本の紹介

 

2013.5
『八甲田山死の彷徨』
作者 新田次郎(にったじろう)著
初版 昭和53年
出版社 新潮文庫

(病院の待ち時間のために買った一冊)
 これは日本が日露戦争を始める前に八甲田山で実際に起った出来事。
日露両国が戦争状態になった場合を想定し、 日本軍は真冬の激寒雪中の八甲田山踏破を徳島・神田の二人の大尉に命じる。
二人はそれぞれ八甲田山を徳島大尉率いる三十一聯隊は三本木から・神田大尉が率いる五聯隊は青森からと 同じ道程を逆コースから縦断することになる。
地元の経験者の意見を取り入れ、次々とその土地の者を道案内人として採用し、一人の落後者もなく遂行した三十一聯隊に対して、 五聯隊は神田大尉を差し置いて指揮権をとった山口少佐のために聯隊は混乱をきたし百九十九名という犠牲者を出す。
五聯隊の激寒の雪中行軍の様子はリアルで凄く、人は寒さのために簡単に幻覚・発狂すらすると知った。
 なぜ全責任権のある神田大尉が山口少佐のいいなりになったのだろうか・・、 当時将校のほとんどが士族か華族の出身で士族の子弟でなければ士官学校に入れなかった差別の時代、 平民で軍人になるには教導団を経なければならず、神田大尉はその教導団出身だった。
神田大尉は優秀な人だったが山口少佐に対し教導団出身がコンプレックスになっていたのかもしれない。 そのため自分の意思を通すことが出来なかったのだ。いや、中佐に対しものがいえない時代だったのだ。
 自分の見聞を広めるためのみに参加した山田中佐がとった指揮は浅慮で、悲惨な結果を招くことになり、 指揮者の資質を問う見本のようにも読める小説だった。
 いつの時代でもリーダになる人は的確な判断力・決断力が必要だ。
 これは現代の政治家にも言えることだと思った。

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