「…なんだァ?」
扉を開き、部屋から姿を現したゲインは予想した通りの反応と台詞を口にして、
目線大幅下に位置する少年を、見下ろした。
居心地悪そうに其処に立っている、深夜の来客。
リュックを背負ったゲイナーサンガ。プラス枕付き。
「何やってるんだ、少年」
「アデット先生が僕の部屋を占拠しちゃったんです」
口早にゲインの質問に答えるゲイナーの瞳からは明らかに不満の色が見て取れる。
「誰かに泊めて貰おうと思ったんですけど、」
次第に小さくなる声と、それに比例するようにうなだれていく首。
(…タイミング悪く、全員アウトだった。という訳か。)
察しの良いゲインは、面白そうにゲイナーのつむじを眺めた。
頼みのベローの部屋は今や人一人入るのが精一杯の乱雑さだし、ママドゥ先生は忙しいらしく捕まらなかった。
ほんの一欠片の希望を託してアナ姫の住居ユニットにも行ってみたものの、当然の如く家庭教師リュボフの断固阻止に遭い、
………その後しばらく放浪した結果、行き着いたのが、此処だった。
「イイじゃないかアデットと寝りゃ」
俺ならそうするぞ。
「嫌ですよ」
「サラのトコはどーだ?」
「もっと嫌です!!」
ガバッと上げた真っ赤な顔には(何を云ってるんだこの人は!)とばっちり書かれ、
壮絶に否定する仕草が何とも可笑しい。ゲインは肩を震わせながら、少年の肩を軽く抱き寄せ部屋に招いた。
「しょーがないな、入んな」
というか、馬鹿な奴だ。というべきか。
「僕だって来たくて来た訳じゃありません。不可抗力です」
じゃなきゃ誰があなたなんかの部屋なんか…ブツブツ呟きながら、
毛足の長い絨毯の上に、着替え類が入っているのだろうリュックをドスンと置くゲイナーの後ろ姿を確認して、
男はそっと扉の鍵を閉めた。
(面白い獲物が手に入っちまったな。)
そんな事を、考えながら。
「シャワー、どうも有り難うございました」
薄茶色の濡れ髪をタオルで拭き取りながらバスルームから出てきたゲイナーが、
忽然と姿を消してしまった部屋の主をキョロキョロと探していると、
「おー」
寝室の方からやる気のない生返事が聴こえた。
(それにしても…。)
手に持っているタオルで曇りを拭った眼鏡を掛けると、
少年はぐるりと部屋の中を一望してから、無意識に感嘆にも似た溜息を吐く。
(なんでこんな豪華な部屋に住んでるんだ、この人…。)
自分の住居とは比較の対象にすらならない。一人で住むには余りにも広い。…盛大に散らかってはいるけれど。
ガタ、と寝室から響く物音に、ようやく我に返る。
とりあえずリビングには小さな灯りだけを残して、声のする方へと向かった。
寝室も馬鹿みたいに広い。
(ていうか天蓋付き!?)
