本の紹介

 

2013.6
『わりなき恋』
作者 岸恵子
初版 2013年
出版社 (株)幻冬舎

 国際的なドキュメンタリー作家伊奈笙子と大手企業に勤めるビジネスマン九鬼兼太の 数年間の知的な大人の恋愛。
 プロローグから何となく物悲しい別れの予感がしたので、読み進めながら どんな恋の終息が待っているのだろうかとミステリーをも読むような気持ちだった。
 横浜・パリ・香港・モスクワ・ウィーンと逢瀬の舞台も国際的で、教養ある二人の会話も粋で楽しい。
例えば、ローラン・プティが誰で、ゾルゲが何をした人か、 クリムトの絵『接吻』や『ダナエ』を知る者にはなお楽しい。
 年の差を越えて時には冷静に又情熱的に惹かれ合う二人。当然それに伴う愛するがための苦悩も深いはずだが、 余りにもすべてがロマンティックで綺麗で、そこに生身の九鬼の苦悩する姿が見えてこない。 そこが物足りないといえば物足りない。
 やがて、老いの入口に差し掛かったとはいえ”秋の華やぎ”のさ中にありながら九鬼との現実を受け止める笙子。 エピローグでは”やはり”と思わせられた。
 作者は女優の岸恵子さん。上品な恋愛映画を観終わったような読後感だった。

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