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サトラレ


 先天的に心の中で思ったことが周囲の人に「思念」として伝わってしまう「乖離性意思伝播過剰障害」をもつ人のことを『サトラレ』という。彼等はみな高いIQを持つ天才、国家にとっての財産であることから、政府は法律を整備し、彼等を警護している。しかもサトラレ本人には、自分がサトラレであることは知らされていない。
 このアイデア、つまりサトラレの障害と能力、政府の思惑と彼等を取り巻く周囲の状況など、今まで思ってもみなかった発想が素晴らしいです。これだったら、何人ものサトラレのいくつもの人生で、ドラマがいっぱい作れそうです。

 症例7号の里見健一は臨床外科医を目指しています。これは素人の私が考えても、ふつう問題アリですね。そこで臨床医をあきらめ新薬開発の研究でその能力を発揮すべく心変わりさせようと、自衛隊から精神科医小松洋子が派遣されます。
 そしてもう一つの問題は、彼が恋をしたこと。私生活も全て知られてしまう可能性があるのでは、彼とつきあう勇気を女性に求めるのは無理でしょう。
 彼がサトラレであることを知らないがために起こる問題や困難、せつなさや悲しさ。周囲の状況がややコメディータッチで描かれているのと対照的な彼の純粋な姿に、自然と涙があふれてきます。
 彼にとって祖母は、彼の全てを受け入れてくれる唯一の存在だと思いました。彼のこれからの人生で、祖母に代わって彼の心が安らぐ場が得られることを願わずにはいられません。

 なんとかサトラレであることを小さい時から認識させれば、問題の多くは解決されるようにも思えるのですが、本人がストレスに押しつぶされる危険や、国家の財産能力が目減りすることを恐れてか、許されていないようです。
 症例1号の「自殺すらもさせてもらえない。」という言葉が重かったです。