みなさん、こんにちは。ラプタです。
僕はラップをするMCですが、ラップを乗せる楽曲を作るトラックメーカーでもあります。
HIPHOPの楽曲を作るうえで最も有名な機材の一つにMPC2000XLがあります。
ここでは、このMPC2000XLを僕なりに使った使用方法を紹介したいと思います。
この記事にMPCを宣伝する意図はなく、中傷する意図もありません。
使用方法において自由度の高い機材の、ほんの一例の紹介だと考えてください。
僕はMPC2000XLを中古で購入しました。購入時はエフェクトボード非搭載でしたが、後日購入して増設をしました。内臓ハードディスクはFDですが、故障しています。外付ドライブはSCSI接続でMOを、ディスクは230MBを使用。
OSは1.2で、2004年7月15日付です。
一曲ごとにフォルダを作成して、その中に曲のすべてのファイルを入れるようにしています。
1.セーブ(SHIFT+ENTER)の際に、ROOTフォルダをOPEN WINDOWで開き、NEWで新規フォルダを作成。
2.TypeからSaveAllPrograms&Soundsを選んで保存。これで録音したサンプルとプログラム設定を保存します。サウンドファイルの保存は、WITH SOUNDSとWITH.WAVが選択できますが、.WAVのほうで保存しています。
3.TypeからSaveAllSequences&Songsを選んで保存。これでプログラムしたシーケンスとソングデータを保存します。
4.名前の変更がない場合、REPLACが上書きを意味します。
MPC初心者はセーブでつまづくという話を聞きました(もはや昔の話ですが…)。サウンド部とシーケンス部で2度のセーブが必要というところが最初は難しいかなと思います。全部セーブしたつもりでいて、ロードしたらシーケンスデータだけだったなんて泣けますね。
1. セーブした曲ごとのフォルダからロード(SHIFT+3)します。デバイス、フォルダを選んだら、フォルダをOPEN WINDOWで開きます。
2. FileからALL_PGMS(.APS)をDO ITでロードします。
3. FileからALL_SEQ_SONG1(.ALL)をDO ITでロードします。
一曲につき、やはり2度のロードを行っています。
MPCを使用したライブをおこなっている人には使えない方法かもしれませんが、曲単位で制作を進めているので、この方法で管理しています。
サンプリング(SHIFT+4)は、ほとんどCDでおこなっています。
ドラム音はラック音源やリズムマシンの使用が多いです。
InputはANALOG、ModeはMONO、Thresholdは0、Timeは10.0s、Pre-recは100msです。サンプリングは通常モノラルでやっていますが、オートパンのかかったものなどはステレオで録っています。ジャズやファンクなどを抜くときに、狙った楽器がパンニングの都合で、LRどちらにたくさん含まれているか、探して作業しています。ステレオで聞くと他の楽器とかぶった音でも、LRそれぞれで聞くとクリアに抜けたりします。スレッショルドを設定したトリガー録音ができますが、使いません。サンプル当たりの録音時間は10秒あれば足りています。サンプル録音後は、作業効率を上げるため、仮置きですが各パッドにアサインしています。
ドラム音は、キックがPAD1、スネアがPAD2、ハイハットクローズがPAD5、オープンがPAD6…というように定番の位置に配置しています。
全ての録音したサンプルをまずTRIM(SHIFT+5)しています。
トリムはサンプルの再生スタート位置を決める作業で、St(スタート)、End(エンド)を決定したら、余分な部分はEDITでDISCARD(削除)しています。SHIFT+ピッチスライダーで、St・Endの設定を早く行うことができます。OPEN WINDOWを使用して、シビアな設定をしています。この時、St・Endポイントを波の中央(クロスポイント)に持っていくようにするとプツッというノイズが入るのを回避することができます。
トリム作業で発音前に録音時の余白を残しておくと、後でシーケンスをレコーディングした時に、余白の分だけ発音が遅れるため、自然なヨレがうまれたりします。たまに使う手法ですが、ヨレは理論上だけで実際どの程度ヨレが発生しているかまでコントロールできていないのが実情です。レコードからサンプリングする場合、発音前のノイズが余白に入ってくるとそれが心地良かったりします。トリムの編集にあるLOOPは使用していません。
