拭いきれない闇がある。



寝苦しさに目を覚ますと、ゲインが覆いかぶさっていた。
夢か現実かどうかも分からず、けれど身体は反射的に小さくたじろいだが、
照明を全て落としてあるせいで周りは濃い暗闇が自由にはびこり、ゲイナーの鈍い視界を攪乱する。
そんなんじゃ寝首をかかれるぞ、ゲインの形をした黒い影がのしかかったままそう云って笑う。酒気を纏った厭な笑い声だった。
そのふざけた言葉と男の態度に眠気よりも不快さが勝ったゲイナーは、どいて下さいとやや強引に押し退け、上体を起こそうとした。
ここは目の前の男が所持する寝室で、つまり眠っているベッドも彼のものなのだから、
一時的な避難場所としてここを借りている自分にはそんな事を云う資格など本当は無いのだが、
過ごした月日はそんな矛盾を曖昧にし、二人の間にある隔たりをゆっくりと確実に摩耗させていた。

かなり邪険に云い放ったというのに、対するゲインは何処吹く風とばかりに綺麗に無視して、
二本の太い腕を組み敷いたゲイナーの身体に絡ませると、そのままきつく抱きしめる。
距離が一層近くなった所為で、緑の硬い髪の毛が首筋や頬をざらりと撫でた。
 「足りないんだ」
唐突に耳の傍で呟かれ、なにが、と問いかけようとした言葉の回答は、ゲインの行動でゆっくりと明白になりつつある。
しかし目覚めたばかりの全身は未だどろりと睡魔に沈んでおり、それでもなんとか必死で閉ざされた腕から出ようとするが、
ゲイナーは強く抱きすくめられたまま、不本意にも男の肩口に顔を埋めるような格好になってしまう。
余りの窮屈さに酸素が足りず息を吸った。口と鼻腔に、酒と香水の匂いが拡がった。
 「…冗談云わないで下さいよ」
不快感をあらわにしたゲイナーが腕を回し、ゲインの跳ねた後ろ髪を束ねて思いきり掴む。
 「冗談でこんな事するか」
引き離そうとかなり強めに引っ張っているのだが、
男は意にも介さずその腕を片手で掴み取ると、あっけなく髪から外してしまった。
こんなにも近くにいるのに、否。近過ぎるからだろうか、相手の顔が、表情が良く見えない。
ゲイナーはじりじりと背中を灼く焦燥感と嫌悪感に耐えきれず、男の腕から抜け出そうと本格的に暴れ始めた。
 「散々、遊んできたんでしょ?」
だから、そんな匂いをさせているんでしょう。むせかえるような、そんな。
先程から、あのきつい香りをかいだ時から、自分でも良く分からない嫌な気持ちが胸の中に渦巻き始めていた。
この際、多少ゲインの身体に腕や脚がぶつかったっていい。むしろ、ぶつけてやりたい。とすら思う。
 「足りない。ゲイナー君とも遊びたい」
 「酔ってるんですか?水かけますよ」
ようやく闇からゲインの顔が覗いた。彼の浅黒い肌からは酔いの加減を推し量る事が出来なかったが、
そのくらいの至近距離でする事といえばひとつしか無かった。敏感にそれを察知したゲイナーは、反射的に腕を交差し顔を背ける。
未だ男の腕の中に閉じこめられている彼に出来る、これが精一杯の拒絶だった。
しかしゲインは目の前で交差された腕を易々と組み伏せ、背けられた顔は顎を掴んで引き寄せると、無理矢理唇を塞いだ。
ゲイナーは顎を固定された不自由な体勢で、それでも首を振って男の唇から逃れようとする。
力強く引き結んでいた唇をゆるりと甘咬みされ、舌でなぞられる。
熱い吐息は湿った表面を伝い、そのむずがゆい感覚と息苦しさに僅かに口を開いた、ほんの数秒だった。
その隙を逃がさずゲインの生温い舌が強引に奥へとねじ込まれる。
 「…ん……ッ、う…」
香水がふわりと鼻を掠めた。

