My Comment

蝉しぐれ


 とっても心に浸みるいい物語でした。映像も、季節感のある自然や景色やその中での人々の営みのとらえ方や、武家屋敷だけでなく貧しい家や軒先や路地まで、なんとも美しくて良かったです。

 貧しい下級武士でも、武家としての心を大切にし身を引き締めて暮らしているようすが、すがすがしかったです。そして何よりも 純粋な若い友情が素晴らしかったです。得意なことがそれぞれ違って、それを大事に思い合えて、文に冴え武に弱い 与之助(青年時代:岩渕幸弘)がやられていたら駆けつける。また特に、お世継ぎ騒動に巻き込まれて切腹させられる父 牧助左衛門(緒形拳)と最後の面会を終えて出てきた文四郎(青年時代:石田卓也)を逸平(青年時代:久野雅弘)が迎えて、二人でその時のことを話すシーンが心に残りました。ああいうときにああいうことを話し合える友なんて、そんなにいるものじゃないです。そして罪人の家となってどんなに落ちぶれても、変わらない友情が嬉しかったです。
 文四郎とふく(少女時代:佐津川愛美)との淡い恋心も、文四郎の父への尊敬も、さり気ないんだけどすごくよく伝わってきました。誇りがあれば、どんな酷い暮らしをしていても、人は立派に生きられるものですね。だから後半(数年後)、青年になった牧文四郎(市川染五郎)が父に腹を切らせた張本人の筆頭家老から牧家の復権が告げられ、その後の展開を無理なく観られました。
 旧友 小和田逸平(ふかわりょう)島崎与之助(今田耕司)と再会し、家族や地位など守るべきものができても友(文四郎)のために自分のできることをと行動を起こすその姿に、彼らの友情がいっそう強く感じられるのでした。そして江戸屋敷の奉公から戻されてきた ふく(木村佳乃)とも再会し、新たに巻きこまれていく派閥抗争の渦中で、文四郎が逆らえない宿命を背負いながらもそれに立ち向かう姿、ふくと想い合った気持ちは変わらないと確かめ合って、でも結ばれなかった二人の姿を最後まで美しく描いていました。

 鑑賞後に出演者名などを確かめにいくサイトで見かけた感想では、時代劇をよく見ていらっしゃる方でしょうかそうでなくてもでしょうか、台詞が標準語であることやら演技や演出など、ずいぶん酷評が並んでいましたが、UKIUKIにはそんな難しいことよく解らないし、好きですこの作品。