ZONEからはスライスができ、ウワネタを作る時に使えます。
先に要らない部分をトリムで消しておき、ZONEで分割していきます。分割を増やしすぎると後で整理がつかなくなるので、多くても8つまでぐらいの分割にしています。できる人なら増やしてもいいところ(最大16まで)だと思います。
PARAMSのLevelでは録音したサンプルの音量を上げることができます。ミキサーは、音量最大の設定をデフォルトとしているので、音量を上げる機能はここだけになります。(MPC1000はノーマライズ処理ができます。)少しでも大きいレベルでサンプル録音を行うように心がけています。Tuneはサンプルの音程を変えることができますが、僕は各パッドごとの設定で音程を変えているのでここは使用していません。
トリムを済ませたサンプルは、プログラム(SHIFT+6)によって各パッドへアサインし、音の鳴り方を調整します。ASSIGNの画面でパッドを押すと、押したパッドに応じてPadとNoteの数値が変わります。PadはA,B,C,DのPADBANKを指し、Noteはパッドの位置を指します。Snd:の箇所に鳴らしたいサンプルを選択してアサインします。
Pad/Noteの画面でOPEN WINDOWを押すと、パッドの並びで一覧して操作できるので、素早くサンプルをアサインできます。Pad assignはPROGRAMに、ModeはNORMALに設定していて、ここを変更したことはありません。
アサインを済ませたサンプルは、PARAMS画面で細かい編集をします。まず、〈Envelope〉でAttack(立ち上がり)とDecay(衰退)を操作します。僕はほとんどのサンプルにアタックとディケイを設定します。この設定で、トリムで切れなかったノイズを消すことができます。すべてのサンプルにアタックは3以上、ディケイは必要に応じて5以上を設定します。取扱説明書に、ドラムなどにはAttackを大きい数値で使用しないほうが良いと書かれています。アタックの設定によって音の頭が削られ、パンチのない音になるためだと推測できます。この点にはできるだけ注意してアタックを設定しています。ディケイは長尺のウワネタなどに設定すると音が徐々に減衰し、サンプリングに特徴的な、音の切れ目の違和感をなくすことができます。ストリングスやベース音のサンプルには必ず設定します。
Dcy mdは衰退が、サンプルの最後に向かって設定した時間で衰退する(END)か、アタックの設定時間直後に衰退する(START)かを決める設定です。特殊な場合を除いてENDを設定しています。
サンプルを並べてシーケンスを組んだ後、ウワネタの印象が強く感じたり、ウワネタが分厚く感じた場合、アタックとディケイの設定し、ウワネタを丸い印象に変えています。アタックの数値は10までの操作でもかなり印象が変わります。
〈Envelope〉の数値内でOPEN WINDOWを押すと、ベロシティモジュレーションを設定できます。これを設定している人は少なそうですが、非常に面白い機能だと感じます。パッドを叩く強さに応じてアタック値、スタート位置、(ベロシティ)を変えることができるというものです。
▲ベロシティモジュレーション。押す強さによってサンプルのスタート位置が変化する設定。
アタック値を上げると、叩く強さが弱い場合、アタック時間が長くなり、叩く強さが強い場合、アタック時間が短くなります。例えば、一つのウワネタをリズミカルに8分音符で全ての拍にシーケンスする場合、1拍目だけ強く叩き、後の7拍分を弱く叩きます。そうすれば、1拍目はネタを印象付けるようなアタックの短いパンチのある音になり、2拍目以降は、音が小さく、アタックタイムが長いため他のネタと干渉しないような印象の薄い音になります。
スタート値を上げると、叩く強さが弱い場合、スタート位置が後になり、叩く強さが強い場合、スタート位置が前になります。例えば、ピアノのすぐ後にギターの音が入っているサンプルで設定した場合、強く叩くとピアノから再生され、弱く叩くとギターから再生することができます。ウワネタの尺が小節の尺に足りない場合、弱いベロシティで遅いスタート位置のサンプルを継ぎ足してサンプルの印象を変えながら尺を伸ばすといった使用ができます。シーケンスのレコーディング時には、パッドを押す力加減で異なるベロシティが入力されるため、サンプルのスタート位置も異なり、直感的でランダムなプログラミングができます。上記の2つの機能を使えるようになると、パッドの入力に対して「アタック・スタート」と「音量」が同時に可変するのに煩わしさを感じます。特にウワネタで使用する場合、パッドを叩く強さに応じて「アタック・スタート」の値だけを可変させたいと考えるはずです。その場合、Attack・Startの下のLevelを0に設定することで、音量を変化させず「アタック・スタート」の値だけを変化させることができます。
