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ウルグスクでは見る事の出来なかった星を。
「備品のチェック、済ませておきましたよ」
ざくざくと何処までも続く砂を踏みしめ、
バサリ、と乱暴に濃緑の髪の上に書類を落とす。
黙々と銃のメンテナンスをしていた男は、妙な声で唸った。
それでもすぐに意識を銃に戻してしまった彼のつむじを見下ろすと、
そこからちらちらと混じる白いものに気がついて。悪戯心も相まって。
おもむろに隣に座り彼の頭に手を伸ばし、白いものをプツリと引き抜いた。
この行動は流石に無視出来なかったのか、身体を捻ってこちらを睨んでくる。
「痛いじゃないか」
「増えましたね、白髪」
意地悪く云ってやったが、事も無げに鼻で笑われた。
「苦労を背負ってるからな」
物凄く露骨に自分の方を見ながらそう答えると、
調子を確かめるように、持っていた銃身にするりと掌を滑らせていく。
そんな何の変哲もない、彼にとっては当たり前の仕種が、妙に艶っぽいと思う。
「…」
筋くれだった長い指。
それで何度その引き金を引いて。
何度人の命を奪い、窮地を救ってきたのだろう。
「…?なんだ、落ち込んだのか?」
まだそんな可愛げが残っていたのか、と笑いながら、くしゃくしゃとその手で髪をかき混ぜられる。
彼の、目を細めた時にうっすらと浅黒い肌に刻まれる細い皺が、これまで過ごしてきた年月を代弁していた。
そんな訳ないでしょ、とその大きな掌を撥ねつけたらまた笑われた。いつまで経っても子ども扱いで本当に嫌になる。
「ゲインさん」
ぽつりと名前を呟く。もう何度呼んだか知れない名前。
海を渡り豊穣の地に着いて、エクソダスは終わった筈だった。
白いコートを自分に譲り、また新たな土地へと向かう請負人を勝手だと詰って。
僕はまだあなたに借りを返してません、と馬鹿みたいな意地を張って、駄々をこねて。
結局今こうして一緒に居る。
彼と、エクソダスをしている。
この選択が果たして正しかったのかは分からない。
だけどあの時、振り返ったあの背中を見た時、一人で行かせたくないと思ったのだ。
そして、子どもじみたエゴと我侭でついて行ったのだとしても、もうそれを笑えるくらいには年をとってしまった。
「ここから見えますか」
吐く息は白く、闇の中焚いた火とその周りだけがぼんやりと薄赤い。
オアシスに近いとはいえ、そこは一面の砂漠だった。彼の故郷もこんな風だったのだろうか。
「ん?」
指を差す。空を仰ぐ。
一面の星、その中に、彼の名を冠するそれが。
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