シュリ


 激しい銃撃戦や血生臭い場面が多いので、あまり好みの映画ではないけれど、一人の女性の生き方に注目するなら、かなり感情的に揺り動かされるものはありました。

 朝鮮民主主義人民共和国の第8特殊部隊工作員として大韓民国に送り込まれたイ・バンヒと、身分を隠して生活するためのイ・ミュンヒョン(キム・ユンジン)としての彼女。ラスト近く、こちらも韓国の秘密情報部員ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)が、別々の二人の人格が彼女の中に存在したように語っていたし、彼女自身も、二人でいた時は素顔の私だったと言っていたけど、私は、二人はそう思いたいのであってそうではないと思いました。彼女はイ・ミュンヒョンとしてましてやジュンウォンといる時でも、夢にふけることはあってもイ・バンヒとしての自分を忘れることはなかっただろうし、またイ・バンヒとして行動するときもイ・ミュンヒョンとしての感情に邪魔されるようになってきました。北で生まれ育ち特別に教育訓練された人間の持つ当然の意志や感情は、彼女の中で生き続けるものだろうし、一方新しい世界で出会った(接触に成功した)ジュンウォンに対して抱いてしまった女性としての感情(愛情)、この二つが彼女自身の一人の人格の中に入り込んでしまったからこそ、二人で銃を向け合うことになってしまった時に、彼女にあの表情あの行動をとらせたのだと思います。私にとって、この映画はあのシーンが全てという印象です。そして彼女にとっても、真実を知ったジュンウォンにとっても、あの結果はそれ以外には考えられない、悔いの残らないものだったように感じました。お互い自分の根底にある生き方を持ち続けたまま、二人で過ごした二人の間だけの感情は傷つけずに封印しようと、見合わせた二人が選んだ最良の行動だったように思いました。

 ストーリー的には、第8特殊部隊長パク・ミョン(チェ・ミンシク)の北朝鮮内部での立場や、彼がめざす急進的力ずくの祖国統一という目的のための作戦やその手段が有効なものかなど、よく分からないことがもやもやとあって、なんかすっきりとしませんでした。
 ただ私としては、CTXの発想やその映像は興味を感じるところです。武器としてや悪いことには使ってほしくないものですけどね。