〈Filter〉はMPCが得意とする音の加工の一つです。2000XLの搭載はローパスフィルターで、Freqの値を下げていくことで高音を削り、こもった音にすることができます。Resonは、Freq値の周辺を持ち上げ、音を特徴的にする機能です。
フィルターは主に、キック、ベースの音に使用します。キックの音で80、ベースは場合によっては50~20まで切ることもあります。スネアも80まででまれに使用します。どの音に使用してもヌケは悪くなりますが、「どこかで聞いたあの音」というような独特な音に変化します。Resonは音のバランスが崩れるので、まれにベース音をブーストする時以外は使用していません。
〈Filter〉でOPEN WINDOWを押すと、フィルターのエンベロープ設定ができます。先ほど設定したFreqの値に対して、Attack、Decayの設定に基づき、時間差でフィルターをかけることができるのです。Amountを100にしてAttack、Decayの値を操作すればその変化が感じられるはずです。僕はこの機能を制作で使ったことはありませんが、特徴的な音が作れます。Tuneでは各サンプルの音程を変えることができます。パラメーター10で半音分のキーが変化します。音程の変更に依存してサンプルの長さも変化します。
レコードプレーヤーを45回転の設定でサンプリング、もしくはドラムマシンでキーを上げておいてサンプリングし、MPC内でTuneを使いキーを落とす。これは昔からある有名な手法で、ザラついたローファイな音が作れるそうです。サンプリングマシンの記録容量が少なかった時代には、ピッチを上げることで記録時間を短くさせる効果もあったとのことです。僕はこの手法を使っていませんが、有効な方法だと思います。
PROGRAMの編集で最も重要な値にVoice overlapがあります。これはパッドにアサインしたサンプルの鳴らし方の設定です。POLYは押すたびにサンプルが再生され、重複した部分も二重に再生されます。MONOは押すたびにサンプルが再生されますが、重複した部分は再生されません。初めに押したサンプルは、後から押した時点で、再生が止まります。NOTE OFFは、パッドを押している間のみサンプルが再生されます。
ドラムなど、サンプルの尺が短く、重複部分も表現したい場合はPOLYを使用します。
ウワネタなど、サンプルの尺が長く重複を避けたい場合はMONOを使用します。ベースは必ずMONOを使用しています。NOTE OFFは使用例を耳にしますが、音の切れ目が気になるので使用していません。
Voice overlapの設定箇所でOPEN WINDOWを押すと、ミュートアサインを設定できます。設定したパッドを押すことによって、他のパッドの再生を停止できる機能です。▲ミュートアサインの設定。上が「親」で下が「子」となる。
ミュートアサインでは、停止する「親」に対して、停止される「子」を2つまで設定できます。例えば、ピアノの次にギターをつなぎたいとします。しかしピアノの尺が長く、ギターを入れたいタイミングになってもピアノのサンプルがまだ鳴っている。ギターのタイミングでピアノを止めたい場合、ギターを「親」、ピアノを「子」としてミュートアサインを設定するのです。そうすれば、ギター発音のタイミングでピアノは停止できます。一つの「親」に対し「子」は二つまで設定できるので、ピアノとオルガンを「子」に設定すれば、ギター発音のタイミングで、この二つの楽器を止められます。
ミュートアサインは、相互に設定することもできます。ピアノを「親」としてギターを「子」に設定。一方、ギターを「親」としてピアノを「子」に設定すれば、一方の発音のタイミングでもう一方の再生を止めることができます。
実際には、同じ楽曲から抜いたサンプルで、パターンAとパターンBを用意し、AとBを交互に鳴らす際などにこの機能を使います。
PROGRAMの他の機能、DRUM、PURGE、AUTOは使用していません。
プログラムの設定が終わったらいよいよシーケンスの組み立てです。
