不法執刀 (1997)


 かつて優秀な外科医だったユージン・サンズ(David Duchovny)は、疲労と激務を乗り切ろうと麻薬に手を出して、ある日意識がもうろうとした中での手術中に患者を死なせてライセンスを剥奪されてしまい、今ではドラッグに頼り堕落した日々を送っていた。
 ある晩ナイトクラブで腹部を撃たれた男を鮮やかな応急処置で助けたことから、犯罪組織のボス、レイモンド・ブロッサム(ティモシー・ハットン)に目をつけられる。
 ユージンはレイの依頼で裏社会の外科医として高額の報酬を得るが・・・。レイの女クレア(アンジェリーナ・ジョリー)が気になる存在になってくる。
 ある時、危険を感じて足を洗おうとしているユージンにFBIが接触してくる。またある時、実はクレアがFBIに情報を流していることを知る。ユージンは彼女と共に組織からの脱出を図るが・・・。

 『THE X-FILES』のシーズンとシーズンの間に、オフをこの映画の撮影に当てたDavid。俳優としてモルダー以外を演じることは、彼にとって重要だったのでしょう。でも、何となく聞こえてくる評価はあまり良くなかったのではないでしょうか。世界中がXFで盛り上がっている頃、彼にモルダー以外の何かを期待してか、いやモルダーでいてくれることを期待して観てしまう、XFにどっぷりハマっている観る方の目もあったのだと思います。UKIUKIが観たのはずっと後になってからですが、それでもまだXFシリーズ途中でしたから、正直ちょっとイメージで見てしまい違和感がありました。でも何度か観て今はハッキリ「ユージンとモルダーは全然違うやん!」と言えます。FBI捜査官のかけらも見えません。さらに観れば観るほど見どころ発見で、すっかりお気に入り度が上がったのでした。

 オープニングのナレーション、Davidの声が早くもUKIUKIの心をつかみます。
 自他共に認める有能な外科医としてのまともな人生から転落して、クスリをやっている時の死んだような目に全てを失ったことが表れているユージンが、それでもまだ外科医として人の命を救う''本能''を失わずにいる姿に胸が痛みます。クレアに「なぜ?」「いつ?」・・とライセンス剥奪のことをしつこく問い詰つめられる時のユージンがとても印象的です。
 ボスに気に入られ、そして利用され、ひととき外科医に戻れる喜びといっそう募る空しさ、裏社会にすんなり入っていきながら心底から浸かれない本来の人間性、そんな複雑な男を演じるDavidに見とれてしまいます。
 ユージンとクレアがたき火を前に語り合うシーン。患者を前にした時の外科医魂。レイとのやり取り。FBIとのやり取り。クレアを救い逃げていく別荘でのシーン。時に激しい口調になったり、自らの状況に落ち込んだり、禁断症状に苦しんで、そして立ち直っていく姿・・・。 ユージンの変化を演じているDavidは、見どころ満載です。