22.



無茶苦茶なのは承知の上だ。だけど考えるより先に声が出ていた。
この想いを少しでも分かってくれたなら、という淡い期待があったのも事実で。
好きだと叫んだ時は本当に無敵になったと思ったし、馬鹿みたいに気分が高揚した。彼女の事しか頭になかった。

だからこの決死の告白が、別の引き金を引いていたなんて、全く全然これっぽっちも気づかなかったのだ。



 「…ボルシチ、あります?」
扉を開けて開口一番、弱々しい声と共に室内へ入ってきたゲイナーは、
そこに居た相手の顔を見ると、挨拶も端折り当たり前のように空腹を訴えた。
あの時、シベ鉄の列車合流地点でこっそりくすねてきたボルシチとパンは、
ゲインに渡したきりそのままプラネッタとの戦闘に突入してしまった為、結局食べ損ねていたのだ。
 「机の上にあるだろ。俺も食べるから鍋に移して温めておいてくれ」
 「了解です」
踵を返し、とぼとぼとキッチンへ向かう少年の沈んだ背中を、ゲインは肩すかしを食らったような面もちで眺める。
普段なら、なんで僕が!と無駄に噛みついてくる事必至なのだが、珍しく今日はそれが無い。
コートを脱ぎ、途中だった着替えを終わらせてからキッチンへ出向くと、椅子に浅く腰掛けぼんやりしているゲイナーを発見した。
傍では火にかけっぱなしの鍋が妙な音と匂いを発し始めている。
すかさず火を切ると、ようやく気がついたのか顔を少し上げたゲイナーが、一拍置いてゲインさん。と変な間で名前を呼んだ。
 「焦がしたな」
やれやれ、と上体を屈め黒くなった鍋の底を覗き込んだ後、
ゲインが無事を確かめる為中身をかき混ぜていると、僕は間違っていたんでしょうか、とぽつりと小さな声が背中にぶつかった。
手を止めて振り返れば、眉を寄せ何かを考え込むようにしていたゲイナーと目が合う。
 「お姫様は目が覚めたのかい?」
確かあの盛大な告白の後帰還した彼は、仲間達と共にデッキで待ち構え、
恥ずかしさを通り越し殴りかかろうとした勢いで転倒してしまったサラの傍についていた筈だ。
こちらに来たという事は無事彼女の目が覚めたのだろうが、目の前の浮かない表情から察するに、どうやら少年の期待する展開には発展しなかったらしい。
お姫様、のくだりで露骨に嫌そうな顔になったゲイナーだが、そんな気持ちを切り替える為こほんとひとつ咳払いをしてから、話を続ける。
 「謝っても怒って全然話を聞いてくれなくて、そりゃ…まさかみんなに聞かれてるとは思わなかったけど、でも」
 「でも?」
 「ああしなきゃ僕らは勝てなかったと思うし、それに」
一番恥ずかしかったのは僕なんですよ…と、深い深い溜め息を吐く。
声に出した事で再び羞恥心が甦ってしまったのか、少年はそのままがっくりうなだれてしまった。
オーバースキルが効いていたとはいえ、本人も予期せぬ程スケールの大きな愛の告白になってしまったのは、
多感な年頃の少年少女にとっては本当に、何というか気の毒な出来事ではあると思う。しかしゲイナーの事だ。
こういう機会が無ければ、きっと相手に気持ちを伝えるのは随分先になっていたに違いない。
そう考えるといいチャンスだったじゃないか、とゲインは棚から食器を出し、
温まって底の少し焦げた深紅色のボルシチを盛りながら、ひとしきり慰めの言葉を掛けてやる。
いつものようにからかうには、どうやら今回ばかりは少年の傷が深過ぎるようだ。
 「ああいうのはなかなか経験出来ないぞ」
 「関係がこじれるんなら経験しない方が良かったですよ」
冷静に返ってきた言葉のもっともさに思わずゲインが噴き出す。
その揺れで、手にしていた皿に盛っていたボルシチを少しこぼしてしまった。
 「おっと」
 「あっ」
声が出たのは二人同時だったが、先に動いたのは意外にも今まで落ち込んでいたゲイナーだった。