MPCにはパッドを叩くリアルタイム録音と、一つづつ数値を編集するステップ録音がありますが、MPCの醍醐味はやはりパッドを使用したリアルタイム録音です。僕はステップ録音はシーケンスの修正程度の使用しかしたことがないので、リアルタイム録音についてのみ取り扱いたいと思います。
パネル下部のPLAYSTARTはシーケンスの始めから再生するキーです。
PLAYは停止している位置から再生するキーです。STOPは停止キーです。
RECキーは、PLAYキーかPLAYSTARTキーと同時に押すことによって録音を行うキーです。RECキーの録音は上書き録音となり、各トラック上で録音を上書きします。
OVER DUBキーも、PLAYキーかPLAYSTARTキーと同時に押すことによって録音を行うキーですが、上書きはおこないません。入力分を足して録音します。
実際の録音では、ほとんどをOVER DUBキーでおこなっています。
上にあるLOCATEセクションでは、小節・ステップを進める/戻すことができます。詳細な修正を加えたい場合以外は使用していません。
オーバーダブ録音を行う途中、EREASEボタンを押しながら、パッドを押すことでそのパッドの入力を削除できます。パッドごとに消せるので便利な機能です。UNDO SEQはひとつ前のシーケンス録音を戻すことができます。非常によく使う機能です。画面左上の数値はBPMです。いつも適当に設定しておいて、サンプルの尺やドラムの印象で変更しています。Countはメトロノームの有無の設定です。OPEN WINDOWで各種設定できます。SOUNDで音色をサンプルに変えれますが、デフォルトのCLICKを使用しています。
Tsigは拍子でまれな例を除いて4/4、Barsは小節を意味し4~8の長さで始めます。
LoopはONに。
Timingはクオンタイズ値を指します。クオンタイズとは、入力した音符を、小節の中の音符割の線上に自動補正してくれる機能です。簡単に言うと、パッドを叩いたタイミングのズレを補正してくれる機能です。その補正をどの音符を基準に行うかを設定します。
▲Swing%値の設定画面
ほとんどの場合、1/16か1/32で録音します。Timingが1/8か1/16の設定でOPEN WINDOWを押すと詳細設定ができ、ここに注目してほしいSwing%という値があります。これはクオンタイズ値から任意の数値をずらすことでシーケンスに「ズレ」を発生させるものです。この値の操作が曲の「グルーブ」や「ヨレ」に影響を与えます。
僕はドラム録音を以下の手順でおこないます。
1.スネアを1/16スイング50、FULL LEVELで録音。
2.メインキックを1/16、スイング55~60、ベロシティ値で録音。
3.ハイハット(金物系)を1/16、スイング60~75、ベロシティ値で録音。
4.サブキック、メインキック(足したい分)をTiming:OFF、ベロシティ値で録音。
このSwing%の設定画面は、録音したシーケンスを修正するための画面なので、Swing%設定後にDO IT(実行)すると全てのノートがSwing%値に修正されます。任意のPADを修正したい場合は一番下のNotes:の値に修正したいPADを入力し、DO ITをします。
リアルタイムで打ち込んでシーケンス録音をおこなう場合、Swing%値を設定した後、CLOSEでメイン画面へ戻らなければいけません。ここでDO ITをしてしまうと、パートごとのSwingパーセント値が一括修正され、一致してしまうため、パート間のズレを作り出すことができません。
キックはFULL LEVELで録る時もありますが、変化をつけたい場合はベロシティで打ちます。
この後ウワネタを組んで、ウワネタに合ったベースを録音します。
録音の際には、各シーケンスをトラック分けすることができます。Tr01から次のTr02へ変更するだけで録音トラックを分けることができます。
録音トラックごとにミュートする機能があるので、ミュートも考慮に入れてトラック分けを行っています。例えば、曲の途中でスネアだけを8小節分抜きたいとします。キックやハイハットと同じトラックで録音していると、スネアだけを抜くことは難しいですが、スネアだけで1トラック作成していれば、トラックのミュートボタンを押して抜くことができます。
HIPHOPのトラック作成の場合、キック・スネア・ハイハット(金物系)でトラックを分けておくのが利口かもしれません。
