一体どういうつもりで、とか。なんでこんな事、とか。

投げつけたい言葉は全て無抵抗の喘ぎに変わってしまって、物事の輪郭が醜く暈けた。
ゲインが奥を擦り上げるようにして、半ば強引に内部を抉る。
ただそれだけ、そんな単調な動きで、身体は意思に反してビクリと大きく震える。
その反応を肌で感じたのだろう、暗闇の中で自分を組み敷く男が勝ち誇ったように笑った。
 「気持ちいいのか?」
掠れた声でからかうように訊かれても、ただ目を瞑って首を横に振るしかなかった。
その答えにゲインがまた、小さく笑う。音も無く、吐息だけで。
途端に上半身が軽くなり、ズル…と中から彼のものが抜かれたのが分かった。
出ていく瞬間、全身にぞわりと拡がる何ともいえない感触に、唇を噛んでひたすら耐える。
これは嫌悪だ。それなのに、快感の最中に放り出された身体は、もう自分の云う事なんてききはしない。
 「なん…で…」
理性を無視して口が勝手に疑問の言葉を紡ぎ、非難の眼差しを相手にぶつける。
ギシ、とベッドが軋む音。ゲインが顔のすぐ脇に片手をついた所為で僅かにそこが沈んだ。
 「だって気持ち良くないんだろう?」
 「…ッ」
意地の悪いそれに返答が出来ず、黙ったままで動向を探るが、
男は先端でぬるりとそこをなぞるだけで、絶対に入れてくれなかった。
ゆっくりと押しつけられる。条件反射で息を詰める。なのにゲインは動かない。
そこから先はお前がやれ、と口に出さずに彼は態度で示すだけだった。何度も。
 「ゲイ、ン…」
本当に、どういうつもりなんだ。なんで自分がそんな事を。
羞恥にくしゃりと顔が歪む。何もかもままならなくて、相手の思い通りにされて。
なのに名前を呼んでいた。執拗に繰り返される焦らすようなその動きに、身体が先に音を上げる。
 「もう…」

耐えられなかった。

 「もう?」
切羽詰まった限界の末に出た言葉を、相手がゆっくりと繰り返す。
余裕を見せつけるような態度に腹が立っている筈なのに、
身体の方は貪欲にそれを欲しがる自分のアンバランスさを呪い、
そんな自分自身に訳が分からなくなって、その結果何故か涙腺が緩んだ。
 「…ぅ……っく」
 「ゲイナー?」
意地悪く行動を促す声。返事も出来ずにただ弱く腰をゆらす。
泣きながらこんな恥ずかしい事をするなんて、信じられない。考えられない。
それなのに、自分で擦りつける度、頭の中から自制心がとろとろと溶けていく。
いつからこんなに弱くなってしまったのか、快楽に溺れるようになったのか。
中途半端な快感がもどかしくて歯がゆくて、気づけば太い首にかじりついていた。
皮膚に触れる熱い体温。筋肉に覆われた浅黒く硬い身体。これは、紛れもない男なのに。
紛れもなく、ゲインなのに。
 「……ッ、あ…」
不意に、頼りなく空に上がっていたふくらはぎを掌でなぞられ、それは膝を伝う。
そのまま太股を掴まれ、無遠慮に開かされた。
 「本当に素直じゃないな」
泣く程気持ちいいクセに。
正面に見えるぼやけた喉仏が微かに隆起する。
声も出さず静かに笑う男をにらみつけ、反論の言葉をぶつけようと開きかけた口は、
ズ、と突然濡れたそこに熱くぬめった先端が侵入した事によってあっけなく失敗に終わった。
張り出した部分が強引に中を押し拡げ、狭い奥へと進んでいく。
先程まで確かにそこに埋め込まれていた筈なのに、それは新たな快感となって肌を粟立たせ、全身を蹂躙した。
 「…っぁ、や…ゲイン…ッ、」
浅く深く、動かされるたびぞくぞくと背筋からうなじにかけて刺激が走った。
ゲインによって中途半端に放り出された快感が、ゲインによって再び身体の中で繋がれていく。
駄目とか嫌だとか、頭に浮かぶのは否定の言葉なのに、開いた口から伝う唾液と共に零れ落ちるのは、
男の名前と、後は意味を成さない不明瞭な声ばかりだった。

全部ゲインの所為だ。ゲインがこんな事をするから。だから。

 「……ん……ッ、」
痛いくらい張りつめた前を、律動のたび硬い男の腹筋で擦られる。
きつく抱き締められている所為で、その腕の中から逃げ出す事は不可能で。
何度目かのそれで、耐えきれずビクリと背中が仰け反った。気づいた男が耳許で笑う。
 「なんだ、我慢出来なかったのか?」
飛び散った白い体液を指で搦め取りながら、射精したばかりのそれを握り込む。
 「…ひ…ぁ」
唐突に触れられ、思わず引けた腰は更に深く抉り込むようなゲインの動きで無に帰した。
萎えている濡れた中心を嬲るように指の腹で愛撫され、奥は探るように前立腺の辺りをなぞられる。
許容量を越える怖いくらいの快感に、いっそ悪意すら覚えた。
中に出される他人の精液。その感触の生々しさに無意識に眉が寄る。
嫌悪している感情は本物なのに、動けない程の充足感に満たされている身体。

何もかもアンバランスで、訳が分からなくて、その結果緩んでいた涙腺は決壊した。