パイラン


 一緒にヤクザの世界に入ったダチはボスになっているというのに、空威張りはするものの気が小さくてお人好しでいつまでたってもうだつの上がらないチンピラをやっているカンジェ(チェ・ミンシク)。彼の夢は船を買って田舎に帰り漁師になることですが、一生かかってもそんな金が貯まるかどうかわからない暮らしをやっているわけです。ある日敵対する組の者を殺してしまったボスから、船を買ってやるかわりに身代わりになって10年くらい刑務所に入ってきてくれと頼まれます。そんな折り、妻パイラン(セシリア・チャン)が死んだという知らせが入ります。でも実は、彼女は1年ほど前に偽装結婚してやった見ず知らずの身寄りのない中国人、カンジェはパイランの暮らしていた町に遺体を引き取りに出かけますが。。。

 たまたまWOWOWの番組表で見つけて、タイトルも知らなかったけどチェ・ミンシクって書いてあるならひどくハズれることもないだろうと録画して、観始めたらなんと!しょうもなさが体中に染みついたようなチンピラの、しょうもなさそうなヤクザのお話。でもまあ、ミンシクのあまりのハマりぐあいに目が離せなくなってしまって、そのうちとんでもない異質な感情が沸き起こってくるんです。
 ヤクザの世界を描きつつ、全く似つかわしくないラブストーリーが溶け込んで、汚らしくてみすぼらしくて鬱陶しいどうしようもない男が、たぶん彼本来の人間性を取り戻していく切ないヒューマンドラマになっています。前半からは想像もつかなかった、後半の胸シクシク感。感動!!
 パイランの感情は本当の愛ではないとも思うけど、もしかしたら最高に純粋な愛なのかもしれないとも思って、心の中で揺れました。でも彼女の中では感謝から生まれた本当の気持ちだったでしょうし、彼女の感謝が心に響いたカンジェだって、死んでしまった彼女の''後始末''に心がこもってきます。何もしてやれない切なさでいっぱいのカンジェですが、パイランの気持ちはカンジェの気持ちを呼び覚ましたようで、感動で涙があふれました。ミンシクの繊細な感情表現がスゴイです。もらい泣きでボロボロでした。
 やっぱりね!という結末でしたが、ヤクザの世界ですものラストが読めてしまうのはしかたないですね。その前にいっぱい泣けたし、カンジェが出した決意とラスト直前までのカンジェの表情に満足してよしとします。観て良かったです。

 ところで原作は浅田次郎の短編小説『ラブ・レター』、日本でも中井貴一主演で映画化されたそうです。知らなかった!