なんで。

と、思う。いつも。

 

 「…っ…い……ぁ……」

抱かれるたびに、いつも。
暗がりの中で、無様に床へ這いつくばらされ縋るものすら無く、
ただそれを突き入れられ掻き回され甘く弱くいやらしい声を上げる。
 「…あ…っ…は、ぁ……」
汗と涙と唾液でぐしゃぐしゃになった顔なんて、こんな闇ではきっと見えない。
その手で匂いで感触で声でどれだけ感じてしまっているのかなんて、ゲインにとってはどうでも良くて。
背骨に沿って這っていく生ぬるい舌から逃がれようと、引きかけた腰はぐっと掴まれ無情に戻される。
 「…ひ……ッ、や、…っや!」
だらしなく開いた口から出る否定の言葉程真実味の無いものはない。
それを知っているからこそ、無視してぐり、と強く内壁を擦り上げてくる。
何度もそれを繰り返される度、びくびくと跳ねる身体を上から押さえつけるように、
まるで抱き込むような格好のそれは、余りにも互いの肌が密着し過ぎてその分快楽は増しても、気持ちが悪かった。
境界線がなくなりそうで。自分と相手の区別がつかなくなりそうで。ざわざわと不安で。怖くて。
 「嘘つけ」
 「…や、だ…ッ、ゲ…イ、ン……っあ、」
不意に前を触られ、きゅう、と握られる。
そのまま揉みしだくように擦られて、ひっと上擦った声が漏れてしまった。
けれど屹立したそれは突然の刺激に呆気なく射精を迎えてしまう。彼の掌の中で。
耳朶に掛かる緩い吐息。は、と掠れた笑い声。
 「俺に触られて」
 「…や…っ」
 「感じてるんだろ?ゲイナー」
 「…ぃ…っちが……、ッう、」
前立腺の辺りを集中的に探りながら、けれどじっくりといたぶるように責められて、
動かされるたびぞわりと全身を蝕む強烈な快感に涙がぼろぼろ伝う。泣きたくないのに。なんで。
 「もう女となんか出来ないな」
面白くもなんとも無い絶望的な言葉を、可笑しそうに囁く。
ちがう、と否定した。
 「サラとも」
否定した唇からは、感じ過ぎて唾液がとろりと伝い落ちた。
 「誰とも」
ぶつかり合う肌の音はとても猥雑で、そこから漏れるぐちぐちと濡れた音はもっと酷くて。
違う。これは合意の上じゃない。無理矢理抱かれて。それなのに。
強請るように揺れる腰に汗で湿った手を這わせながら、ゲインがまた笑った。
 「お前は俺しか駄目なんだよ」
ズ、と一際奥まで貫かれて、わざと避けていたのだろう一番弱い部分を内部で思い切り擦られた。
とんでもない快感の波にただ打ちひしがれるしかなく身体を震わせ、中で出される熱い体液を呆然と感じる。
それでも、みっともなく喘ぐ声に混じって、馬鹿みたいにうわ言のようにちがう、と云い続けていた。ずっと。
何が違うのかなんて全然分からないし、きっともうそれすらも見失ってしまったというのに。
 「俺じゃなきゃ駄目なんだ」
だったら、なんで。
自分は他の女も抱くくせに。
なんでそんな事を云うんだ。馬鹿じゃないのか。なんで。
独占欲だけ力任せに押しつけてがんじがらめに縛り付けて。

大嫌いだ、と思った。
あんたなんか、大っ嫌いだ。

 

嘘でもいいただその言葉を聞きたいのに。