まるで人が変わったように機敏に椅子から立ち上がると、ゲインの傍に大股で歩み寄ってくる。
 「脱いで下さい!」
 「へ?」
 「服ですよ!ついたでしょボルシチ。シミになるんですよ、早く」
脱いでと急かされそういう事かとテーブルに皿を置くと、たちまちゲイナーの腕が伸びてきた。
そのままぐいっとタンクトップを引っ張られ、有無を云わさず脱がされ掛かる。
視界が自分の身につけていた着衣の色で黒くなり何も見えなくなった空間の中で、
ああーいっぱい飛んでる!だの不注意なんですよあんた!だの色々と聞こえてくるが、
急いでいるのか余りにも乱暴に脱がせるので、ゲインは口も挟めない。
そういえばこいつ洗濯当番だったな、とようやく思い出した頃にちょうどタイミング良く視界が拓けた。
しかし解放はされずに何故かそのまま腕を引っ張られ、テーブルの傍にある椅子に座らされる。
 「こ、…今度は一体なんだ?」
汚れたタンクトップを小脇に抱えたゲイナーは、訊ねてきたゲインをじろりと睨みつけると、座っている彼の正面にしゃがみこむ。
先に汗を流してきたのだろうか、微かに濡れた茶色の髪からは柑橘系の匂いがした。
 「ズボンにも飛んでるんですよ。…なんだこれ、どうやって外すんです?」
バックルはたどたどしくも一人で何とか外したが、チャプスの構造が良く分からないらしい。
その上ベルトの両側に付いている重々しいホルスターが、指を動かすたびにぶつかって邪魔をする。
上手く外す事が出来ずに脚の間でカチャカチャと悪戦苦闘しているゲイナーの姿が可笑しくて、ゲインは再び噴き出してしまった。
 「何が可笑しいんですか」
 「いや、余りに熱心だからさ」
 「時間が経つと取れなくなっちゃうんですよ」
 「こういうのも新鮮でたまにはいいな」
 「何がです?」
 「お前に脱がされるの」
瞬間、ゲイナーの指がぴたりと止まる。訝しむように顔を上げると、ゲインが笑ってこちらを見下ろしていた。
しっかりと筋肉のついた浅黒い身体がやけに目につくのは、先程自分が彼の服をはぎ取ってしまったからだ。
 「なあゲイナー」
 「はい?」
次第にゲイナーの頭の中で占められているものが、洗濯関連から別のものに変わっていく。
少しだけ、男から距離を取ろうとしたが、そんな事を意識している自分が嫌で、あえてそこから動かず正面を向いたまま次の言葉を待った。
 「俺の告白はすっかり忘れられてしまっているようだが、返事は聞かせてくれないのかい?」
 「…あんたの冗談につき合う程、僕は暇じゃありません」
きっぱりとそう返してゲインのチャプスから手を離す。実は少しだけ、どきりとした。
ゲイナーは本当に彼の言葉を忘れていたからだ。忘れていた、というよりも心の何処かで流してしまっていたという方が近い。
けれど、ここで今それを思い出させようとする男の意地の悪さに少し腹が立っていた。
大好きなんだ、と彼は云った。そんな事を告げられても、正直漠然とし過ぎて意味がよく分からない。
しかし、そんなゲイナーの冷ややかな言葉にもゲインは動じなかった。
 「どうして冗談だって思うんだ?」
 「本気だって云うんですか?」
 「だったらどうする?」
いつの間にか笑みを消したゲインが真顔でぐ、と上体を前に倒す。
息が触れる程間近になった蒼碧色の瞳に呑まれ、言葉を返せずにゲイナーは口を噤んでしまった。
何か、答えないと。このままでは負ける。何か。
互いに質問を質問で返すという泥沼で不毛な会話だと、頭では分かっている。
黙ったら足元を掬われると分かっていたのに、硬直した喉からはまるで言葉が出てこない。
完全に、場の空気を取られてしまった。けれど互いに見つめ合ったまま流れる長い沈黙を破ったのは、ゲインの方からだった。