「驚いたろ?アナ姫さん並の扱いなんだよ、請負人ってのは」
視線を移すと、ゲインはベッドの横にしつらえてある机上に行儀悪く腰掛け、何かの地図を広げ難しい顔をしている。
机に乗せてある、古めかしくも仰仰しいランプだけしか、この部屋に光源は存在しなかった。
「何やってるんですか?」
「行路の確認。それと迂回路の確保だ」
目線を地図に張り付けたまま、ゲインは空いた手でちょいちょいとベッドの方を指差した。
「俺の仕事はもうしばらく掛かる。お前は先に寝てろ。場所空けとけよ」
「あ…はい」
少しだけ、楽になる。
男女に限らず、ゲイナーは人の肌に触れる事が苦手だった。
それ故、『一緒の場所で寝る』という事を極端に恐れる傾向がある。
何時肌が触れ合っても不思議ではない距離に居る他人。
その、他人の肌の持つ感触が、熱が、自分に触れたらと。そう考えるだけでも身体が竦む。
そんな状態、ただでさえ耐えられそうも無いのに、相手はあのゲイン。
けれど彼は自分にベッドを譲ってくれた。彼が寝る前に自分が寝れば、不快感に苛まれずに済む。
「それじゃあ、お先に寝させてもらいます」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ペコリと律儀に礼をすると、持ってきた自分の枕を大きなベッドにセットして眼鏡をベッドサイドに置く。
そろそろとシーツを持ち上げ、中に入った。
…どこもかしこもフワフワして、落ち着かなかった。
「…おい」
「…」
「おい、ゲイナー」
「…」
「俺がイイ男だというのは俺も認める」
「…」
「しかしそんなに見つめられると流石に困るんだが」
「…!誰が見つめてなんか…!」
持っていた地図を乱暴に机に置いたゲインが
ガタン、と椅子から離れる。
「眠れないのか?」
そして、指が、髪に。
「ち…違います!」
触れられる寸前、反射的に顔を背け、起き上がった。
図星だ。
彼の云う通りだった。先に眠りにつこうとしたのだが、
慣れないベッドとゲインの部屋という何時もと違う環境に、妙に神経が冴え、眠れなくなってしまった。
かといって起きる事も出来ず暇だったので、
請負人の仕事を珍しく真面目にこなしているゲインの横顔をこっそりと観察していたのだが…バレていたなんて。
「…これはまた露骨に嫌がるねぇ」
呟いたゲインの瞳が、鈍く光った…気がした。
「嫌だから、です」
「泊めてやってるのに、その云い草か?」
ギシ。
ベッドの端に男の膝が埋まる。ゲイナーが、不穏な空気を読み取るのと、腕を捕まれたのは、ほぼ同時だった。
「なっ!…にするんですか!」
「どーにも無礼なガキを、躾直してやろうと思ってね」
余りの俊敏さに追いつけなかった腕は、両方共がっちりとシーツに縫い付けられている。
「躾…って、僕は犬や猫じゃない!」
憤慨するゲイナーの真正面、片眉を上げてゲインが意地悪く笑う。
「そいつは失礼した。それでは云い方を変えよう」
「…?」
「お前が余りにも馬鹿な上、生意気だから、」
犯したくなったんだよ。
獲物を狙う野生味溢れた両眸が、愉しそうに弧を描いた。
そしてゲイナーは、自分が如何に危険な男の懐に入り込んでしまったか、この状況になって初めて理解した。
「お…犯すって僕は男ですよ!…っわ!」
反論した途端シャツが上にたくし上げられ、白い肌が露わになる。
ザラリ、と唐突に男の舌で鎖骨を舐められ、身体がビクリと震えた。
「……っ」
「実地指導してやるよ、彼女とやる時役に立つぜ?」
「何をっ……!、て、ちょっ…、こ……こんなの変…だっ」
常識に、がんじがらめに捕われている少年の悲痛な叫びは、消え入る程に、弱い。
舌が乳首に到達する。身を捩って逃げようとする身体は太い片腕に拘束されたままで、
容易くゲインの下に組敷かれている。ひ弱な自分は、ゲインの片腕にさえ勝てない。唇を噛んだ。
「何が変なんだい?」
「…だ…っ、僕…男なの…に、…んッ」
ぬる、と。
