Dream Lobby(ドリームロビー):第1話
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  第1話:片腕のピアニスト 前編


いつもの日常。

いつもの雑踏。

いつもの光景。


名前:茅原 小五郎(かやはら こごろう)
年齢:21
性別:
職業:音大生

備考:父は世界的に有名なピアニスト。そのDNAを受け継ぐ金の卵として将来を有望視されている





今日も、そんないつも変わらない毎日の中の一日    だった。









ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー・・・・・・・・・・



ガラララララララララララ
*「先生!心拍数低下しています!」



[手術中]








[手術中]



*「先生。息子は」
*「命に別状はありません。よく峠を乗り越えたと思っております。ただ・・・・・」
*「・・・・ただ?」
*「・・ただ・・・あの左腕だけはもうどうにもなりません。切断するしか選択は無いでしょう」
*「そんな・・・・・・・・もうピアノは弾けないのでしょうか」
*「右腕だけなら可能でしょう。奇跡的にも右腕だけは無傷ですから。」






・・・・あれ?ここはどこ?

*「気が付いたか。」

・・・・父さん。

父「・・・・気分はどうだ?」

・・・・なんだか腕のあたりがジンジンと熱い・・・・あ・・・・・・あれ?


!


な・・・・・なに・・・・・!?・・・・・これ



父「・・・・・実はな・・・・・」



そん・・・・な・・・・・左腕が・・・・・・
父「慌てるな!


・・・・




父「・・・・という訳だ。お前は交通事故で左腕を失う怪我をした。ピアニストとしては辛いが右腕は無傷だそうだ。」


・・・・片腕か・・・・

父「お前が眠っている間、先生の勧めで『ドリームロビー』に登録しておいた。今晩から使いなさい。」



・・ドリームロビー?

父「先生曰く、『夢の中のMMなんたら』って奴だそうだ。父さんはコンピュータの知識は無いからどんなのか解らんが、退院までの退屈しのぎにはなるだろう、という事だ。」


・・・MM・・・Oの事?

父「確かそん・・・な名前だった気がする・・・すまんな。」


後で看護士さんに聞いたんだけど、ここの病院はドリームロビー登録というのをしていて特定の入院が必要な患者さんは退屈しのぎと社会生活のリハビリを兼ねてドリームロビーに入れてくれるそうだ。
ドリームロビーと聞かれてもピンと来ないけど退屈しのぎになるのならイイかな。夢の中で両腕が使えますように。






ZZZZzzzzz.......



System:受付

ナナミ「いらっしゃいませ。ドリームロビーへようこそ。現在104人がログインしています」

えー・・・っと、確かアバター変更を選ぶんだっけ。で、その後ロビーへ、と。

ユーザーネームは・・・名無しじゃつまらないから「フォルテ」にしよう。音楽用語で「強く」って意味だ。


System:ロビー

・・・お?左腕だ。両腕がある。わーい。


さて、どこに行こうかな・・・ピアノ置いてあるところないかな・・・



*「お、新参?」

フォルテ「あ、どうも。」


フォルテ「あ、そうだ。ここで音楽についての溜まり場みたいなのって無いですか?」

*「あぁ、あそこに『ドリームタワー』ってのがあるだろ。そこの7階が音楽カテゴリだよ。まぁ雑談が多いけどなw」

フォルテ「ありがとうございます。」



System:ドリームタワー7F「音楽」

*「だからそんなのピックにしちゃダメだって」
*「あのメロディーは無いよな」
*「起きたらカレー食べよう」

んー・・・色んな話題で盛り上がってる・・・誰と話そうかな・・・






ピアノ発見。ドラムセットにギターもある。弾けるの?


フォルテ「あ、すみません。コレって弾け・・・ます?」

*「? アンタ初めてかい?」

フォルテ「あ、はい。今日初めてココへ来た者です」

*「ほぅ。弾けるといえば弾けるよ。ただ実際の楽器と同じだからヘタな奴が弾くと顰蹙買うからあまり使われてないんだ。」

フォルテ「なるほど。弾いてみようかな♪」

*「お、いけるクチかい?いっちょ聴かせておくれよ。」


左腕が無くても左腕の感覚は覚えてるんだ。よーし・・・



  
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ ♪  ♪ ♪  ♪  ♪ ♪ ♪ ♪


   ♪      ♪


ふー。あーやっぱり覚えてるんだ。嬉しいなー


*「・・・・・・・・・・・パ・・・・パ・・・パチ・・・・パチパチ」
ワーーーーヒューヒューーーーーーー
すげぇーーーープロかオイなんだ今の

あぁ・・・一斉に沸き起こる大喝采。あの時事故らなかったらこれくらい貰えたんだろうか・・・


*「すげえ!カッコ良すぎるぞ今の!こんな演奏聞いたの初めてだ!アンタ何者なんだい!?」

フォルテ「あ、ありがとうございます。小さい頃からピアノをやってまして。」



・・アンコール・・・・アンコール・・・アンコール!・・・・アンコール!


え   ? ええ??いいの?


フォルテ「えー、じゃもう1曲。」


 :
 :
 :


ピピピピピピ・・・


あ、もうこんな時間だ。そいや病院内だから制限時間が1時間だっけ。


*「また来てくれ!また聞かせてくれ!待ってるからよ!」

フォルテ「ええ。ピアノ弾くのが大好きなんでまた来ます」



 [ログアウト]





んー・・・えー・・っと、あれ?




コンコン あ、どうぞ。


父「おはよう。よく眠れたか?」

あ、おはよう父さん。ピアノを弾いて聞いてたみんなが拍手をくれた夢を見たよ。

父「あぁ、そうか。昨夜の出来事の記録が出てるからコンピュータで見なさい、と先生が言ってたぞ」


え?記録?ログ??


フォルテさんへのメッセージです。
*「感動した!また聞きたい!」
*「CDとか出してますか?出てたら欲しいです」
*「今度俺のギターとセッションしようぜ」
*「プロなの?ねぇプロなの?」

  :
  :
  :


父「(覗き込んで)ほぅ。大盛況だな。」

え・・・何コレ・・・もしかして夢の中にいたみんなが・・・?






次の日、またログインして7Fへ向かった。昨日のメンバーとは若干違うけど覚えてる人がいた。


*「お!ピアニストのフォルテだ!また今日も頼むよ。」


みんなが本当の僕は片腕が無いことを知ったらどんな顔するだろうか・・・ちょっと複雑ながらも僕の為に用意していてくれたピアノへと向かった。




続く

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