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旅立ちの時


 この作品、何気にとってもよかったな〜。。。ありがちな感じの邦題なんだけど、何となく録画して、何の予備知識もなく観ました。素敵な作品で 2008年の映画鑑賞をスタートすることができました。
 リヴァー・フェニックスが出てるんですね。リアルタイムの彼を知りません。80年代から90年代にかけて活躍してたんでしょ。その頃のUKIUKIは 映画もテレビも限られたものだけでほとんど観てなかったし 興味もなかったです。映画を楽しむようになって『スタンド・バイ・ミー 』(1986)は観ましたけど、作品的には世間で評価されてるほど UKIUKIはそんなに好きでもないし、リヴァーにも特に思い入れは感じなかったです。他の作品は観てなかったのかな〜 彼の記憶はありません。リヴァーの突然の死(93年)は、それもリアルタイムでは知らなかったのですが、あまりの若さや彼の周りの人たちはどうしてたんだろうと胸は痛むものの、やはりその原因は印象が良くないので、どうして世間でそんなに持て囃されるのかな〜と思ってました。スタンド・バイ・ミーから2年後のこの作品にたまたま出会って、彼を観て、あぁ〜〜〜いい俳優さんだったんだ!と 今やっと納得しました。この作品でアカデミー助演男優賞にノミネートされたそうで、それも納得。えっ、でも主演じゃないの? 内容的に考えて・・・。あっクレジットのトップは、母役のクリスティーン・ラーチですね。

 ダニー(リヴァー・フェニックス)の両親 アーサー(ジャド・ハーシュ)とアニー(クリスティーン・ラーチ)は、1971年 マサチューセッツ大学の軍事研究所を爆破した犯人で 今なお逃亡中。17歳のダニーは2歳の時から、弟のハリーは事件後に生まれたんですけど、家族4人で各地を転々とし その度に名前も変えて逃亡生活を送っているのでした。

 両親が爆破したのはナパーム弾を開発した研究所で、製造を中止させ戦争を止めさせる目的だったのですが、偶然居合わせた人に重傷を負わせ失明させたのです。反戦運動のテロリストとしてFBIに指名手配されているのです。彼らのやったことが正義だったのか ただの悪だったのかというようなことに触れるシーンも少しはありますが、そんなことよりも逃亡生活を送る彼らの日常を淡々と描きながら 彼らの家族愛や絆を描くと共に、爆破犯とその家族として背負ってしまった重荷を、ダニーやアニーを中心に もちろんアーサーも年老いた親たちも それぞれの立場で繊細に感じさせてくれます。
 この作品ではFBIの追跡を逃れてニュージャージーに辿り着き、その地でダニーは音楽教師のフィリップスに才能を認められてジュリアード音楽院への進学を勧められ、またその娘ローナ(マーサ・プリンプトン)と恋に落ちます。それは家族にとって、ひじょうに危険なことでした。