小さな突起を口の中に含まれ、その生温い温度と感触が堪らなくて、泣きそうになる。
「男なのに、こんなトコ舐められて、感じてるのが?」
「…んぁ…っ」
含んだまま、喋られる。
その微かな振動が正体不明の刺激となり自分に伝わって、思わず腰が浮いてしまった。
「ち、ちが…っ」
「何が違う?俺に舐められて、感じてるだろう。…ほら」
もう片方の腕が、何時の間に忍び寄ったのか、ゆるりと股間を撫でた。突然の出来事に息を詰める。
「もうこんなだ。…タマってたか?青少年?」
「う、うるさ、…ンンッ!」
布越しに強く擦られ、浴びせようとした文句が途切れてしまった。
「ま、責任取ってきっちりイかせてやるよ」
ゲインが手際良く、下着ごとハーフパンツを脱がしていく。
ヒヤリとした外気に晒されたゲイナーの中心は熱く、より強い快楽を求めるようにヒクリと頭をもたげている。
脚に絡みつく衣服の布の感触だけが、やけにリアルだった。
「…あ…っ、あんた…ほんとにサイテーだ…!」
「そりゃどーも」
其処に手を這わせると、ぬるりと先走り液が指に絡み付く。
緩急をつけて扱いてやれば、耳まで紅潮しているゲイナーの顔が、僅かに歪んだ。
「最低…っ、さいあく…っん…、…も…嫌、い…………っ、ァ…!」
快感を振り切るように悪口を列ねていた唇は、無意識に込み上げてくる嬌声にかき消され、
そして一際甘い声を放った直後、ビクビクッと身体を震わせ、ゲイナーは達した。
「いい子だ」
白い残滓に濡れた右手をペロリと舐め上げながら、ゲインは今だ肩で荒い呼吸を繰り返している少年を見て微笑む。
「…も、やです…もー寝る…僕は寝るんだ」
既に腕を外し、両腕は拘束から解放されているのだが、
それにも気付かないのか半泣きで譫言のように呟くゲイナーの顔にゲインは自分の顔をそっと寄せた。
「…も、ねます」
「駄目だ」
「なんで…?」
眼鏡を外している所為で顔が良く見えないのか、
ゲイナーが眉を寄せ、潤ませた薄茶色の瞳を細めてゲインを見つめる。
「…あのな、こんな顔見せられて寝れる訳ないだろうが」
だからコイツは馬鹿だというのだ。
無意識とはいえ煽っている事にも気付かない。
その癖自分に近付いてくるのだから…タチが悪いったらない。
「そ、そんなの僕のせいじゃないです…」
「お前のせいだよ」
何を企んでいるのか、ゆるゆると覆い被さってくる大きな男を撥ね退ける力なんてある筈が無い。
ただでさえ先程の強い快楽の余韻で、指先にまで甘い痺れが残っているのだ。
と。
突然両脇に腕を突っ込まれ、ヒョイっと体を反転させられたかと思うと、
ゲイナーは何時の間にかベッドに胡座をかいたゲインの脚上に軽々とうつ伏せの格好で乗せられてしまった。
「…!なにす…っ」
まるで子供が悪い事をして、お仕置きされるような。
その体勢に酷似していて、ゲイナーは恥ずかしさに慌てて上体を起こそうとした、瞬間。
「…っ!?」
考えられない場所で、何かが蠢いている。その違和感に一気に全身が総毛立った。
「何!何!何してるんですかゲインさん…!!」
「さー何だろな」
「ちょ…っ何はぐらかして…ってえぇ…!」
指が。
ゲインの筋立った指が
ズル…と埋め込まれたその場所は。
「まァ、ちと気持ち悪いが我慢してろよ」
「な…っ何を呑気に…!離して下さい!」
「慣らしとかないと辛いぞ」
「い…っ!」
クリームか何かを塗ったのだろうか。
ゲインの武骨な指先はその姿に反してぬるりとスムーズに滑り、狭い入り口をじわじわと侵食していく。
史上最高に気持ち悪い。
青くなりながらも必死に膝の上から逃げようとするが、動くと同時に中に在る指が進む。
「…ぅ、…っ、く」
更に動く度、胡座をかいて座るゲインのズボンの生地に自分のものが擦れ、微妙な感覚が生まれるので、困る。
逃げたくても、逃げられない。
知らず知らずに目の前の枕を鷲掴みにする事で、このままならない気持ちから意識を逸らそうとした。