ベースなど音程をつけたい楽器は、16LEVELSで音程を変えたサンプルをパッドに並べることができます。これはアサインとは別で、あくまで録音用の仮置きといえるでしょう。16LEVELSを押し、Noteに並べたいサンプルを選択します。選択できるのは一つだけです。ParamにNOTE VARを選択。ここでVELOCITYを選択すると、強弱の違う同じ音程のサンプルが並ぶことになります。TypeのTUNINGのOriginal key pad:は4~13までで選択できます。4の場合、右下のパッド4がサンプルと同じ音階になります。ここから±10ずつ進んでいく計算になるので、パッド1は1音半下がり、パッド16は6音上がる計算になります。13の場合。パッド1は6音下がり、パッド16は1音半上がる計算になります。つまり、4の場合は原音より高い音へ広がり、13の場合は原音より低い音へ広がるということです。間をとるならば8か9の設定でということになります。ベース音はサンプル音より低い音で使うことが多いので13で設定しています。
16LEVELSの下にあるTRACK MUTEで、録音した各トラックのミュートをリアルタイムに操作できます。
シーケンスが一通り組めたら、Sqの選択部分でOPEN WINDOWを押します。シーケンス1をここでCOPYして、シーケンス2にし、シーケンス2を追加/変更していく…といった流れで曲を作っています。SONGモードを使うとシーケンスをつなげて一曲にできますが、僕はNEXT SEQを使用してシーケンスの小節を数えながらつなげてCUBASE(DAWソフト)に録音しています。
シーケンスを組みながらMIXER(SHIFT+7)で音量・定位(パン)・エフェクトセンド量を調節します。ミキサーセクションでエフェクトの設定もおこないます。
STEREOでは各パッドの音量と定位を設定できます。
MPCの操作からは話がそれますが、僕がよくやっている音量・定位調節の方法を紹介します。
ミックスはドラムのパートからおこない、最初はキックとスネアの2音をセットで考えます。キックの音量をまず最大で鳴らして、スネアの音を足し、2つの音量差を比較してみてください。キックよりスネアが少しだけ小さくなるようにします。キックが100点だとするとスネアは90~95点のイメージです。次にハイハット(金物系)を足し、スネア同等か、スネアより小さくなるようにします。HIPHOPのDJプレミア作品などを聞くと、ハイハットの音量は抑え目に感じます。
ドラムの調整後、ベース、ウワネタを足します。ベースはキックとの音量差で、ウワネタはスネアとの音量差でバランスをとっています。ベースとキックはどちらを優先させるか割り切って決めるようにしています。ベースを強調させる場合は90点~100点の音量で、キックを優先させる場合は70~80点ぐらいでのミックスをしています。ウワネタは必ずスネアより前に出ないようにします。
2000XLにはレベルメーターがないので、ミックス作業には使用者の操作法とミックスセンスが反映されやすいと思います。個性を引き出してくれるところに愛着を感じます。
定位はほぼ全てセンターです。サンプリングや、プログラミング、シーケンス作成の上で、意図的に左右を意識して作った部分だけにパンを設定しています。以上の方法で作業すると、キックを最大音量としたミックスが出来上がりますが、実際マスターアウトへ送られる量の確認はできないので曲によって差ができています。CUBASEへは、曲ごとにMAIN VOLUMEを調整して録音しています。メインボリュームのツマミ調節位置によってマスターにかかるリミッターの量が変化するという話を聞いたことがあります。録音した波形をノーマライズして比較しましたが、波形の概観からは変化を感じませんでした。
FXsendではエフェクトセクションへの送り量を設定します。エフェクトチャンネルは複数のエフェクトが使えるマルチが2つと、リバーブのみ独立したリバーブチャンネルが2つで、各パッドごとに選択できます。送り量は最初0になっているので、メーターで上げる必要があります。
FXeditでは、各エフェクトのルーティングと詳細設定をします。Editではチャンネルを選びます。各エフェクトの種類でOPEN WINDOWを押すとエフェクターの詳細設定ができます。各パラメーターの効果とルーティングについては、説明書に詳しく書いてあるので割愛し、自分がよく使用しているところを紹介したいと思います。
