11.
時々、この少年がさっぱり理解出来なくなる。
その不思議な感覚は唐突に、何の前触れも無く訪れて、
しかし結果として自分に少なからず影響を及ぼすのだから、なかなかに興味深い。
夜も更けた頃、バッハクロンで一息ついていたのだが、用事を思い出して戻った自室。
と云うには余りにも使っていないその寝室の、初めて見た時乾いた笑いしか出てこなかった馬鹿みたいに立派なベッドの上。
そこで、何の警戒もせずものの見事に熟睡しきっている少年を見下ろした時、腰に手を添えたまま無意識に口から溜息が出ていた。
ベッド脇を仄かに照らす照明を強くしても僅かに身じろぎしただけで、一瞬中断した穏やかな寝息はすぐに再び部屋の中に染み渡る。
室内は暖房が行き届いている為、ぶ厚いコートを脱ぎ捨て傍にあった椅子の背に掛けると、もう一度傍に歩み寄り、改めて寝顔を眺めた。
しかしここまで無防備に寝られると、逆に拍子抜けするな。
嫌がり、抵抗するゲイナーをここで無理矢理抱いたのは、そう昔の事では無かった。
こうしていると、驚きと怯えの入り混じった瞳で、自分の身体の変化についていけず眉を顰めた顔や、
肌の感触、吐く息の湿った熱さなど、脳内に残るその様々な記憶の断片が無意識に呼び起こされる。
ベッドの端に腰掛け、すうすうと穏やかな寝息をたてている少年の、湿り気を帯びた茶色の髪に軽く触れてみる。
細く柔らかいそれは少しいじるだけでするりと指先に馴染んで、ある種の不可思議な心地良さを自分に与えた。
視線を下に落とせばあどけない顔が視界に入り、眼鏡を掛けていないとこんなにも幼くなるのか、と内心少し驚く。
外している顔を見るのは、大抵いつも暗闇の中だったから。
それにしても。
こいつには警戒心というものが無いのだろうか。
組み敷かれながらあれだけ嫌だと喚いたクセに、それなら何故今ここで眠っていられるのか、その神経が分からない。
あれから出ていく気配も無いという事は、未だ部屋にはシベ鉄の女が住みついているのかもしれない。かといってそこに戻ろうともしない。
女性と共同生活、というのが17歳の少年にとってどれほど刺激的であるかは、同じ男として理解出来るつもりだ(あくまでも理解だけだが)
しかしあの夜ここの扉を叩いた時の、奴の女性に対する拒絶ぶりは、そういうものとは少し違っていたような気がする。
女が嫌いなのか?
そう思い興味本意で手を出してみたら、それ以上に苛烈に嫌がられた。
けして自分から合わせない視線、触れようとしない指先に、抱きながら気づいた。
人が嫌いなのか。
指先に絡めた髪の毛を解き、空いたその掌を無防備な頬に移動させる。
親指の腹で、固く閉じている薄い瞼をひと撫でしながら。
そう、最初は純然たる興味本意だった。
自分に対する反応が余りにも面白い、無知で生意気な少年に、知らず煽られていた。
昔から、来る者拒まず去る者追わずな主義だったので、男とやった事も無い訳では無い。
尤もあの頃は行為そのものよりも、その後の疲労感によって夢も見ず眠る事に心血を注いできたし、
実際それはそれで良かった。今となればそういう意味でのモラルが盛大に壊れていたのだと、自分でも思う。
しかしやはり女と寝る方が性に合っていたので、その辺のハメの外し方については昔に引き続き今もそう変わっていない。
女は温かく柔らかいから好きだ。
だから。
こんな少年に煽られている事に、欲望のまま抱いてしまった事に、
およそ自分らしくも無い突発的な行動に出た、あの夜の出来事について、
今でも微かな疑問のようなものが、頭の奥の方でくすぶるように存在している。
頬に触れていた掌をゆっくりと頤に、そして首筋に。
滑らかな肌に這わせながら音を殺してベッドに片膝で乗り上げると、
覆い被さるような体勢でぐんと距離が近くなった少年の耳の横に掌をついた。