「こ…んなトコ、に…?」
恐怖で冷たくなりながら、それでも尋ねずにはいられない。
ぎゅうと首を捩って不安そうに訊いてくるゲイナーが妙にしおらしくて、思わずゲインは苦笑してしまう。
「…そう、ココに」
含むようにそう答えると、クチュ、と濡れた音を立て、指を二本に増やした。華奢な身体がピクンと引き攣る。
「…んぁ…っ」
ヌク、と奥深く指を呑み込んだ其処から僅かに生じた、不快感だけでは無い、何か。
それをゲインは見逃さない。ゲイナーが反応を見せた場所を、指の腹で擦り上げる。
「…!わ、あ…ッ、や。ソコ、やです…ッ!」
其処を弄られるだけで身体は大袈裟にビクビクと震える。余りの刺激の強さに怖くなり、ゲイナーは必死で首を振る。
その動きの所為で、口角から伝った一筋の唾液が、強く掴んだ枕の布にじゅん、と浸みて、みるみる色を変えていく。
「男でもちゃんとココで感じるようになってる。別に何にも変な事じゃない」
ただ、受け入れる側はちょっとキツいけどな。
ゲインが震える薄茶の髪の毛を優しく撫でながら、容赦無く指を三本に増やした。
「……っ!」
グチュ、と卑猥な音と共に入っていく指。時間を掛けて徐々に慣らされたせいか、痛みは無く感覚は麻痺している。
既に両膝に力は入らない。崩れそうになる身体を太い腕で支えられ、ゲイナーは奥で動く異物を感じながら、二度目の精を吐き出した。
「…ひ…っ、…ぅ」
「…っと。ズボンが汚れちまったな」
気付いたゲインが指を引き抜き、何事も無かったように呟いたが、
そのままゲイナーを自分の膝から下ろすと、
「責任取ってもらうぞ、ゲイナー」
何時もと違う、情欲に濡れた低い声で、仄かに色づいた耳許へと囁いた。
「…ゃ、」
だらしなくシーツの上に放り投げられた少年の右腕をそっと掴み、
手首に指を這わせ顔を近付けながら、その手の甲に恭しくゲインが口づけを落とす。
まるで彼に似つかわしくない、洗練された何処かの国の王子のような仕草。
そんな事を霞掛った頭で考えている間に、両脚がゲインの肩に抱え上げられる。
「力、抜けよ」
その宣告の後。
ゲイナーは余りの激痛に、本気で泣いた。
「〜〜〜!む、無茶です、こんなの入る訳な…っ、無理!痛い、やだ…!!」
もはや恥や外聞など置き去りにして盛大に喚く。
先程までたっぷり自分の恥部を晒け出してきたのだ。今更取り繕ったってどうにもならない。
指三本とゲイン自身では大きさ、質量共に違いがあり過ぎる。絶対不可能だと思う。それなのに。
ゲインはゲイナーの抗議を聞いていないのか、否、聞き流しているのか、ゆっくり、ゆっくりと腰を進めていく。
「ゲイナー」
「なんです…っか…」
息絶え絶えに、それでも律儀に返事をするゲイナー。瞳からは痛みによる涙が溢れて止まらない。
入り口を割り広げられるだけでこの圧迫感。熱い。身体が二つに引き裂かれるんじゃないかと思う。
名を呼んだ男の瞳。不思議なその色が涙で歪んでぼやけて見えない。彼の瞳の色は…嫌いじゃなかった。
「ゲイナー」
「だから…何…っ、んぅ……、」
耳許で何度も自分の名前を呼ぶ。その掠れた声も、本当は嫌いじゃなかった。
無意識に、その浅黒い肌に腕を廻している自分が居る。
こんな激痛をもたらしている張本人にささやかな報復とばかり、其処に爪を立てて。
「…ほら、入った」
熱い吐息。
中に、ゲインが。
「………気分はどうだい?少年」
からかうように問い掛ける意地の悪い男を睨みつける。けれど痛みで意識は今にも飛びそうだ。
「…っ、いたいです。気持ち悪いです…も、頭のなか、ぐちゃぐちゃ…」
浅い呼吸を繰り返しながら、それでもきちんと質問に答える少年の瞼にひとつ、キスをした。
「………もっとぐちゃぐちゃにしてやるよ」
そんな物騒な事を、艶のある声で云わないで欲しい。
挿入してしばらく動きを止めていた男が、次第にじりじりと、動きを再開させる。
痛みに翻弄される身体。けれど緩慢に繰り返される律動が、その痛みを違うものにすり替えていく。