エフェクトの中で、多用しているのはR1、R2のリバーブです。可変パラメーターも少なくて理解しやすいです。TypeはSMALLHALL、LARGE・SMALLROOMを主にスネアとハイハット(金物系)によく使います。ホールリバーブはDAWソフトでは使いませんが、MPCのホールリバーブはよく使います。まずはTypeを選び、Timeを設定します。LF/HFのダンピングで残響音の明暗を操作します。LFで低音を、HFで高音を切ります。LFは残響音が他の低音とかぶるのを避けるため、200hzまでは切ります。HFは素材次第です。スネアを3200hzまで切ると特徴的なにじみ方をします。Diffuseは音の広がりを、Nearは残響音の張り付き具合を操作できます。Predelayは最後に設定していますが、設定しないこともあります。BYPASSを押し、ドライの状態と比較しながら作業します。R1・R2のリバーブは、MIXによって出力レベルを設定できます。ダイレクト信号をカットすることはできません。ダイレクト音をカットし、リバーブ音だけ取り出したい場合、ミキサーのSTEREO音量を下げ、FXSendのレベルを上げることによって取り出すことが可能です。R1・R2は片方はドラムの調節用、片方はウワネタの違和感を中和する用途として使用しています。
リバーブの次に使用するのが「4-BAND FILTER」です。キックとベースに低音を譲るため、ウワネタの低音を切る処理をしたい場合に使用します。このFILTERやDISTは原音にかけるのが一般的なエフェクトといえます。DAWソフトでは、センドではなくインサートで処理するエフェクトでしょう。MPCは全てのエフェクトがセンド扱いですが、FXeditのMIX設定でDirect sig(ダイレクトシグナル)をOFFにすることで、インサートのようにエフェクトをかけることができます。上にも記した、ミキサーでSTEREOを0にすることでも同様の効果が得られます。
▲4-BAND FILTERの設定画面。右側でモジュレーションを操作。
FILTERはまずdepthの値を0にします。これを0にしないと左の〈F-MOD〉の数値によってモジュレーションがかかることになります。フィルター部は4バンドに分かれていて、周波数、ブースト/カットレベル、Qを操作できます。DAWソフトで使うプラグインでは、ブースト/カットレベルが主となる値であり、それに応じて周波数とQを決定します。しかし、MPCのこのエフェクトでは、ブースト/カットレベル、が0でも周波数、Qの設定の変更によって、音が変化します。つまり独立した4つのフィルターの複合体(しかもすべて起動状態)だと考えられます。この4つの独立したフィルターの兼ね合いで音が変化するのですが、実は詳しい仕組みをよく理解できていません。いつもネタを絞ってこのフィルターをかけ、納得のいくまで数字を変えて感覚で操作しています。ウワネタで使う頻度の高いローカットは、この設定で使用しています。
HIGH:500Hz、0dB、
MID1:4k0Hz、0dB、Q99、
MID2:900Hz、0dB、Q99、
LOW:16Hz、0dB
全てブースト/カットレベルが0なのが自分でも信じられませんが、低音を切ることができています。
Qの値は小さくなるほど狭まり、大きくなるほど広がります。WAVESをはじめとするプラグインエフェクトとは数値が逆になっています。
その他、まれに使用するのはDELAY/ECHOです。モノラルディレイ、ステレオディレイ、クロスオーバーとあります。すべてにHFdampingがあり、ディレイ音の高音部をカットできるのが良いところで、MPCに特徴的な音になります。ディレイを一つのネタにかけ始めるとあれもこれもと、かけたいパートが増えてしまいます。それほどにこのディレイ音は手軽で特徴的で、音楽的でもあります。
MPCを購入した当初はエフェクトボード非搭載でしたが、1万5千円程度で搭載してよかったと思います。数値設定で動き、フィジカルな機能こそありませんが、これにしか出せない音があります。
サンプルを録音し、トリムし、パッドに並べてシーケンスを録音。各パッドのミックスを、エフェクト調整しながらおこなう。ここまで一通りの機能を見てきましたがいかがでしたでしょうか。
本来重要なのに掲載できてないところや、間違った理解の箇所も多くありそうです。しかし、僕の作業はここまでの機能で完結しています。この文章を読んでくれたMPCファン、2000XLファンの皆さん、どうでしたでしょうか?