反動でぎし、と鈍重に沈み込むスプリングの感触を楽しみつつ、そっと声を掛ける。
「おい、」
しかし呼び掛けてみても相手は微動だにしない。
そうして少し遅れた頃、むにゃ、と口許を動かしながら熟睡しきった深い息を吐き出された。
確かにこの部屋を勝手に使ってもいいと云ったし、スペアキーも渡しておいた。
五賢人達の善意の塊である、呆れる程豪華なこの部屋を遊ばせておくのはもったいない気がしたし、
ちょうどその頃ゲイナーは寝る場所を欲しがっていた。互いの利害が一致したから、彼を招いた筈だった。
別に下心なんて無かった。
けれどあんな顔をするから。
白い首筋に唇を押しつけながら、片方の手でTシャツの裾を器用にまくりあげる。
「起きろ」
本当は、一度きりで終わらせようと思っていた。
今までだってそうしてきたし、後腐れの無い相手の方が格段に楽だからだ。
互いの身体を重ねるのに余分な感情は邪魔になる。そして何より、無知な素人は最初から最後まで面倒臭い。
そう、思っていたのだけれど。
Tシャツの中に右手を忍ばせ、さらさらと清潔な素肌の感触を味わいながら、時間をかけた愛撫も無しに直接胸の突起へ触れる。
少し強めに抓ってやると、眠っている身体がほんの微かにぴくん、と震えた。
「…ん、」
「ゲイナー」
しかしこれくらいの刺激では目を覚ますまではいかないらしく、
少年は再び眠りの波に引きずり込まれ、安穏とした寝息が戻ってくる。
耳許で名前を呼んで、詰るようにその柔らかな耳朶に緩く噛みつきながら、
胸の奥でじわじわと息づき、拡がっていく暗く重たい熱の衝動を確かに感じた。
指の腹で執拗に捏ねるように撫で、そっと指を離して爪先で触れるか触れないかの距離で愛撫し、
組み伏せた身体が僅かに身じろぎした瞬間を謀って、うっすらと尖り始めたそれをグリ、と押し潰す。
「…っ……ふ、…」
未だ意識は夢の中なのだろう。反応は鈍く朦朧としているが、
ゆっくりともどかしそうに膝頭を擦る様子を眺めながら、胸許を弄る手をゆっくりと下腹に移動させ、ハーフパンツ越しに触れた。
当然ながら今は形を示していないそれを服の上からやんわり揉みしだくと、規則正しかった寝息が軽く乱れる。
しかしなかなか起きない。
初めはほんの悪ふざけのつもりだったが、ここまで反応が薄いと意地でも起こしたくなってくる。
部屋に戻ってきた当初の目的が大幅に変更されてしまっているのを自覚しつつ、けれど今更中断する気も無かった。
掌でじっくり丹念に愛撫してやると、布越しでも硬く、熱くなっていくのが分かる。息遣いの中、微かに混じる小さな声。
「…ぅ……、っん」
はあ、と半分程開いた口から苦しそうに息を漏らした直後、薄茶色の瞳がうっすらと開かれる。
朦朧と視線を彷徨わせながら、それでも自分の身体に蔓延る違和感を感じているのか、徐々に濡れた瞳に理性の光を宿していった。
「…はれ………ゲイン、さん……?」
何が起こっているのか全く分かっていない。
不思議そうに自分の名前を呟く顔がなんとも可笑しくて、笑いを押し殺したまま応えてやる。
「おはよう、青少年」
「………って、…へ?…なぁ…っ!なにやってんですか?!」
ようやく事態が掴めたのか、素っ頓狂な声でうわあと叫ぶと瞬時に上体を起こそうとする。
が、その薄い胸を空いている方の手で悠々といなしながら、中心に触れているもう片方の指にぐ、と力を入れた。
「…あ…っ、ちょ…!」
「ベッドの上でやる事といえば一つしか無いと思うが」
「って…だからってこんな事していい訳…っい…!やめっ…」
布地の感触を活かして指先でたっぷりといやらしく擦り上げてやると、
少年は自分の意志を完全に無視して襲う快感に耐えるように眉を顰め、きゅうっと唇を噛んだ。
ビク、と小さく跳ねる身体。
荒い呼吸を繰り返しながら咄嗟に立てた震える膝は、ずるずるとシーツの上で力無く崩れ落ちていく。
