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父親たちの星条旗 ・ 硫黄島からの手紙


 『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』は、UKIUKIが言うまでもなく 原作もそれぞれにある独立した作品ですが、”硫黄島での戦い(1944年)を日米双方の視点から描く”というクリント・イーストウッド監督の思いを込めた2部作でもあります。
 この二つの作品を続けて観ました。UKIUKIは戦争映画っていうものを観るとき、いつも何だか少し観ていること自体に罪悪感のようなものを感じてしまったりするんです。それは戦闘シーンの残虐性だったり、誇張された正義だったり、作品によっては感動させられることだったり・・・を観てることにだと思うのですけど。この二つの作品にも残虐なシーンはあったけど、今、なぜか罪悪感は感じません。観て良かった〜って思います。

 『父親たちの星条旗』では、擂鉢山の頂上に星条旗を掲げるのを撮った1枚の写真が、本国で政治的に利用されるため、映っていた兵士たちが英雄に祭り上げられます。なんともアメリカ的なその状況に、予備知識無く観ていたUKIUKIは、こういう映画だったのか〜って思ったりしました。彼らは国民的英雄として熱狂的に迎えられるものの、それは底をついた戦費調達のために戦時国債を買ってもらうためのキャンペーンに利用されてるということなのです。彼らはそもそも英雄になりたいわけでもなく、しかも真実を偽っての英雄騒ぎに巻き込まれてしまったのです。そして そこで描かれていたのは、自分が硫黄島で見たりしたりしてきたことがフラッシュバックしては葛藤する彼らの姿やその後の人生なのですが、そこに彼らの目を通して見た戦争の真実、島でいろんな思いを持ちながら死んでいった仲間のことが何重にも重なり、またその家族の悲しみや思いも重なって、戦争というものを描いていたと思います。
 衛生兵ジョン・“ドク”・ブラッドリー役のライアン・フィリップは、「サベイランス -監視-」観てから好印象だった俳優さんです。この作品でも、彼がその後 心の痛みを一生引きずって生きてきたというのに納得できるべく、戦場でも英雄騒ぎの渦中でも 割り切ってその場を対応してるふうでいて それは辛い感情を押さえ込んでいるんだっていうのが滲み出るような繊細さが魅力でした。
 また、正直な気持ちを抑えられないピマ・インディアン出身の海兵隊員アイラ・ヘイズ役のアダム・ビーチも、すごく心に響く存在感がありました。

 『硫黄島からの手紙』は、戦況が悪化するなか 日本軍にとって本土防衛の最重要拠点であった硫黄島にやって来た栗林忠道中将(渡辺謙)の指揮のもと、これまでの理不尽な慣習や不合理な作戦を改め、一日でも長く島を守るために戦った男たちの姿を描いています。栗林はアメリカ留学の経験もある親米派でありながら、軍人として一点の曇りなく与えられた使命を果たします。でも、最期までアメリカで親交のあった人たちとの思い出はいいものであり続けました。
 キャストが日本人とはいっても、監督 ほかほとんどのスタッフが外国人で、これだけリアル感のある日本軍が描けるものかと驚きました。でもそんなことは置いといて、戦争映画なのに、酷いシーンもあるのに、不思議に穏やかな気分で観ていたような気がします。そして観終わって振り返ったとき、そこに描かれていた戦争というものに、なんとも言えない気分で涙が溢れてきました。
 とにかく何を観ていたかって、登場人物がそれぞれに 押しつけがましくなく人間味があふれていて、皆が死を覚悟しながら 生きて帰りたいという本能はあるのでしょうから、その覚悟を愛国心や名誉に懸けて貫いた者もいれば、不覚にも貫けなかった者、生きて帰りたいという思いを意識の底で持ち続けた者、生きるために行動した者、・・・そんな彼らの姿や心情を観ていたのです。
 妊娠中の妻に「生きて帰る」という約束をして出征してきた西郷(二宮和也)は、”ただのパン屋”だったころの自分のままであり続けた人物で、けっして強い兵士ではなかったけれど”生きる”ことを諦めなかったのです。また 清水(加瀬亮)も 元憲兵ということで孤立していたのが、西郷と気持ちを通わせていくなかで、彼の人となりが描かれていきます。
 途中で「父親たちの星条旗」と重なるシーンがあちこちに出てきて、この向こうに彼らがいたとか、あの彼らの向こうはこうだったというところで、もうどちらが正しくてどちらが悪いとかはない戦争映画になっているわけです。もちろん、キレイごとに描いているわけではなく、無慈悲な殺しや、臆病な姿もあるわけですが、そんなのも含めて戦場なんですね。
 西竹一中佐(バロン西:伊原剛志)も印象に残る人柄の人物で、1932年ロサンゼルス・オリンピックの馬術競技金メダリストという彼は、捕まえた捕虜に英語で話しかけます。西の話に恐怖心と警戒を緩めた鬼畜米兵の姿に、自分たちと変わらない親しみを感じ、傷が悪化して死んだ彼が持っていた手紙を西に読んでもらい、兵士を送り出した母親の気持ちは敵も味方も同じだと、戦っている彼らにも解るんです。
 とにかく観ていくうちにドラマがいっぱい重なってきて、この作品 なんて厚いんだろうって思えてきました。

 硫黄島での戦いを挟んであちら側とこちら側、ずいぶん雰囲気の違う部分もある二つの作品ですが、それでも 敵味方に関係なく、人の心には共通するものがあることが充満していたような気がします。またどちらの作品でも、人物の描き方に 監督の優しさが感じられるような気がしました。それで よけいに戦争というものの悲しみや遣り切れなさが伝わってきたように思いました。もっとちゃんと感想書かないと申し訳ないような濃い内容でしたが、なかなか言葉にするのは難しいので、このへんで。。。