 「お前なあ、そんな顔するなよ。そこは『僕には好きな人がいるんです!』で断るとこだろうが」
よく見ると、すぐ傍の浅黒い肩口が小刻みに震えている。
 「…………は」
はあ。と未だこの状況を把握出来ていないのか、
小脇に抱えていた衣類をいつしか両手で握りしめ、間抜けな相槌を寄越す少年に、ゲインは苦笑混じりにやれやれと溜め息を吐く。
そんな彼の様子と、先程云われた言葉の意味を遅まきながら頭の中でようやく処理したゲイナーは、理解に至った瞬間勢い良く立ち上がった。
 「か、からかったんですね!」
 「まさか。あの時も云っただろ?からかっちゃいないって。俺は真意を確かめただけだ」
 「真意…?大っ嫌いですよ、あんたなんか!」
乱暴に云い返すゲイナーの頭の中は、自分でも良く分からない怒りで一杯だった。

一瞬でも彼の真摯な瞳を真に受けてしまった自分が、馬鹿みたいじゃないか。
突然見据えられて、まるでそれが別人みたいだったから驚いただけで、いつもと違うから。
だから雰囲気に呑まれ、次の言葉が出てこなかっただけだ。そもそもこの男が本気なんて言葉を使う事自体、間違っている。
いつだってこうして人を茶化して女性にもだらしがなくて。真剣に恋をした事があるのかだって疑わしい。
自分のサラに対する気持ちなんて全然分からないに決まっている。だから、からかったのだろうか。でも。

 「なら、どうしてさっきそうやって断らなかったんだよ」

でも。それならどうして頭の中で、自分はこんなに言い訳を繰り返しているんだ?

反論するより先に手首を強く掴まれた。
そのまま引き寄せられたが、バランスを崩して相手の首筋に顔がぶつかりそうになる。
ゲイナーは反射的に避けようと顔を背けたが、顎を掴まれ無理矢理唇を塞がれてしまった。
胸の中で暴れてもキスは更に強引に深くなるだけで、握りしめていた筈の手の中から黒いタンクトップが滑り落ちる頃には、
ゲイナーはもう、何も考えられなくなっていた。



 「…だからって、どうしてこういう事になるん、ですか…っ」
ゲインの寝室、ゲインのベッドで、何故かまたいつものように組み敷かれ服を脱がされかけている事実に、ゲイナーは憤然と非難を訴えている。
結局あの後、悔しい事に相手から仕掛けられたキスでふらふらになってしまった身体を軽々と抱き上げられ、辿り着いた先はこの場所だった。
それまでゲイナーの身体の自由を封じるように覆いかぶさっていたゲインだったが、ようやく顔を上げヒョイ、と正面に見える彼の眼鏡を取り上げた。
 「実地指導」
 「じ…っ」
その言葉を聞いたゲイナーの顔が、一気に蒼白になる。
忘れもしない、初めてゲインの部屋を訪れた夜、目の前の男はそう云って自分を強姦紛いに抱いたのだ。
そしてあれは絶対実地指導なんてものじゃなかった。男の自分には全く役にも立たない、ただゲインだけが楽しんだ行為だった。
今にして思えば、あそこから全ての歯車が狂ってしまったのだけれど。
 「もうその言葉には騙されません!絶対、あんたの好きには…っ」
 「安心しろ。今度は本気で手ほどきしてやる」
云いながら、ゲインは瞳だけで軽く笑うと、おそらく効果的な罵倒の言葉を考えているのだろう、
何か云いたげにきつく睨みつけているゲイナーに躊躇わず口づけた。背中に拳が飛んでも一向に気にしない。
何が本気だ。何が安心しろだ。この男の本気程信用ならないものは無いと、先程学習したばかりじゃないか。
それ以上に男の自分がこんな手ほどきを受けたって無意味だ。絶対無意味だ。
そんな気持ちも相俟って、もがくように激しく抵抗する両腕は、しかし難なく片手で捉えられ、あっさり頭上にひとまとめにされてしまった。
最初は唇をなぞるようだったそれは、その間にも舌を使って次第に深く、口の中に侵入してはゆっくりと蹂躙していく。
何度も交わしたキスだというのに、何故か必要以上にたっぷりと時間を掛けられ、ゲイナーは余裕の無い頭の中で少しだけ戸惑った。

