作者 岸恵子
初版 2013年
出版社 (株)幻冬舎
国際的なドキュメンタリー作家伊奈笙子と大手企業に勤めるビジネスマン九鬼兼太の
数年間の知的な大人の恋愛。
プロローグから何となく物悲しい別れの予感がしたので、読み進めながら
どんな恋の終息が待っているのだろうかとミステリーをも読むような気持ちだった。
横浜・パリ・香港・モスクワ・ウィーンと逢瀬の舞台も国際的で、教養ある二人の会話も粋で楽しい。
例えば、ローラン・プティが誰で、ゾルゲが何をした人か、
クリムトの絵『接吻』や『ダナエ』を知る者にはなお楽しい。
年の差を越えて時には冷静に又情熱的に惹かれ合う二人。当然それに伴う愛するがための苦悩も深いはずだが、
余りにもすべてがロマンティックで綺麗で、そこに生身の九鬼の苦悩する姿が見えてこない。
そこが物足りないといえば物足りない。
やがて、老いの入口に差し掛かったとはいえ”秋の華やぎ”のさ中にありながら九鬼との現実を受け止める笙子。
エピローグでは”やはり”と思わせられた。
作者は女優の岸恵子さん。上品な恋愛映画を観終わったような読後感だった。
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