「…は…っ、…ぁ…」
「ようやくお目覚めかい?」
喉の奥で、低い笑いを漏らしつつ訊いてやると、
悔しそうな表情を浮かべた薄茶の両眸に、ギリ、と睨みつけられた。
「…なに、考えてるんですか…もう…最、っ低…だ…」
きれぎれの息を懸命に整え、必死に文句を云い放つその気概は賞賛に値する。
が、
「馬鹿面で眠りこけてるお前が悪い」
いい加減自覚してもいい頃だと思うが。
ここが安全とは最もかけ離れた場所だという事を。
「僕の所為だって云うんですか?…っ、わあ!」
憤りの声を上げたゲイナーの、力の抜けた細い腰に手を掛けてずるりとハーフパンツを剥ぎ取る。
下着と一緒に膝の辺りまでずり下がった衣類には、先程放った体液が白く飛び散り付着していた。
「………っ!」
下から覗き込むように見据えてやると、言葉を無くし、少年の顔が一気に羞恥で赤く染まる。
余りにも健全で正直な反応を得てしまったのでこれ以上からかう事は止め、膝の途中で絡まっている衣服をずるりと脱がしてやった。
「気持ち良かったんだろ?」
「全然!」
離せ、と下で肘を突っ張り憤然と抵抗を開始したが、そう易々と逃がしてやる気も無い。
力では絶対に敵わないという事を一番身に染みて理解しているのは、皮肉にもゲイナー自身なのだ。
「なら、どうすれば気持ち良くなるのか教えてくれよ」
と、耳許に吐息混じりに呟いて、そのまま舌でぴちゃりと耳の外郭をなぞり上げた。
「い……、っ」
生温い感触に思わず震える身体をじんわりと押さえつけ、
腕の中から出られないよう逃げ場を塞ぎながら、舌を敏感な耳の内部へゆっくりと這わせる。
「…っや」
「気持ち良くないんだろ?」
ならどうしてそんな声出すんだ。意地悪く囁きながら、舌先だけで相手をじわりじわりと追いつめていく。
「………ぅ…っ」
いつしか抵抗の為に握った拳は、ゆっくりとした間隔で与えられる狡猾な快感に耐える為へと代わり、過剰に握りしめたシーツに深い皺を刻んでいった。
しばらくは弱点である耳を攻めていたが、必死に息を殺し弱々しく抵抗を続けつつもゲイナーが陥落しかけている事を確認し、そっと唇を離す。
ピチャリ、と耳許ではぜた水音は、嫌でも聴こえてしまうだろう。
「……っ、僕は、男ですよ…?」
身体を下にずらし、無防備な太股に触れると、ひくんと素直な反応が返ってくる。
「知ってるよ」
小刻みに震え、頑なに閉じている脚を撫で上げながら、膝に掛けていた手に力を込め半ば強引に開かせた。
「じゃあなんでこんなっ…ぁ…、事、するんです…おっ男がすきなんですか…っ?」
これから何をされるのか。
今まで沈黙していた余り出来の良くない学習機能が一気に働き出したのだろう、声音が微妙に変化する。
出来ればもう少しスムーズにいきたいところだが、潤滑油の類はここから少し離れた場所にある。
今この雰囲気を断ち切れば、確実に逃げられるだろう。
狙ったものをあっさり手放すのは主義に反するので、片手を使い開かせた脚はそのままに、もう片方の手の指先を自分で舐める。
「時と場合によるかな」
抱かれるのは御免だが。
「意味分かんないですよ…!」
「分からなくていいさ」
今ここでは必要ない。そこで一旦言葉を切って、唾液で十分に濡らした指先をそっと内股に滑らせた。
途端ぎくりと小さな肩が強張る。
「い…っ」
こくりと息を呑む音。別に捕って喰う訳じゃないが、向こうにしてみれば捕って喰われた方がマシだと思っているのかもしれない。
濡れた中指で周辺を軽くつつき、そんな事を思いながらそのままそれをズルリと奥へ差し入れた。
「う、…ァ…!」
条件反射のように空を掻く腕を捉え、無理矢理首に絡ませるよう導けば、身体の密着度が更に高くなる。
「っあ、」
ヌク、と狭い内部を指でまさぐりながら身体を低く落とし、