その唇で。
その舌で。

見ず知らずの女と同じ事をされているのだと思った瞬間、ゲイナーは口腔をなぞるゲインの舌にきつく歯を立てていた。
弾力のある、それ自体が生き物のような奇妙な感触。自分の感情の振れ幅が大き過ぎて、上手くコントロール出来ない。
理性と感情がばらばらに動いている違和感がひっきりなしに襲った。なんだこれ。ゲイナーが闇の中で戸惑う。
胸の奥がざわざわする。不快、不安、嫌悪。内から湧き出る濃密な負の感情が、ひどく気持ち悪かった。
噛みついた瞬間、流石にゲインの舌は離れたが、その後の反応はゲイナーの予期するものでは無かった。
彼は少しだけ顔を上げると、片目を細め、息を潜めて笑ったのだ。
 「やってくれるじゃないか」
掠れた低音が耳をうつ。この行為が酔ったゲインを煽ってしまった事を、少年は知らない。
呆然としている間に再び唇を重ねられた。強引に歯間を割られ侵入ってくる舌に、逆に驚かされたのはゲイナーの方だった。
ゲインの傷ついた舌が口の中で動くたび唾液が絡むたび、アルコールの匂いで占められていた口内が鉄のような味に変わり、
それが次第に濃くなっていく。血が出ているのに、それでもなお続けられるこの行為は、ゲイナーにとっていっそ悪意めいたものにしか感じられなかった。
口づけの合間にも、ゲインの手は抵抗を止めないゲイナーのシャツを巧みにくぐっていく。
直接素肌に触れられ、脇腹の辺りを熱く湿った指で無遠慮になでられた。その緩い刺激に肌が粟立ち、ビクリと身体が強張る。
 「…、っ、嫌だ…」
執拗に絡む舌からようやく逃れ、首を捻って必死に拒絶した。
けれどゲインはやはりそれを無視し、掌で愛撫を続ける。止める気はさらさら無いらしい。
 「いやだ、…っ…!」
口の中は酒と血が混ざって酷い味がした。
受け入れられなかった否定の言葉は、虚空を掠め闇に溶けていく。
それでもゲイナーは抵抗を止めなかったし、ゲインは手を止めなかった。
ハーフパンツと下着をずり降ろされ、強引に脚を開かされる。
膝頭を掴んだまま、覆いかぶさっていた男が微かに上体を起こした。
その動きで、彼の下に組み敷かれていたゲイナーの身体は更にベッドのシーツへと、深く押しつけられてしまう。
その粗暴な扱いを非難するように、少年は目の前の男をきつく睨み上げた。
 「離して、下さい…!」
 「嫌だ」
 「僕だって嫌だ。あんた、僕が何でも自分の思い通りになるとでも思ってるんですか?」
だとしたら物凄く不愉快だ。相手の気持ちを無視して、便利に使われて、ただそれだけで。
そんなのはまるで。
ゲイナーはそのままどろりと暗い思考の沼に落ちかけそうになり、慌てて心の中で首を振って、意識を切り替える。
相手の傍若無人さにも腹が立ったが、それよりもまず、先手を取られかねないこの体勢を変えなければいけない。
ゲイナーは懸命に腕を突っ張り身体を浮かせようとしたが、唾液に濡れた男の指が太股、そして内股を伝いそこに触れる方が早かった。
ヌ、と容赦無く一気に奥まで突き入れられた瞬間、ゾワリと背筋に悪寒が走る。
 「……く、…ッ」
 「ああ、思ってるさ」
耳許間近でゲインの声が聴こえた。一瞬、聴き間違えたのかと思い顔を上げると、蒼碧色の両眸とまともにぶつかる。