いつもなら貪るようなそれが、今夜はやけに甘い。

気がつけば、唇を離れたゲインの舌はいつしか首筋を伝い耳朶の傍まできていた。
 「ちょ…、あ、あんたねえ…っ!人の話を聞いてるんですか?!」
わざと大きな声を出したのは意識をそこから逸らせたかっただけで、
息が触れるだけで身じろいでしまう身体を知られたくなかったからだった。
けれどゲインは暴れるゲイナーを無視して、唇を柔らかな耳に押しつけ舌でゆっくりと外郭をなぞり上げる。
ぬるい体温とリアルな水音が、すぐ近くで鼓膜の奥を震わせた。
 「……っ、」
きつく目を瞑ってその感覚をやり過ごそうとしたが、更なる行動にそれは全く逆効果になってしまった。
ゲインが組み敷いている相手のズボンをいつの間にか片手で器用に寛げ、下着越しに彼のものに触れたのだ。
これにはゲイナーも目を瞑っていられず脚をばたつかせて抵抗したが、その隙を見計らった男に耳を緩くかじられ動けなくなる。
筋張った指はゆっくりと布越しに這い回り、それはゲイナーが暴れれば暴れる程皮肉にも弱い部分に触れてしまい、じわじわと少年を追い詰めていった。
 「い…いい加減はなして、下さい…よ…っ」
 「離してもいいが、文句云うなよ」
 「……?」
何故そこで自分が文句を云わなければならないんだ、と耳許で囁かれるやけに落ち着いたゲインの言葉に更に腹が立ち、
頭上でくくられている腕を強引に解こうとしたちょうどその時、手首と自分の身体を押さえつけていた相手の重みが、ふわりと消えた。
そして、ヌル、と別の感触が下肢に広がる。
 「う…っわ…!!」
思わず上体を起こした瞬間ぼけた視界に飛び込んできた光景に、ゲイナーが盛大に裏返った声を出した。
ズボンを、下着をずらして露わになったそこに、ゲインが顔を寄せ舌を這わせているのだ。
 「なに!?なにしてるんですか!な…な…っ」
 「文句云うなって云っただろ」
そこから唇を離し、ぴちゃ、と濡れた音をたてながらゲインが事も無げにそう返す。
しかし現状についていけないゲイナーの耳には、声は聴こえているが内容は全く入っていない。
絶対おかしい。こんな事、絶対異常だ。なんでゲインが自分に。なんで。
ゲイナーの頭の中で、ちかちかと警告の黄信号が忙しなく明滅し始める。
以前、以前一度だけされた事があったけれど、その時はこういう状況下ではなくて。
ゲインがもっと一方的に、いや今も十分一方的だけど。なんというか、あの時よりも。
 「………、…ん…っ」
快感の度合いがけた違いで、ビク、と無意識に身体が震えて強張る。
舌はゆるゆると、けれど的確にゲイナーの弱い箇所ばかりを狙って愛撫しているからだ。
あの時とは違う丁寧さに逆に煽られ、奥底からほのかに湧き上がる緩い快感から逃れようと閉じ掛けた脚は、
それを予想していたのか、伸びてきた男の掌で簡単に阻害され、逆にぐ、と膝裏を掴まれ開かされてしまった。
唾液と先走りの液が混ざりあって濡れた音が男の口許から漏れ出すたび、ゲイナーはその羞恥にいたたまれなくなる。
それでなくても、もう散々口内でいじられた所為で中心は既に張りつめているのに。
 「…や…やめ…」
自由になった腕を伸ばし、深緑の髪を掴んで何とか相手を押し返そうとするが、ずるずると力が抜けて上手くいかない。
このままでは男の口の中で達してしまう。それだけは絶対に嫌で必死に制止の言葉を繰り返し、ゲインを遠ざけようとするのに、
それを知ってか知らずか、男の愛撫は限界へと導くよう更に深く、濃厚になっていった。
 「…ん、…く……ッ」
深緑の髪を絡めた指にぎゅう、と力が込められる。
駄目だ。理性はこの行為を全否定しているのに、それなのに、どうしてこんなに。
次第に追い詰められ、ゲイナーの耳は自分の浅い呼吸しか拾えなくなった。
そして、ぬめる舌が先端の窪みを刺激した瞬間、全身がびくりと硬直し、
放ってしまったものと同時に今まで頑なに耐えてきた彼の理性は、とろとろと溶解していった。