「…っあ、………やだって…ソコ……っ、」
放つ言葉に反して、その焦れた動きをもっと強請るように、僅かに腰が揺れた。
指で弄られるだけで、あれだけ感じてしまったその場所を、今度はゲイン自身で擦られる。
激痛と快感は紙一重、そして同じものなのだと、繋がった身体で教えられた。
「…ゃ、も…う……」
「おっと、俺も御一緒させてくれよゲイナー君」
限界が近い事を知らせれば、馬鹿みたいに呑気な言葉で返された。腹立たしい。
こんな男にこんな事されてるなんて、本当に腹立たしい。ゲイナーは必死で唇を噛み締め、声を殺す。
けれどその努力を嘲笑うかのように、次第に激しくなる抽挿。打ちつけられる肌。
繋がった部分から漏れるいかがわしい程濡れた音に耳まで犯されている錯覚に陥る。
先程達してから全く触れられていなかった筈なのに、
恥ずかしいくらい屹立している前をゲインに目敏く発見され、空いている手で扱かれた。
前と、後ろと。
「…や、……ぁ!」
「…っく、」
同時に責められ、下腹部から背筋に掛けてゾクゾクっと電流が駆け上る。
少し遅れて、ドクン、と中で熱い迸りを感じた。官能を含んだ顰め面のゲインと、一瞬だけ目が合った、気がする。
輪郭がブレた視界に拡がる、深緑。
それが彼の髪の毛だと確認するより早く、ゲイナーの意識は色を失くした。
「………ぅ、」
眩しい。
鳥の声。
人の声。
ゲイナーの頭の中でそれらが全て繋がるまで、かなりの時間を要した。
薄く目を開けると、見慣れない景色が現れる。驚いて上体を起こした瞬間、即刻撃沈した。
「………………ったぁ…」
ズキズキと痛む関節。腰。そして内奥。
一体何事かと必死で昨夜の事を思い出して、更に撃沈した。
(…あ、あいつと…。)
最後までは口に出せない。というか出したくない。出したら再び意識がふっ飛びそうだ。
理性を取り戻す為、傍に置いてあった眼鏡を掛ける。クリアになった視界で辺りを見回したが、あの男の姿は見つからない。
少しだけ安心して、少しだけ不安になる。…今何時だ?
あの大きな机に置いてある時計を首を伸ばして見てみると、授業開始時刻はとっくに過ぎ去っている。
はああ…と溜息。どっちにしてもこんな身体じゃ学校のあるユニットに辿り着く前に倒れそうだけれど。
頭痛で重たい頭を抱えつつ、チラと自分の寝ているベッドを一瞥する。…小綺麗に片付けられ、昨夜の証拠は消されていた。
(後始末とか、あいつがやったのかな………当たり前だよな。うん。)
うん、自分は悪くない、うん。と1人さっさと自己完結しているゲイナーの瞳に、あるものが映る。
ベッド横に置かれている棚の上。硝子の小瓶と、一粒の錠剤、そして紙切れ。
そろそろと起こした身体をそちらに捻り、紙切れを手に取る。ゴチャゴチャと汚い、癖のある字が目に入った。
『痛み止めと水。今日は寝とけ。』
簡潔に書かれたそれは、簡潔過ぎて逆になんだか有り難かった。
白い錠剤を口に含み、小瓶に入った水で喉まで押し流す。棚の上に瓶を戻すと、その振動でヒラリと紙切れが舞った。
その裏側に見えた文字に、ゲイナーの顔がみるみる歪んでいく。
『昨夜は素敵だったよ、Honey』
前言撤回。
(少しでも有り難いなんて思った僕が馬鹿だった…。)
情けないのと恥ずかしいのと腹立たしさと、複雑な思いに苛まれながら、
ゲイナーは勢いよくベッドに沈んだ。とりあえず寝る。寝てからあいつを殴る。絶対殴る。
どこもかしこもフワフワしたベッドにくるまれながら、序々に薄れていく意識の中、そう思った。
あれほど落ち着かなかったベッドが不思議と心地良くなっている自分に、ゲイナーはまだ、気づかない。
◆end◆
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14話まで見た後、熱に浮かされたように書きました。
ゲインさんがワイルド過ぎてびっくりですね。Honeyてアンタ。