ゲイナーの息が詰まった。言葉が出てこない。この夜初めて目にするゲインのそれは、本能をまるで隠していない獰猛な色を滲ませていた。
酒が回っているからか、それとも情事の余韻を引きずっているのだろうか。
余りにも貪欲で獣じみた、全てを喰らい尽くされそうな。
 「…んな…勝手な…」
 「お前、いつだって俺の思う通りに感じて、やられてるじゃないか」
聞き捨てならない最低な言葉を受け、ゲイナーの思考は怒りで蒸発する。
瞬時に激しく反発しようとしたが、中で蠢く指の感触が意識を掻き乱し邪魔をした。
それはいつしか二本に増え、唾液の潤滑を頼りに狭いそこをじわじわと押し拡げていく。
そのたび、未だ強張りの解けないゲイナーの身体の奥で痛みが走ったが、男はベルトを外し、
前を寛げると構わずそこに昂ぶった自身を押しあてた。いつもより性急で乱暴で、そして何より果てしなく自分勝手だった。
 「…ッ、僕が、好きでこんな事されてると…っ…」
 「嫌だったらとっくに出て行ってるだろ?それに、好きでもないとこんな事、出来ないと思うがなぁ」
腹が立った。本気で腹が立った。
今まで見ようとしなかった、聞かないようにしてきた闇の中の醜い真相がどんどん明らかになっていく。
どんなつもりで抱いていたのか、どんな気持ちで、抱かれていたのか。
身体だけで繋がってきた二人の思惑は、見事なまでに重ならなかった。
快楽を欲するゲインと、逃れられず溺れるゲイナー。狡いのはお互い様だ。利用したのはきっと同じだ。けれど。
酔ったゲインの言葉が痛烈に耳に響く。
 「気持ちいい事、好きだもんな。ゲイナー君は」
だから俺に抱かれるんだろ?ゲインが笑う。
殴ってやりたい。しかし内部を蹂躙されているゲイナーは、後手後手になってしまう自分の抵抗に舌打ちするしかなかった。
闇の中、ぬる、と熱を持つ先端が後孔に触れた瞬間、無意識に息を止めてしまう。この瞬間だけは、どうしても恐怖で身体が竦んだ。
 「………ッ!」
ズ、と貫かれる激痛に思わず唇を噛みしめる。
知らずに涙がこぼれ、圧迫感と熱と痛みで思考がブラックアウトしそうになった。いっそ、そうなる方が楽だったかもしれない。
 「い…、いた……い…ッ…!」
生理的な拒否反応など既に見切っているのか、
他人を受け入れまいときつく締め付けてくる内部へゆっくりと全てを埋める込むように、ゲインは身体を沈めていく。
彼が動くたび酒と汗と香水の混ざり合った匂いが鼻を掠め、少年の感情を更にぐちゃぐちゃと掻き乱した。
ゲインが何処で誰と何をしようが自分には全く関係無い筈だ。けれど、それをここに持ち込み自分にまで影響を及ぼすのなら話は別だ。
なによりも、白粉の香りをだらしなく引きずった男に、女と同じように抱かれるなんて、死んでも嫌だと思ったのだ。
ゲイナーにだってプライドはある。同じ男なのだ。
様々な浮き名を流し、遊び歩いてはその辺りのモラルが崩れきってしまっているゲインの中で、
毛色は違うが結局はゲイナーという少年も、彼の遊び相手としてその他大勢に組み込まれているのかもしれない。
しかし落ち度は完全にゲインの方にあった。流されるまま今このような状況を続けてはいるが、
ゲイナーは関係を割り切れる程大人では無い。なにより彼は、全くの素人なのだ。

