くらしのなかで
―― 建築家の視点から ――

vol.8


記憶になるようなものをつくる


私の生まれ育った家には 黒い土の土間 がありました。
そこにはクドというかまどがあり、私は幼少の頃
このクドのまわりで一日の多くを過ごしておりました。
当時、我が家はガスの炊飯器を使っていましたが、
時々クドに火を入れたことを覚えています。
この土間とクドはとにかく私の大好きな場所でした。

土間もクドも昭和51年、
自宅の改築工事により姿を消しましたが
私のその空間体験の記憶は未だに消えていないのです。

土間もクドも記憶の底にしっかりと根付いており
私の建築活動の原点となっています


そういう自分の体験があるからこそ、
特に住宅の設計では『何か記憶になるような空間の仕掛け』
つくれないかを考えます。
当然、その『仕掛け』は家によって違います。
それは広い土間かもしれないし、堀コタツかもしれないし、
大黒柱かもしれないし、大きな階段かもしれません。

意識的にこういった『仕掛け』をしつらえていくことが
『簡単に家を壊さずに住み継ぐこと』への
働きかけにもなるとも思っているのです。

クド を懐かしく感じる人も多いのでは・・・

2001.05