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ラスト・サムライ


 凄くでーっかい時代劇を観てしまった。米国人監督・スタッフによるハリウッド大作で描かれた日本を、素直に楽しんでしまいました。
 時代の変化に強い興味があるという監督(製作・脚本)エドワード・ズウィックが、かなりのリサーチをふまえて明治維新後の日本を舞台に、大規模なアクション時代劇であるとともに、壮絶な人間ドラマを繰り広げてくれました。

 ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)は、南北戦争で勇敢に戦った英雄でありながら先住民討伐への悔いからその名誉に誇りを持てないのをアルコールで紛らわし、その後社会の大きな変化の中で埋もれて生きていました。彼は高い報酬に誘われて日本政府軍に西洋式の戦術を教えるために来日し、やがて性急な欧米化に反抗した侍たちの中に足を踏み入れることになります。価値観の変わってしまった二つの時代を生きるという点で重なる部分があったのか、不思議な国の不思議な人々の中で戸惑いながらも、''侍の生き方''に魅せられていくのでした。そして自らの人生に再び勇気と誇りを呼び覚ますのでした。

 代々国の繁栄のために心血を注いできた一族の長として深く尊敬されている勝元を演じる渡辺謙が、その眼力・風貌そして静と動でいろんな面から勝元を演じていて凄い貫禄!ほとんど実質は主演のようです。勝元はオールグレンからは何か学ぶものがあると捕虜にしますが、その後彼に精神的な影響を与えることになります。
 製作にも加わっている主演トム・クルーズが演じるオールグレンが、カッコ良すぎないところにリアリティがあって良かったです。ほんの少しのユーモアも手伝って子供との交流がめばえたり、剣の技を磨くなかでボロボロになっても戦いを止めない姿は、彼に反感を持つ者の気持ちを溶かしていきます。
 オールグレンを生かしておくことに異議を持ちながらも剣を教えるうちにしだいに彼を認め受け入れていく氏尾を演じる真田広之は、ズバリかっこいいーっ!彼の殺陣はその型が美しいだけでなく、凄味のある鋭さというか本物感が漂っています。
 兄の勝元に命じられ、戦で夫を殺したオールグレンの世話をする たか を演じる小雪は、その辛さを隠しながら、彼にうち解けていく子らの姿に引っ張られて彼に好意を感じていく微妙な心の動きを演じていました。控えめな演技なんだけどズキズキ胸の内が痛む感じで自然に共感することができました。
 また、捕虜オールグレンを護衛する寡黙な侍が最高でした。影のようでありながらいざとなれば鋭くキレのある動き、最後の最後まで主人から受けた自らの務めをはたすべくそこにいたのだとその瞬間息を呑みました。演じる福本清三は斬られ役のスペシャリストだそうですが、そのような俳優さんがこの大作であの役に大きな存在感を持たせてくれたのが嬉しいです。

 歴史が苦手なUKIUKIでも、天皇(中村七之助)と勝元も含めて周りの者との描き方、英語での会話、いかにもハリウッド的な壮大な合戦シーン、勝元がかつてかなり名のある大名だったことは伺えるけど政府に反抗している状況と率いる侍や家族との一見長閑な生活状態がどうなんだろうとか、明治維新からやがて10年がたとうとする頃の史実にあてはめて見ると正確でなさそうな部分はいろいろありそうだけど、そのようなフィルタを取っ払って一つの独立した物語として観ると、かなり面白い!と思いました。それでも細かい部分で微妙な違和感が出ないように、真田広之や渡辺謙が積極的に口を出してくれたおかげで、肝心なところで悔しい思いをしなくて済んだようで感謝です。
 ニュージーランドで撮影した広々と美しい自然や長閑な山里も、ワーナースタジオに作った明治維新プンプンの街並みもオッケー!、さすが姫路や京都の寺院には本物の荘厳さが漂って静の勝元を演じる渡辺謙に惹き込まれました。ロケもセットもお金がかかってるねーって贅沢感があって、時代劇にしては(失礼?)綺麗な映像だったような気がします。
 また日本人の心情が信じられないくらい自然に描かれていたと思います。もう過去のものになってしまった''武士道''の精神を固守しようとしている者はもちろん、割り切って新しい時代を生き始めた者でも、最後までそれを貫こうとした姿に対して尊敬の念を押さえられなかったりするところ、戦の敵には''無''心で躊躇なく向かっていっても、敗者にも敬意を払い相手の誇りには情けをかけるというようなところ、日本人の魂のDNAに刻み込まれたその精神を感じさせてくれます。また男も女も憎しみや嫌悪感を押さえ込んでも優先する主人や家長への忠誠、戦や誇りある死に対して恐れを持たない(表に出さない)姿、もちろん愛情を抱いても胸の奥にしまっていたり、・・・。そんな中、子供とオールグレンからは正直な感情が出てくるところがまた、この作品の味わい深いところでもあります。

 ところでUKIUKIのお気に入りは、勝元までもがおどけた踊りで人々を笑わせてくつろぐ村の祭りを不意打ちに襲撃されて戦うシーンです。突然の状況での殺陣にアドレナリンがドッと出る感じ、勝元も氏尾もかっこいい!オールグレンも共に戦い、寡黙な侍もさすが!たかも武家の女だった!息子も刀を手に・・・。
 また後半鎧姿の刀と弓で戦う元は一対一が基本の''侍の戦''と 軍隊式大砲や銃剣での戦いがぶつかり合うフィールドでの合戦シーンは、馬もろとも入り乱れて大地に転げ落ちたり・・・いったいどうやって撮影したのかと思ってしまいます。とにかく前へ前へ進む鎧姿が近代的な戦闘シーンとは違った迫力を出しています。

 ''最後の侍''の武士の誇りを見届けさせてくれて、さらに日本人のアイデンティティーを置き忘れることなく新しい時代に踏み出そうとさせてくれて、おまけにオールグレンとたかにお決まりのハグandキスシーンなどさせることなくラストを迎えさせてくれてニクイ♪と思いました。