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A.I.


 キューブリックの企画を受け継いだスピルバーグの作品ということで、「愛することをインプットされた子供ロボットが捨てられ、母親を求めて旅をする悲劇なんだ」というイメージで観始めましたが、さすがファンタジーの要素(?)がたっぷりのSF大作で、泣くのも忘れて引き込まれました。翌日二回目を観たら、今度はHaley Joel Osment演じるデイビッドのひたむきさが切なくて、あちこちで泣いちゃいました。そして、観た後いろんなことをあれこれ考えてしまう余韻の残る映画でした。

 なんと言っても、Haley Joel Osmentの可愛くて切なくて迫力のある演技には感動しました。どんなに人間にそっくりでも現実はメカ、ピノキオのように本物の人間になってまた母に愛され一緒に暮らすことを願い続けるデイビッド。体の動き、表情、話し方の端々に、メカであることの現実がにじみ出ているのがすごいです。

 無機質な笑いと周囲の状況を機械的に観察していたのに、モニカを親とインプットされたとたん、表情が変わり始め「マミー!」って、なんて可愛いこと。
 マーティンに誘われて、テディを呼ぶときのかすかなメカっぽさ。
 おもちゃのヘリを壊さないと判断できるのに、マーティンとほうれん草を食べ競い、約束を守ってモニカの髪を切ってしまう子供らしさ。子供らしさと言えば、Dr.ノウの所でフェアリーの映像を追って機械(?)の上によじ登ってしまうところもかわいくて好きです。
 二人でドライブに行こうとモニカに言われた時の嬉しそうな表情は、次の日捨てられるデイビッドをいっそう可哀相にします。
 森の中でモニカに置き去りにされようとする時のデイビッドは、悲しすぎます。必死にすがりついてお願いし謝り、そしてピノキオのように本物の子どもになるからと一心不乱に訴えます。今までHaleyと言えば静かなシーンの印象が強かったけど、この映画では、私にとって一番忘れられないデイビッドです。
 そして、デイビッドの切ない旅が始まりました。

 未来の地球では温暖化で都市は水没し、異常気象で食糧等不足し、妊娠規制されています。そこで社会生活を維持するため、いろいろな用途のロボットが作られていました。

   そもそも妊娠許可の下りない夫婦が子供を望むのは、自分が愛情を注いで子供をかわいがりたいという気持ちがいちばんにあると思います。
 インプットされた親に真の愛情を抱き続ける子供ロボットは、親に愛されたいと思います。子供ロボットに愛された親は、自分も子供ロボットに愛情を感じることで、子供をもつことに望んだ願いがかなえられます。慕われて愛を求められているのに愛情を十分に注げなくなったら、冒頭サイバートロニックス社で女性が発言していた子供ロボットへの責任ということだけでなく、親自身が苦しむことになるのです。
 実の息子マーティンが戻ってきていくつかの問題が起こったけど、だから母モニカが子供ロボットのデイビッドを愛せなくなったのではないと思います。問題は、どんなに人間に似ていてもデイビッドがロボットだからです。父ヘンリーが、家族を危険から守りたいという気持ちもよく分かります。
 森の中でデイビッドを捨てるとき、彼にすがりつかれたモニカはどんなに辛かったか。でも彼を愛していたから、どうしても廃棄することだけは避けたかったのでしょう。でもそのとき、モニカは気づかなかったのでしょうか、デイビッドがモニカを愛し続けることを。デイビッドは諦めたり恨んだり出来ないから、モニカの愛情を求め続ける。それがこの物語の一番悲しいところだと思います。

   突きつめてみれば思考や感情は脳の中の化学変化や電気信号によるものと捉えるなら、将来限りなく人間に近い思考や感情を持つロボットが出来ても不思議はありません。でもロボットの宿命として、クローン技術や人工生殖で産まれる''本物の人間''と違い、有機体ではないメカの体。生まれてからの経験や体の成長に伴う記憶がない。製造後の記憶や、思考や感情の進化はあっても、体の成長や老いがない。親が老いて、死を迎えても、いつまでも子供のまま生き残るのです。あの時捨てられなかったら・・・と考えても、いつか悲劇が訪れるのです。

 じゃあ、廃棄すれば良かったの?とんでもない!!彼はスペシャルでユニークでしょう、思考や感情はほとんど人間なんですもの。

 だったら、いろんな状況を想定して、思考や感情をコントロールするプログラムをインプットしておけばいいのかな。でもそれだと、限りなく人間に近いレベルからロボットに逆戻りってことだし、・・・。あれこれ考えるのはおもしろいけど、混乱するばかりです。

 本物の子どもになろうとブルー・フェアリーをさがす旅。ジゴロ・ジョーとの出会い。あの独特の雰囲気、人を引きつけるものを持ってましたね。なぜかデイビッドが彼の手を離さないところがおもしろいです。
 ジャンク・フェアに集まる人々の想い、やってることはむちゃくちゃだけど、分かるような気がします。
 子守ロボットがデイビッドに向ける笑みも印象深いです。自分の体がどんなになっても、壊されようとしていても、最後までインプットされた子守でいるところが、デイビッドと重なります。
 トコトコ走る後ろ姿が可愛いテディは、肝心なときにデイビッドを助けてくれて、デイビッドの旅を最後まで見届けてくれました。

 飽きのこないストーリー、数々の豊富な映像表現がみごとでした。空にまでネオンが映る未来都市はおもしろかったけど、Dr.ノウの登場の仕方や、マンハッタンの海底での映像が、私の気分には合わない感じがしました。

 本物の子どもになることはどうしても叶えられない願いだったけど、モニカとの再会を果たしたデイビッド。最後の一日、ゆっくりした雰囲気にかえって感動が込み上げてきます。シャワーの後モニカに拭いてもらうデイビッドは最高に幸せそうでした。デイビッドが求め続けたモニカからの愛情は、最後にモニカの口から伝えられ、穏やかな表情で眠りにつくデイビッド。
 未来人は、彼の記憶や彼の最後の一日から何を学ぶのでしょう。もしかしたらあの未来人は、私たち?