シルミド


 1971年「シルミド事件」を起こした韓国秘密特殊部隊の物語。それは実際に存在したけれど正式には何も発表されていない部隊で、その目的は北朝鮮の金日成暗殺だった。えーっ!この微妙な時代にそんな映画を作っていいのかな〜と思いましたが、それについては大丈夫な展開でした。

 前半まず思ったのは、部隊の訓練兵として集められた死刑囚たちにとってはこの作戦が成功したら死刑を免れて英雄になれるわけだからビッグチャンスだけど、一対一でそんな訓練兵たちにつかされた本物の兵士たちこそ大変だったなーということです。そして訓練兵たちの訓練の様子がずうっと続いて、UKIUKIとしてはちっとも面白くなかったのですが、後半は歴史の裏側で人生を賭けた男たちの生きざまや死にざま、訓練兵との人間的な感情が芽生えてしまった部隊の責任者や教官兵もまた、政治や情報部の理屈や軍の秩序との葛藤に様々な感情で揺れ動いた様子に、引き込まれていきました。正直言ってこの作品が''好き''というわけではありませんが、闇に葬られるはずの韓国史、それも部隊の目的以上に、兵士たち一人一人の存在から命までもを自国の情報部に抹殺されようとした男たちが描かれていて、衝撃を受けずにはいられませんでした。

 ところでこの作品、決して史実には忠実ではないそうです。全てが明かされてはいない史実ではあるものの、死刑囚以外の志願兵がいたことや非情に過酷な訓練や婦女暴行事件のこと、バスジャック事件では人質も巻き添えになっていたことなど・・・、そのあたり脚色されて感動的な要素が加えられているようです。でもドキュメンタリーではなく制作された以上、かえってそのような脚色で娯楽映画として観られたことは良かったです。