身も世もないといった風にきつく両目を瞑っている少年の胸許をぺろりと舐め上げると、微かにボディーソープの味がした。
「いい加減慣れろよ」
「…っこん、なの、慣れる…訳……っ」
中指で内壁を撫でてやると、びくっと身体が竦むのが分かる。
それは感じているのでは無く、単なる恐怖心によってなのだろう。
しかし時間を使い解してやれば、徐々に快感の方が勝っていくのは目に見えている。
警戒心を剥き出しにしているクセに、一旦その内側に入ってしまうと、呆気無い程脆く崩れた。
それに加え、どうもこいつは流され易いタチだというのが、抱いて分かった事だった。
快楽に流され易い身体。
遊ぶにはもってこいだと思う。
そんな事を考えながら、奥を拡げる指を更に増やす為、中に収めていた指を引き抜いた。
自分が楽しむ為の準備を淡々と進めていると、頭の中にある冷静な思考が不意にひやりとした言葉を吐く。
遊ぶ為の相手なら他にも沢山いるだろう。
別にわざわざこの少年でなくても。
それでもこの少年を抱くのは、それは。
それは興味では無く、執着ではないのか。
執着。
突如自分の思考に足許を掬われ、搦め捕られて、動けなくなる。
その時。
「な…いでしょ!」
怒りを含んだ声が耳を掠めた瞬間、足の裏の感触と共に、鳩尾辺りに鈍い衝撃が走った。
「………っ!」
思わずシーツに片手をつく。
不覚だ。ここまで追いつめてしまえばもう抵抗はしないだろうと踏んでいたところで、手厚い反撃を喰らった。
モロに入った痛みに身体が浮いた、その一瞬の隙をついてゲイナーが身体の向きを変え、
ふらつく脚で起き上がろうとするが、しかしこちらもこんなド素人の蹴りで倒れるような鍛え方はしていない。
軽く息を整え腕を伸ばし、未だベッドの上でもたついている少年を後ろから緩く羽交い締めにする。
「っ離し…」
「今のは上手いな。だが攻撃したらすぐに逃げろ。でないと捕まるぞ」
言葉通りあっさりと捕まり、それでも必死にもがくゲイナーを背中ごとゆったり胸の中へ引きずり込み、
脇に潜り込ませた腕を下にずらして、腰骨の辺りにしっかりと巻きつける。
「い、…やだ!」
胡座を組んだ脚の上へ後ろ向きのまま無理矢理座らせると、後ろ髪からちらちら覗く耳の端が赤く染まっていくのが見えた。
柔らかなそれにそっと唇を寄せると、火照った熱がそこから伝わる。
腰に置いていた掌を、引きずられる力に負けシーツに投げ出されてしまった脚にまつわらせ、
そのまま膝裏に手を差し入れて持ち上げると、抱きしめていた身体が派手にびくりと身じろいだ。
「や…っ」
「嫌なら逃げればいい。さっきみたいに」
勿論、もうそんな事が出来ないように、動きを封じ強烈な快楽を指で与えながら。
「…っあ……、ぅ…」
しっとりと掌で包み込み、強弱をつけ扱き上げる度唇から漏れ出す、感じる自分を否定する声。
けれど慣れない身体は正直で、呼吸は次第に浅くなり、後ろから持ち上げた脚が小さく震え始めている。
奇妙な征服欲、それが満たされた達成感に思わず暗い笑みが浮かぶのを自分でも感じながら、
解しかけて放置してあった奥に指を二本差し込み、円を描くようにゆるりと掻き混ぜてやれば、不規則に響く粘りけを帯びた水音が耳を楽しませた。
「…ぁ、あんたなん、か…大、…ぃ…、っ嫌い、…っだ…」
「別に好かれようと思っちゃいないさ」
無造作に指を引き抜き、座ったままでベルトを外してジッパーを下ろした。
乾いた唇を舌で湿らせると、くたりと足の先まで力の抜けた身体の脇の下辺りに手を差し入れ、軽く持ち上げる。
悪態も吐き疲れようやく全てを諦めたのか、自分の身体の変化に直面してそれどころではないのか、抵抗らしい抵抗は無かった。
「……、っやめ…」
抱えていた身体をゆっくりとそこに落としていく。
座ったまま後ろから抱くこの体勢だと表情を見る事は叶わないが、その分深く、奥まで貫く事が出来る。