奥を抉る熱にきつく眉を寄せながら、ゲイナーは腹いせとばかりに、タンクトップから覗く褐色の背や腕に爪を立てる。
本気でやった。本気で嫌だったからだ。何度も皮膚を引っかくと、いつしかヌルリと生温かいものが指先を濡らしていた。
ゲインが緩慢に身体を起こす。その動きで中にあったものがズル、と引き抜かれ、突然の空虚感とその生々しい感触に全身がぞわりと総毛立った。
 「ったく、手癖の悪いのはどっちだよ」
云われた直後、ゲイナーの視界が薄暗い闇の中でぐらりと揺れ、一転した。
背中にあった筈のシーツは何故か腹の下に敷かれている。不意に、ゲイナーの視界に自分の両手の甲が入った。
爪先は黒っぽいもので濡れている。おそらく引っかいた時に浮き出たゲインの血だろう。
それで、体勢を変えられたのか、と気づいた時にはもう遅かった。
背後に居るのだろうゲインの手が腰に伸び、逃げられないようしっかりと掴まれる。
 「い…、ッ…やだ…ゲイ、ン…!」
何をされるか分かっている。だからこその恐怖に悲鳴混じりの制止を放ったが聞き入れられず、
後ろから男のものが再び奥まで突き入れられる。先程まで中を弄られていた所為か、
最初のような衝撃は無く、先走りと唾液で濡れた内部はゆっくりとそこを押し拡げられていった。
 「や…ぁ……ッ、…く…」
反抗する手だてさえ奪われ、シーツに這いつくばらされて、身体を男の自由にされる。
奥を何度も擦られる痛みにゲイナーの意識が朦朧と麻痺し始めた瞬間、謀ったように前立腺を攻められた。
 「ぁ…ッ…」
ビクン、と思わず身体が跳ね、薄い背中が反り返る。それを見過ごすゲインではない。
 「なんだよ、さっきと全然反応が違うじゃないか」
 「い……やだ…っ、あ、…そこ…ッ、やめ…」
ぐり、とゲインが中で敏感な部分を擦り上げるたび、ビクビクと白い背中が揺れる。若く正直な身体は反応を隠せない。
 「…あぁ、お前後ろからされる方が好きなんだったな」
笑いを含んだその言葉を背後から浴びせられ、羞恥と屈辱にどうにかなりそうだった。
 「ァ、違…っ…いや、だ…、…ッ」
しかし、必死で繰り返す否定の言葉は、もたらされる律動によって揺さぶられ、情けない泣き声に変わる。
先程まで全く反応を示さなかったゲイナーの中心が、
敏感な部位への刺激と膝が崩れた所為であたるシーツの摩擦によって、次第に張り詰めていく。
やがて先走りの液まで滲み始めた少年のそこに男は気づいていたが、あえて前を弄らずに意地悪く後ろだけを攻めた。
 「…い…いや…、ぁ…ッ、も………」
身体も、思考も、自分の全てに男が入り込み、奥から丸ごと滅茶苦茶にされてしまう。
絶え間無くぞくぞくと全身を駆け巡る強い快感に、難解に組み立てられた考えはばらばらとあっけなく崩れ落ちていった。
ゲインに情けなく組み敷かれて、惨めに感じて、みっともなく喘いで。
結局女と同じなのだという事実を身体で教えられ、熱に蝕まれた頭で絶望する。
プライドを踏みにじられ、いいようにされて、そんな自分がたまらなく情けなく、それ以上に憤っている筈なのに。
 「…ほら、イけよゲイナー」
 「…ん…ァ、…ッ」
荒い呼吸と不規則に軋むスプリングの音しか拾わなかった耳に、ざらついたゲインの声が嘗めるように侵入する。
その言葉の意味を、朦朧と意識を飛ばしかけたゲイナーが理解するのを待たず、
男は背後から細い身体をきつく自分の方に引き寄せると、一際奥まで突き上げて、中に熱い体液を放った。
 「や…ッ……、…!」
 「………っ、」
その体温と感触によって全身にもたらされる快楽と苦痛に、
抱き込まれたゲイナーの肢体がビクン、と小刻みに震え、顔が涙で歪む。
相反する筈のそれらが相俟って作り上げる強烈な刺激は、少年の前を濡らすには十分だった。



