イルマーレ


 1997年末に生きているハン・ソンヒョン(イ・ジョンジェ)に届いたキム・ウンジュ(チョン・ジヒョン)という女性からの手紙は、つじつまの合わない内容でしたが、お互いの誠実さが手伝って文通が始まるのでした。
 これは過去に生きる男性と現代に生きる女性が、手紙のやり取りを通して心を通わせていくというSFラブ・ファンタジーです。
 二人の時空をつないでいるのは''イルマーレ''と名付けられた海辺の家にある郵便箱だけです。やり取りされる手紙の内容で、二人は自分たちの生きる世界には2年間の時間のズレがあることに気づいていきます。
 そして二人がすぐに恋に落ちていって・・・というのではないところが、この物語のいいところ。手紙のやり取りが続いて、やがてはお互いが心を開いて心の傷を話せるほどの相手になっていくんです。そしてその気持ちの受け止め方が本当に温かくて、離れていても心は通じるし支え合うことができるんだという優しい優しい物語です。

 そうしているうちに、子どもの時有名な建築家の父親に捨てられたことからいまだに立ち直れない思いのソンヒョンだけど、はじめに彼の方がウンジュへの特別な感情が愛であることに気づき、愛する人のために捨てていた設計の道に戻っていきます。
 一方ウンジュは、失恋してもまだ自分の中で元恋人への愛を終わらせることができなくて苦しんでいます。彼女にとってソンヒョンは信頼できる大切な人以上にはなれないのでしょうか。チョン・ジヒョンが切なくけなげな女心を自然な演技で演じてくれて、「猟奇的な彼女」の嫌な印象がすっかり吹き飛びました。どの作品でもよく似た演技になる俳優さんもいるけど、彼女は違うのね!

 ソンヒョンは何度か過去のウンジュに会いに行くのですが、彼女にとって彼はまだ存在しない見知らぬ人。二人の関係には''メビウスの輪''が象徴しているような時空のズレがあって、会えそうで会えなかった約束の日。
 終盤やっとウンジュがソンヒョンの気持ちを知ったときには、それまでじんわりと切なくどこか長閑な気分で観ていたUKIUKIったら急に感情がこみ上げてきました。しかもとっても悲しい結末をなんとか変えようとしているところでは涙が溢れて止まりませんでした。このとき、あ〜UKIUKIはウンジュに感情移入して観ていたんだわ〜と思いましたね。
 ラストにどこで出会うのか。永久に出会えないのか。あーっ!そうか・・・メビウスの輪をある時点から進んで途中で出会おうとしても裏表、結局元に戻ってきたのですね。二人の新しい物語が幸せでありますように。。。

 ところでこの作品、どのシーンも、額に入れて部屋に飾りたいような美しさです。
 窓から差し込むまばゆい光、一部を照らす室内灯、碧い空、凪いだ水面、舞う水鳥、もやっと漂う雲や霧、余分な物が何一つない淡泊な景色、小物の一つ一つやその色づかいがオシャレで、料理のシーンや洗濯物や工事現場でさえ絵になっているし、もちろんイルマーレの姿や赤みを帯びた郵便箱・・・こだわりで作り上げられたありえない感じの映像です。でも、この物語だと嫌みがなく淡い雰囲気を味わえて心地よかったです。そんな絵に見とれつつ、不思議な物語の中で描いているのが、何とも自然な人の感情で、心はすっかり感情移入できるという素敵な作品でした。またこの作品はもの静かな雰囲気ですが、たまにそっと流れるBGMが切なさをいっそう盛り上げてくれました。