それに今日は、顔を見たい気分ではなかった。
「い…ッ!……いた、…っい…」
「力抜けって」
「…んなの、できな…っ…、ん、ぅあ…っ」
泣き言を聴きながら一気に根元まで挿入すると、それでも異物の侵略を拒むように内壁がきつく締まった。
こうして、嫌がって抵抗すればする程こちらが気持ち良くなるというこの最悪なからくりを、少年が理解するのは何時だろうか。
なんにせよこれが全て無意識なのだから面白い。
「…っ…は…、」
落ち着いた頃を見計らい、軽く揺らしてやると、
俯いてその衝撃に耐えているのか、赤く染まったうなじに浮かんだ汗がツウと伝い落ちた。
こちらから表情は見えないが、密着した肌である程度の変化は分かってしまうものなのだ。
互いの吐息、濡れた水音、静かな衣擦れと伝う鼓動。
様々なものが混じり合いながら、そこで溶けていく。
一つの事しか考えられなくなる、理性も本能も灼けつくこの瞬間が好きだった。
ベッドに入るまでの駆け引きなんて無意味だと、この少年を抱いた時、初めて思った。
その段階を飛ばしてまで抱きたいという衝動。熱を引きずった頭で後悔しながら、けれどその手を止められなかった。
溺れているのは、
「…っあ…」
掠れた声。ビク、と肩胛骨の辺りを引き攣らせながら前を濡らし、それは絡めていた指をみるみる汚していく。
その白い体液を指の腹でなじませるように掬い取ると、そのままシャツをたぐり胸許をなぞった。
粘つく感触が直接乳首に触れ、嫌がって身体を捻るが、膝の上でのその動きは更に深く奥を抉る事になる。
「っ…ゃ、……やだ…もう、…っや」
出口の無い快楽の中に迷い込んだまま、もうゲイナーは甘さを含んだ拒絶の声しか出せない。
耳を濡らす吐息混じりの、無意識だからこそいやらしい声に、それだけで持っていかれそうになる。
されるがままで、感じるだけしか出来ないこの腕の中の身体を、自分は自分が思う以上に結構気に入っているのかもしれない。
自身が放ったものを塗りつけ、執拗に嬲り、反応してしまった胸の先端を弄りながら、内壁を擦り上げ今度は己の快楽だけを追った。
興味か執着か。
それとも単に暇潰しの遊びなのか。
もうここまできてしまうと、先程捕らわれてしまった思考すら正直些細な事のように思えてくる。
そんな自分は、やはり人を幸せには出来ない種類の人間なのだろうな、と何処か酷く冷静な頭で思った。
薄暗い部屋を照らしていた、ぼやけた明かりを消し、シーツを手早く直して椅子に掛けてあったコートを引き寄せる。
くたびれたそれに無造作に腕を通しながら、ベッドの中で死んだように眠っているゲイナーを、入って来た時と同じように見下ろした。
頭まですっぽりと掛け布にくるまっている所為で、判別出来るのは濡れた茶色の毛先だけで。
意識を手放しても尚自分を受け入れようとはしないその頑なな姿勢が、いっそ快い。
また嫌がらせのような書き置きでも残していってやろうかとも思ったが、流石に本気で怒られそうなので止めておいた。
出ていかれては遊べなくなる。
机の引き出しを漁り、目的のものをコートのポケットに突っ込んで寝室のノブに手を掛ける。
瞬間、ボフッと後頭部を襲った衝撃。
何事かと降り返って見ると、床にぽつんと枕が落ちていた。
起きていたのか。
ベッドの上の盛り上がった掛け布は微動だにしない。
けれど自分にこんなものをぶつけられるのは一人しかいない。
後ろから抱かれ、爪痕すら残せなかった奴なりのささやかな反撃に、思わず口許に笑みが広がる。
「寝たフリするなよ!」
溺れているのは、どっちだ?
■end■
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流されゲイン、流されゲイナー。
どっちも溺れ過ぎだよ!と云いたい。