬。薄く開かれた唇から見え隠れする、赤い舌。
眼鏡が無いからちゃんと見えないし、湯気によって鏡は再びうっすらと隠されようとしている。
けれど、この鏡に映っているのは間違いなく自分。恥ずかしい顔で、恥ずかしい格好で映っているのは。
 「これ、が………、…」

ゲインに抱かれている、自分?

浴室に篭もる熱にあてられた所為か、呆然と呟くゲイナーの背後から、ゲインが耳朶に口づけを落とす。
 「そう。“これ”もお前だよ」
中断していた指の動きが、この意味深な言葉を合図にズルリと中で動き出した。
指の腹で其処を執拗に擦られ、身体は限界を訴えるようにビクビクと震え始めて。
薄く曇った全身鏡。その中に朦朧と見える自分の姿が、それを忠実に映し出している。
そして背後に映るゲインが、鏡の中の自分を見ている。
 「…ゃ、…見ない…っで……」
 「どうして」
 「…って…は…恥ずかし…から……に決まっ………ぁ、…っ」
見られる事への羞恥。それは思う以上にゲイナーを精神的に辱めた。
何時しか内壁を犯す指は更に増え、自分を責めるその激しい抽挿はまるで、何時もゲインにされているような、そんな感覚。
無意識に鏡へ目を遣れば、その中の自分は身体中を泡とオイルでべとべとにして、淫らに濡れそぼった後孔を指に犯されている。
 「…ん、ぁ…っ、…も………ッ」
ビクンッ…
ゲイナーが一瞬息を詰める。
一度も触られる事の無かったその先端からは白い精液が漏れ出し、下腹部を汚していた。
 「…っ……、く」
ズルリと指を引き抜いて、今だひくついている中心をぎゅう、と握り、残りを絞り出してやる。
射精による生理的な涙か、荒い呼吸を繰り返しながら、伏せられた睫の隙間からはポタポタと透明な雫が零れ落ちていた。
 「ほら、前を触らなくても後ろだけで…気持ち良くなれただろう?」
シャワーの温水をこちら側に傾けて、少年の身体に付いた泡と精液を流していると、
肩を震わせしゃくり上げるゲイナーは、快感の余韻に痺れている自分の身体を持て余しているようだった。
 「…ゲイン、さん…」
こちらを見上げる薄茶の瞳は、未だ収まらない情欲に濡れて。
名を呼ばれた男は、しかしそっと立ち上がるとゲイナーを置いて一旦浴室を出て行く。
何かを探している様子だが、再び姿を現した男が手にしていたのは大きな白いバスタオルだった。
それをバサっと広げると、濡れたまま呆然としているゲイナーに被せ、そのまま軽々とその身体を抱き上げた。
 「…っわ!」
思わず首に両腕を廻せば、右手に鈍い痛みが走り、ゲイナーが眉を顰める。
 「自分が怪我人だって事、覚えてるか?少年」
 「………忘れてました。さっぱり」
正直に答えると、笑い声が返ってきた。そしてゲインの額がゲイナーのそれにゴチン。と当てられる。
 「…すまん、俺もだ」
 「忘れさせた張本人はゲインさんですよ」
息が触れ合う、至近距離。けれど眼鏡を外した瞳ではこれくらいがちょうどいい。
 「…責任、取って下さいね」
首から肩に移動させた右手は、熱を持ってじくじくと痛む。
痛むのだけどそれは先程の快感と混じり合って、奇妙な熱となって身体の芯に灯った気がした。
自分をこんなに煽ったのはゲイン。ならば彼にはきちんと責任を取ってもらおう。

更なる快楽と共に。

 「喜んで。…と云いたいところだが、先ずは怪我の手当だ」


ゲイナーの言葉の意味をすぐに理解したゲインは、その精悍な顔に艶のある笑みを乗せそう云って。
「責任はそれから取ろう」と、頬を染めてこちらを見ているゲイナーに、ゆっくりとした口づけで応えた。

 

 

 

◆end◆

 

あまい。…なんだこの2人…お前らデキてんのか?(デキてんのか)
浴室リベンジ。あの時の反省を活かして色々やってみました。やり過ぎました。