 オープニング どこかの田舎町、マクナリー(ダニー)が突然FBIの姿を目撃し、それから弟をピックアップし両親と合流して逃げ出す一連の行動や、夜通し逃げて来た後 名を変え容姿を変え、そして新しい地ニュージャージーで始める新生活、もう何度となく こういうことを繰り返してきたというのが分かります。ダニーは爆破事件のこと他だいたいのことを理解しているようです。弟に問われては自分が言い聞かされてきたことをきちんと答えてるふう。でも名を変え髪を染めたりしているときに、内心苛ついているのが分かります。それでも母を気遣い、父にもその苛つきをぶつけたりしません。父は父で家族の新生活に向けて着々と物事を進めています。それぞれの繊細な感情をお互い感じつつ、今の非常事態を乗り切るためそれにはあえて触れずに でもほわっとした愛情が充満しているようで、とにかくダニーもハリーもこの逃亡生活を受け入れてきたんですね。
 家の中の荷物なんてほったらかしにして逃げ出すのに、弟が平たいボードのような物を持ち出してきたときには、こんな邪魔な物いったいなんだろう?って思ったんですよ。練習用のキーボードだったんですね。
 新しい学校で初めての音楽の授業の後、フィリップス先生に促されてマイケル(ダニー)がピアノを弾きます。素敵〜〜〜☆ この後フィリップス先生の家でも弾きました。そのときローナに出会いました。それから両親に黙って行ったジュリアードのオーディションでも・・・。リヴァー(マイケルなんだけど・・)がピアノを弾くシーン、とってもよかった〜♪ 流れてる音は彼のではないかもしれないけど、手元がちゃんと映って確かに彼が弾いているのがわかります。そしてただ上手く弾いているというのではなく、偽りだらけの生活で嘘の自分が築く人との関わりは一時の儚いもので、マイケル(ダニー)にとって確かなものは家族の愛情とピアノだけなんだろうな〜って思って、その無心に弾いている彼の姿が音と共に心に響きました。
 彼の才能を開花させたのは、転校先で次々出会った音楽教師たちというより、それ以上に実は母親の影響だったと分かってきます。アニーとの連弾シーン、易しい曲を弾いていて、幼い頃こんなふうにしてたのかな〜。アニーはフィリップス先生にダニーをジュリアードへという話を聞かされ、今まで考えまいとしてきたことを考え始めます。彼の才能を伸ばしてやりたい。彼を自由に・・・!!
 ところで彼らにはかつての同士でしょうか地下の連絡網があって、彼らだけではどうしようもない時には連絡すればいろんな支援や偽装を手伝ってくれる仲間がいます。アニーがそんな歯医者を通して事件後初めて父親に会うシーンは印象深く、娘の思い 父の思いがこみ上げてくるところは、彼らの苦しみを感じで泣けました。そこで、今ダニーの目の前にあるチャンスは、彼女がかつて捨てた夢だったと分かります。彼女は決意しました。でもそれは、まだそのときはアーサーには受け入れられませんでした。
 ダニーは才能が認められて嬉しかったと思うし、ジュリアードのオーディションも受けに行くんだから夢や希望としては行きたい気持ちだと思うんです。でもこのチャンスを実現させたときから、自分にはFBIの尾行がつくことになり、それはもう二度と家族に会えない状況になることが分かっています。もう観ていくうちにね、両親は勝手じゃないか!という思いが だんだん募ってきてたんですよ。アニーもようやく気づいたんですけどね。でもダニーは驚くほど冷静に振る舞い、表に出して悩んだり荒れたりしないところがよけいに切ないです。これまでアニーもアーサーもダニーもきっとハリーも、ずうっと一緒にいたい!という思いで支え合ってきたんですね。ダニーやハリーの逃亡生活は、全くもって両親の犠牲になってるわけで、両親が自首さえすれば息子たちは自由になれたんです。でもね〜・・・この家族のバースデーパーティー素敵です♪ 母の誕生日、ケーキの名前がサムっていうのが切なかった。買った物でなく手作りのプレゼントというだけでなく、愛情に溢れていました。このシーンに限らず、日常の中心は会話にしたって行動にしたって逃げるためにあるわけだけど、特に父親はそうなんだけど、それでも息子たちを手放さずに愛情を注いできたのは何ものにも代え難いことだったと 間違いではなかったと感じさせてくれるんです。進学はそんな家族の絆を壊すことになるんです。
 そんなマイケルがローナと恋をするんです。初々しくて爽やかでとってもいい感じ、でもマイケルはダニーにとっては嘘の自分、だから彼女を抱くこともできなかったんです。マイケルに距離を感じて避けるようになったローナに、とうとう本当のことを話してしまうシーンのダニーもローナも とっても素敵でした。ダニーは、背負ってきた重荷を初めて表に出したのではないでしょうか。切々と語るダニーの気持ちが真っ直ぐで素直で、そして本当の自分になって「愛してる」って言うんです。家族の話もダニー の気持ちも 変な警戒をしたりせずにただそのままを受け止めてくれるローナに、観ているUKIUKIも気持ちが救われる思いでした。アニーの誕生日にローナも来て家族みんなと打ち解けて、ダンスシーンが素敵でした。ラストシーンと同じ曲がかかっていたのではなかったでしょうか。
 ジュリアードにしてもローナにしてもフィリップス家と親しくなりすぎたり、彼らがここにいることを知っているかつての同志が銀行強盗をしたり、アーサーは「ここはもう終わりだ」とこの地を去ることを言い渡します。とうとうダニーは「ここに残りたい」と父に告げるのでした。でもアーサーはやはりそんなこと受け入れられないんです。
 アニーの職場でも危険な気配が・・・。ついにその時がきて、ダニーはちゃんとローナに最後のお別れをします。もう観ているUKIUKIも涙々です。でもそれ以上に凄かったのが、ラストシーン。家族の待つキャンプ場に自転車をすっ飛ばしてやってきたダニーが、急いで荷台に自転車を載せると、アーサーが突然「自転車を下ろして、乗っていけ」って言うんです。「おまえは自由だ! ジュリアードに入れ」って。ダニーは驚いて「一緒に行きたい」って言うんです。「ここに残りたい」って言ってたのに、最後の最後まで揺れ動く気持ち。どことなく幼さの残る感じで、じゅわ〜〜〜っと涙が滲み出てくる表情が素晴らしかったです。アニーの父に頼んであるから連絡するようにって、そして「自分の人生を生きるんだ!」父と母がそうしてきたようにって・・・。離れてしまっても、家族の愛は変わらないんですよね。いつまでも、愛し愛されている。最後に微かな笑顔も見られて、良かったです。堪らなく切なくて、でも素晴らしく爽やかな、ダニーと家族の旅立ちの時でした。