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ニュー・シネマ・パラダイス


 またひとつ素敵な映画に出会いました。じんわりといいな〜って思いながらキューンと泣けて、それでいて悲しみや後悔というよりは''古き良き時代''を感じながら次につながっていく物語を辿っていくと、ラストで幸せな気分が溢れてきました。

 映画の仕事で成功しているサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)が、30年ぶりにローマから故郷シチリア島に帰ってきます。彼が少年・青年期に慕っていた映写技師アルフレード(フィリップ・ノワレ)の訃報を何としても届けようとした母親(プペラ・マッジオ)の気持ちが、後になって心に染みてきます。母からの伝言を受けてサルヴァトーレがアルフレードと過ごした日々を回想します。

 映画が唯一の娯楽と言ってもいいような土地柄や時代のシチリア、大人も子供も村の広場の中心にある映画館パラダイスに寄り合って映画を楽しんでいます。いいですよね〜あの雰囲気。全編を通して映画を楽しむ観客のシーンが多く出てきます。とても上品とは言えないけれど、本当に楽しそうなんです。
 私事ですが今はどんなに退屈でも映画やビデオには見向きもしない母が、子供の頃に母親や叔母に連れられて映画に行ったそうで、もっとも母の目当ては帰りに寄ってくるうどん屋さんだったりするのですが、でも自分が働くようになって休みの日に何をしたかというと、親に手紙を書くほかは一日中映画館に入っていたとか・・・、かつて電話も借りてかけるもの、TVなんてない時代に、日常から離れられる娯楽と言えば''映画''だったのでしょう。シチリアの人たちは、映画が日常そのものって感じですけど・・・。子供の頃から何度となく聞かされた思い出話を、思い出しました。
 元に戻りますが、司祭(レオポルド・トリエステ)がね〜、悪気はないんだけど一生懸命カットしちゃうんです。映画=100%娯楽なのに・・・、キスシーンがカットされてるのが、みんな許せないんですよね。でも、しかたないな〜って雰囲気、長閑だな〜。
 大人たちに交じってトト:サルヴァトーレ少年(サルヴァトーレ・カシオ)も映画が大好き、覗き見したキスシーンに反応する笑顔がカワイイ、たまりません。彼の興味の的は、映写室とその中で映画を操るアルフレード。アルフレードもそんなトトの気持ちはじゅうぶん分かっているけど、トトの母親に気兼ねしてか初めはトトを突き放していますが、やがてトトを受け入れ、トトと心を通わす中で徐々に彼の内に秘めた思いが溢れ出てくるのがいいな〜と思います。人生のほとんどを映写室で過ごしたアルフレードにとって、仕事は苦しみであり喜びでもあります。切り落とされたシーンのバラバラのフィルムを欲しがり、彼の仕事に興味を持ち見よう見まねで覚えてしまうトトにとって、アルフレードは父親のような存在になっていきます。映写室を出たアルフレードは、トトのこと何かとかばってくれたり話をしてくれたりで優しい人なんだってわかります。そして時々見せる笑顔にとーっても愛嬌があって・・・。
 可愛いけどずる賢い知恵がはたらくトトや、貧しさと戦後帰らぬ夫を待ち続ける苦しみでトトにその感情をぶつける若き日の母(アントネラ・アッティーリ)は、けっして模範的な人物ではないけれど、母親の悲しみを痛いほど感じては胸がいっぱいになるし、そうそう子供ってね母親ってねこういうこともあるのよと言える余裕を持てるようになってきました。若い頃に観たら、嫌悪感を感じたかもわかりませんね。
 小学校の卒業試験を一緒に受けることになったトトとアルフレード、この時から二人の関係が対等のようになったと思います。そしてトトが青年になってからは、初恋の相手エレナとのつき合いについて話していたりするあたり、もうすっかり男と男のつき合いになっていました。
 ところでUKIUKIは、アルフレードが広場の壁に向けて映画を上映するシーンが大好きです。映画を観たい!という観客の思いと彼らを楽しませたいというアルフレードの思いが融合するシーン、そしてこの時のトトは両方の立場で映画を楽しんでいるようで(アルフレードに楽しませてもらってるのかな)、最高の気分になって泣けました。
 そして直後の事故で、トトがアルフレードの仕事を受け継ぐことになります。後遺症が残り目も見えなくなったアルフレードは、年を重ねていく中でサルヴァトーレ青年(マルコ・レオナルディ)にはこのままでは終わってほしくないという思いが増してきたようです。

 時代が現代に移って30年間も帰らなかったサルヴァトーレに対する母親の理解と深い愛情に感動!・・・、UKIUKIは彼女の素晴らしさに泣けました。
 アンナおばさんから聞かされるアルフレードの気持ちにも涙が溢れてきます。すっかり変わってしまった村の広場、でも変わらない人々がそこにいて、アルフレードに言われたように人生を切り開き好きな世界で成功をしているサルヴァトーレ自身、今も変わらない自分を感じているようです。
 アルフレードの映画への愛情、サルヴァトーレへの変わらぬ情、サルヴァトーレに託した夢を感じさせるラストでした。外の世界に向けてサルヴァトーレの背中を押し、帰ってくるなと釘を刺した彼が、自分が死んでも連絡するなと言いつつ、どう考えてもサルヴァトーレに残した形見を作っていたのですね。サルヴァトーレがその形見のフィルムを見るシーンに''泣けないのは鬼''とかって、公開当時言われていたらしいですが、UKIUKIは他のシーンで泣いて、このシーンはとっても気持ちよくサルヴァトーレの表情に見入っていました。

 ところで3時間完全オリジナル版が出ていて、サルヴァトーレのストレートな感情や恋人とのすれ違いについて、故郷シチリア島に戻ったサルヴァトーレが出会う人物とのその後のエピソードが51分約60カットも加わってるそうですが、賛否両論だそうですね。UKIUKIとしては、ジャック・ペランのサルヴァトーレをもっと見たいし、きれい事じゃない部分も受け入れられそうな気がします。今回は2時間版しか見つからなかったのですが、いつか完全版を見つけたら観てみたいです。

・・・・・観ました。


ニュー・シネマ・パラダイス
完全オリジナル版


 この完全版は''蛇足の完全版''とも言われているそうですが、UKIUKIは興味深く観ることができました。正直これは蛇足だなってシーンもあるし確かに2時間版で''十分''とも思いましたが、追加されたシーンの中でアルフレードがより多く描かれ、また故郷に戻ったサルヴァトーレがまだエレナを追い求める姿など、2時間版では何となく物足りない感じだった部分が描かれていてじっくり観られたのも良かったような気がします。
 アルフレードがアンナと送った人生は幸せなものだったと思えたし、でも自分ではどうしようもなかった映画への愛や夢でいっぱいの気持ちをトトに託していたのでは〜とより強く感じられました。
 母親が「本当にあなたを愛する声をまだ聞いてない」と言っているけれど、サルヴァトーレがまだ生涯の伴侶に出会っていないのは彼がエレナを忘れられずにいるのだろうとは2時間版でも想像できたけど、過去も今もあんなに気持ちに正直な行動をとっていたとは、そしてエレナに出会えなかったいきさつにびっくり、またエレナとの恋のフィナーレに至る過程が切なくもありエレナが感じたように夢のようでもありました。
 サルヴァトーレ青年が故郷を出た時、またラストのシーンでの感情が、もっと複雑なもののように思えてきました。アルフレードが預かっていたキスシーンをつないだ形見のフィルムは、映画が好きっていう少年の頃の純粋な気持ちを甦らせてくれると共に、もう一度背中をポンと押してくれているような気がしました。