 「…ッ、は……ぁ」
起きないと。そして文句を云わないと。
霞が晴れクリアになった頭ではそう思っているのに、弛緩した身体を持て余したゲイナーは、その場から動く事も出来ない。
それでも意地で顔だけ持ち上げると、濡れた指で口許に付いた飛沫を拭っているゲインと視線が交ざった。
裸眼だというのに何故かコク、と上下する喉仏の隆起まで詳細に見えてしまい、余りの羞恥に飛び起きた。
が、目敏く気づいたゲインによって、そのまま身体は再びシーツへと押し倒される。
 「わ、ちょ、…もう、本当に、どういうつもりなんですか…っ」
 「なにが?」
 「実地だとか手ほどきだとか!僕はあなたの事が嫌いだって云ってるのに!」
無理矢理こんな事して!と云い掛けた口は、聞く耳を全く持たないゲインが仕掛けた行動により、あっけなく張り詰めた吐息に変わる。
ゲイナーをシーツに押しつけたまま体勢を元に戻したゲインは、白濁で濡れた指を相手の果てた中心にゆるりと搦め、
戯れに触れたかと思うと、予告無しにそのまま奥へと移動したのだ。
 「……っ、!…わ…ッわ!」
下手をすると潰されかねない体格差だ。そんな男に上からのし掛かられ、非力な少年は身動きひとつ出来ない。
かろうじてばたつかせた脚はそのままぐい、と力任せにゲインの肩へ担がれた。
そうしている間にも奥を探る指は徐々に侵入し、腹で粘膜を擦り上げながら、じわじわと内部を拡げていく。
人の意見や抵抗などものともせずに、着々と行為を進めていくゲインにとうとう耐えられなくなったゲイナーが、怒りに任せて叫んだ。
 「そ…、そもそもねぇ!卑怯なん、ですよあんた…!」
 「卑怯?」
 「プ、プラネッタのオーバースキルが切れた時に、大好きだって云われたって、結局本心見せるのが、嫌だから…っ、ふ、あ…ッ」
しかし勢いのあった罵倒の言葉は唐突に中をぐち、と指でかき回され、途中失速してしまう。
先程からずっといじられ、指を二本そして三本と増やされたそこは、
ゲイナーの意思に反し、たった少しの刺激だけでひどく敏感に身体を震わせた。
思わずゲインを突っぱねようとした腕は、片手で易々と手首を捉えられ、無防備な掌をぺろりと舐められる。
驚いて手を引こうとしたがびくともせず、そのまま指先、そして指の又をじっくりと舌で移動され、その度むず痒い快感が背筋を走った。
けして乱暴では無い。しかしそんな抱き方に慣れていないゲイナーにとってその感覚は未知で、自分がどうなってしまうのか分からない分不安だった。
 「…っ、や…やめ…、…ッ……」
後になって思えば、よりによってこの話題に戻してしまった事が運のつきだったのだ。
しかし冷静な自分が後悔するより早く、感情的な自分が先走ってしまったのだから仕方がない。
ゲイナーの云い分に耳を傾けながら、掌から顔を離したゲインは、緩慢に責める指を止めずに彼を見下ろす。
 「本心もなにも、あれで分からないお前が馬鹿なんだ」
 「ばかって…」
全然分かりませんよ、と上がった息で半ば自棄気味に投げ捨てると、開かされた脚の間でぬるり熱いものが肌に触れた。
それなのに、指はまだ抜かれない。いつものような性急さが全く感じられないその違和感に、少しだけ焦燥にも似た戸惑いを覚えた。
 「ま、どうせ言葉なんかじゃ通じないもんだがな」
呟かれた謎掛けのような一言を理解出来ず、素直に眉を寄せるゲイナーに対し、
ふ、と悪戯っぽく笑みを返すと、ゲインはようやく筋張った指を引き抜き、白濁の体液で濡れたそこに自身を押しつけた。
思わずゲイナーが恐怖に身体を硬くさせたが、今までたっぷりと解されたそこは微かな拒否反応を示すだけで、ヌル、と先端を受け入れていく。
 「……ぁ…っ、や…」
異物感と圧迫感。もう二度と味わいたくない痛みと、ゲインに長い時間を掛けて教えられた、それだけでは無い何か。
腰を掴まれ更に奥まで内を他人に浸食されて、再びゲイナーの意識の輪郭がじわりと曖昧になっていく。
嫌なのに、大嫌いなのに。爪先まで快感へとすり変わった甘い痛みに冒された身体は、そう思うよりも早くゲインの全てに順応した。
云い替えればそれは、全てに順応してしまう程、何度も身体を繋げてきたという事実を、ゲイナー自身の肉体で体感させられるという皮肉な行為だった。
本能とは裏腹にこんな最低な気分にさせるなんて、ゲインは絶対に自分の事を好きでは無いと思う。謎掛けのような言葉で、結局煙に巻いて。
本当に好きなら、こんな爛れきった関係になんてなったりはしない筈だ。
そう主張したくても、口から漏れる声は情けない程無意味な音の欠片ばかりで、一層ゲイナーを最低な気分へと追いやっていく。
それなのに身体は貪欲に相手を、快感を求めるのだからタチが悪い。
深々と埋め込み、今度は浅く引き抜きながらゆっくりと律動を開始する男の首に、かじりつくように汗ばんだ両腕が廻る。
無意識なのだろうゲイナーの仕草に、ゲインは微かに眉を上げ、その後ひっそりと笑った。
言葉だけでは本当の気持ちなんて通じないし、分からない。もしも相手の気持ちが分かったのなら、それは分かったつもりになっているだけだ。
先程少年に云った言葉に嘘は無かった。現実主義者のゲインにとって、言葉程移ろいやすいものは無い。
だから、それでもなお告白という愛の言葉で敵に立ち向かい、勝利を収めたゲイナーを純粋にすごい奴だと思った。
それをそのまま本人に云ってやれば簡単に済む話だったのだが、互いの捻れた性格上かつ爛れた関係上、ややこしくなってしまった。
否、わざとややこしくした、という方が正しいか。

