私の頭の中の消しゴム


 スジン(ソン・イェジン)はちょっとした物忘れがきっかけで運命の人チョルス(チョン・ウソン)と出会い、やがて家族の祝福につつまれて結婚する。しかし幸せな新婚生活のあちこちで、彼女の健忘症はちょっとした物忘れではなくなってくる。

 邦題だけでなんだか内容分かってしまうし、だから途中までの展開が少々まどろっこしい感じで、なんだかな〜って思って観てましたが、後半は心に響くものがありました。スジン本人の気持ちはもちろんですが、特に夫のチョルスの方に見入ってしまいました。彼は元々ワイルドな男って印象で仕事にシビアなカッコ良さはあるけど(スジン自身は彼のそんな姿は見てなかったような気がする)、ちょっと荒っぽいところもある。そして、母親に捨てられた怒りやら孤独感を感じて生きてきた。そんな彼が、愛するスジンに対して見せる繊細なでもすごくでっかい優しさに、正直驚いてしまったし嬉しかったです。

 登場人物がみんないい人って物語、出来過ぎ〜とも思うけど、UKIUKIけっこう素直に楽しめます。スジンの父親なんて、世間体とか気にする気持ちもあるんだけど、スジンが不倫をしてて破局を迎えたときも、彼女がきちんとした家庭で育たなかったチョルスとつき合って結婚するのも、気持ちよく許してあげました。どうすれば人を許せるか、教えてもらえて良かったです。気持ちの持ち方ですね。こんなふうにすれば、たいがいのことは許せそうに思えました。またチョルスが自分を捨てた母親に会いに行きますが、あの母親の息子に投げかける完璧な暴言を聞いていて、あっこれが彼女の精いっぱいの愛情なのではないかな〜と思えて泣けてきました。あの暴言を浴びせられたチョルスがとった行動も、愛ですね。

 これはとっても現実的な物語として観てしまいました。だって自分に起こる可能性を普通に感じますもの。よく知っているはずのことが思い出せないってこと、人の名前とか、今日が何日とか・・・けっこうあるんです。若年性アルツハイマーって、そんなに珍しい病気ではないっていう印象で、心の隅で気をつけなきゃなんて思ってる。(どう気をつけるんだろ?)
 「50回目のファーストキス」「ガマ王子VSザリガニ魔人」のように一晩寝たら全部忘れてて毎日を繰り返すのとは違って、これはたまに霧が晴れるように思い出す日がありつつも全体的には主に近い時期の記憶からだんだん無くなっていくという一方通行で、やがて愛する夫や家族や自分のことまで忘れてしまうということを本人も分かっているというのが辛いです。でも、考えようによっては準備はできる。現実やその先を全部受け入れるのは大変だけど、受け入れたらそれからどうするのか。たとえばスジンはどうだったか、チョルスはどうだったか、父は・・・家族は・・・。

 ラストは素敵過ぎて出来過ぎな感じだったけど、あんなふうにならないのが現実の辛いところなんだから、でもまあ”心の部屋をひとつ空けて”映画だからいいってことにします。