拭いきれない、闇がある。
知らないふりをしてやり過ごそうとした結果、
闇は際限無く広がり、自分達と、取り巻く全てを呑み込んだ。

ゲインから解放されたのは、もう明け方に近い時間だった。
怠く重たい身体を起こし、ベッドから降りようとしたゲイナーの手首を、浅黒い手がゆっくりと掴む。
けれどゲイナーはそれを無視して、ここから離れようとした。
 「どこ行くんだ」
 「…シャワー。借ります」
けして後ろを振り向かず、相手に対し簡潔にそれだけ告げる。
本当はもう、喋りたくも無かった。早く全てを洗い落としたい。外側から内側まで、ゲインのつけたあらゆる全てを。
 「…もう少しここに居ろよ」
 「……」
眠たそうな声。しかしゲイナーはやはりそれに応えず、絨毯に両足を降ろした。
瞬間、少年の眉が曇る。その微かな動きで、中に出されそのまま留まっていた男の体液がとろりと内股を伝ったのだ。
一刻も早く浴室に行きたくて、手首に巻き付いている大きな手を振り払おうとするが、男は頑として離さない。
 「離して下さい」
 「嫌だ」
今度はきっぱりとした声だった。
後ろでシーツの布が擦れる音がしたかと思うと、
手首を掴んだままもう片方の腕が伸び、背後から全身を抱き込まれた。
ひんやりとした早朝の気温に馴染んでいたゲイナーの身体に、ゆっくりとゲインの熱が伝わっていく。
もう、あの時のように何もかもを奪い尽くす凶暴な体温では無かったけれど。
 「…僕はね、あんたが嫌でも行きます。女の人じゃないから」
自分よりも先に、相手がベッドを降りる事。
ゲインが何故かそれを厭うのを、ゲイナーは前々から気づいていた。
例え後から眠っても、必ずゲインはゲイナーよりも先にベッドから居なくなっていたし、
以前、今のようなこういう状況になった時も、適当に宥められたり、再び意識を落とされたりして結局はゲインが先にベッドを降りた。
これは予測でしか無かったが、女性と一夜を過ごした時もおそらくこんな感じなのだろう。
彼女達は優しいから、ゲインの事を好きだから、きっと彼の云う事を聞いてあげるのだ。
けれど自分は彼女達では無い。優しくもなければゲインの事を好きでもない。だから。
 「ベッドから降りる事だって、出来るんだ」
無意識に俯いてしまっていたのだろう、ゲイナーのあらわになった白いうなじにかさりと何かが触れた。
ゲインの唇だった。乾いたキスがそこに静かに落とされる。何の意図があってこんな事をするのか、ゲイナーには分からない。
けれど、深夜あれだけ乱暴な行為に強制的につき合わせておいて、こんな優しいキスをする、出来るゲインが、本当に憎たらしくて嫌だと思った。
 「あと少しだけでいい」
もう少しだけ。
声が、言葉が、振動となってゲインの唇から触れているゲイナーの肌に伝う。
全身が筋肉痛で、疲れきったゲイナーにはもう抵抗する力も残っておらず、背後から抱きしめられたまま、身動きも出来ずにいた。
指先を見ると、爪には乾燥しきった赤黒い血がこびりついている。ベッドから降りたい、ゲインから離れたい、全てを洗い流したい。
もう麻痺してしまって分からなかったが、ゲインが昨晩つけてきた酒の匂いや香水は、
汗や涙や色んなものと混ざり合って、彼を通じきっと自分の身体にも付着しているだろう。だから、落としたい。
 「……離してよ」
落としたいのに。
視線はいつしか絨毯の毛先をぼんやり見つめ、俯いたままで小さく呟く。
拭えずに、闇は深々と広がった。それなのに、馬鹿みたいにひどく感じた。
ゲインは、ゲイナーがどれくらい快楽に弱いかという事を、繋げた身体で知っている。
初めは頑なに警戒拒絶していても、一歩内側まで踏み込んでしまえば容易く落ちていく。
普段生意気な少年が泣いて快楽に屈服する瞬間。その様を見るのが楽しいから、ゲイナーを抱く。
彼にしてみれば格好の遊び相手なのだろう。互いが、否、ゲインがより快楽を得る為の相手としても。
ゲイナーはけして後ろを振り返らない。
激怒すればいいのか、軽蔑すればいいのか、もう、彼に対してどんな顔をすればいいのか分からないからだ。
けれど、うなじに触れる男の熱は、どうしてもかき消す事が出来なかった。

 

 

◆end◆

 

その後「傾ぐ」に続くんではないかと。