抵抗の声も切れ切れに、今まで朦朧と熱に浮かされ、揺さぶられてその強過ぎる衝動に耐えるよう眉を寄せていたゲイナーが、
きゅう、ときつく目を瞑り、首筋に熱を帯びた額を押しつけた。もうやだ、と小さく濡れた泣き声が耳を掠める。限界が近い証拠だった。
前立腺の周囲を執拗に擦られた所為で、一度精を放った中心はひくりと起ち上がり先端を濡らしている。
握り込み、何度か掌の中で扱いてやるとそれは簡単に射精し、とろとろとゲインの指とゲイナーの下腹を汚した。
張り詰めていた緊張が緩み、少しだけ弛緩した瞬間を見計らって、ゲインも一気に奥まで擦り上げると、自身の限界を迎える。
 「………ッ、」
 「…って……!」
ぞくぞくと全身を駆け抜け、思考すら奪っていく程の強烈な快感。
しかし同時に鋭い痛みの走った肩口へ男が手をやると、懐かしいものが復活していた。
そう、せっかくややこしくしたのだから、怒られる事は覚悟の上で、もう少しこの関係を長引かせてみようか。
ゲイナーからもたらされた痛みの正体に、ゲインの口角は微かに意地悪く上がっていた。
全世界に向けた愛の告白も、その気持ちも立派だ。なかなか出来る事では無い。けれど裏腹に、勝手な事を思う。

こうして自分の力だけでは腕からも逃げ出せず、噛み痕までつけているような内は、成就なんかさせてやらない。



■end■

あれっ 独占欲?