もしあなたのMPCが押入れのダンボールの中で眠っているようなら、たまには顔を見て通電してあげてください。昔挫折したファイルのセーブ、サンプルのトリミング、アサイン、シーケンス録音が、数年経った今なら難なく乗り越えれる壁かもしれません。もし、機材を見てやはり自分に合わないと思ったら、思い切ってオークションに出品するのも機材にとっては幸せなことかもしれません。時代が変わってもニーズがある優秀な機材ですし、クリエイティブなトラックメイカーなら一度は手にすべき機材だと感じます。
トラックメイカーの皆さん、MPCでの制作を極めている皆さん、僕に更なる知識を分けてもらえる機会があったら幸いです。僕を見かけたときは是非声をかけてください。
僕と2000XL
僕が初めてMPCを知ったのは中学2年生の時。近所の大型書店、CDレンタルショップでまだ数が少なかった日本語ラップを必死に掘っていた時代でした。友人が有名アーティストが使っている作曲機材としてMPCを教えてくれました。当時オークションで出ていたのはMPC3000、2000、2000XL。中学生の自分には到底手の届く値段ではなく、友人曰く「MPCの他に、テクニクスのレコードプレーヤーと、ミキサー、それにZIPドライブという記憶装置が要るらしい。レコードも1枚2枚では作れないらしい。MPCにスピーカーはついていないので、音を鳴らすコンポが要る。」ということで、金額の壁の前に失望した記憶があります。今思うと、中学生なのにそこまでよくちゃんと調べてくれたね~って感じです。
中学のころから憧れの機材だったMPCですが、購入できたのは20歳の時です。RolandのMC909とCubaseで音を作っていたのですが、ローの効いた90年代HIPHOPの音を作りたいと思って購入しました。友人の持っていたMPC1000の太い低音に惹かれたのもあります。MPCの機種による音の違いはよく話題になり、僕もその差を感じます。今まで家でゆっくり触ったのは2000、2000XL、1000、2500、3000で、あくまで主観ですが一番低音が太かったのは1000。次が2500。2000=2000XL、3000の順です。1000はミックス作業で低音が暴れるイメージすらあります。1000、2500共にドラム3点セット(BD・SD・HH)の芯の太いところが出ている印象でした。2000、2000XL、3000は乾いた音の印象が強くあります。文字にするとカシッ、カシュッ、シュゴ、ヒュゴッというイメージです。サンプル単体で聞くと、あれ、こんな音で大丈夫かな?と不安になるほど2000XLに入れた時点で音が変わります。それでもシーケンスが組み終わると、おぉ!リッチでドライでタイトでドープだね!という満足感を持って作業を終了できるので不思議なものです。
友人とこの効果を「アカイマジック」なんて呼んでいました。サンプリングソースが動画共有サイトでもアカイマジックで何とかなるさ!テレビ放送でもFMラジオでもアカイマジックで…!と音質をアカイの魔法に依存した作曲が青春の記憶だったりします。記憶装置のSCSI諸々が故障して無くなっては困ると大阪日本橋をうろつき、いくつもMOドライブをゲットしました。その熱意を他に向けてもよかったのではないか…なんて後悔していたらこんな記事書いていません!
現在はMPKを購入し、メインで使用するMPCはソフトに移行しました。しかし今でも2000XLはウワネタを組んだり、あのにじむようなリバーブをサンプル素材にしたり、テープシュミレーターの代わりに使ったり(笑)出番はあります。今回の起稿でまた一つ2000XLに愛着が湧きました。これから先も2000XLと共に成長したいです。
Raputa Heaven
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