RaputaHeaven 「LOCAL ONLY」リリースインタビュー

 

 

アルバム発表おめでとうございます。SUPPON RECORDSよりリリースされた「カナシバリノコントローラー」から5年が経ちました。この間EPやコンセプチャルな作品を発表されていますがフルボリュームのアルバムは5年ぶりかと思います。この5年間はどのように過ごされていましたか。

 

ありがとうございます。京都から三重へ移住して、就職試験、就職、結婚、出産と生活面で大きな変化があった5年でした。音楽では、公園サイファーの企画にはじまり、CAKRA-DINOMIX(チャクラダイナミクス)結成、野外イベント開催、ライブ、ラップアルバム、DJ作品リリースとたくさん動けたと思います。

 

京都から三重に移住して感じたのは先輩のありがたさです。SUPPON RECORDSの先輩方をはじめ、助言や指導をしてくれた先輩の存在が急になくなって、これまでの生活がとても贅沢で刺激的だったのだと感じました。同時に、今まで人に頼りながら学んできたことを生かして、これからは自分で自立して新しい表現を追求していこうという考えに転換しました。
公園サイファーやCAKRA-DINOMIXの活動はそういった動機によるものです。ピアノの引き語りアルバム「HATASE」や「TSUCHIYA」は誰も試みたことのないような新しい表現を形にしたくて制作しました。この意識が今もあって、地元から新しい音楽を、それも地元の生活や文化に根ざした形で発信できればと考えています。

ただ、ここで独創的な活動をしようとすると、客層が限定的になりがちなんです。ですから「客層と活動の場を広げたい」「縮小化して自己満足にしない」という意識を持ち、夏祭りなど公の場に活動を広げたり、都市部から強力なゲストを招いたりして、モチベーションを保てるようにしています。



アルバムの紹介文にも書かれている通り「LOCAL ONLY」はカナダのラッパー、EPICのアルバムタイトルからの引用ですよね。EPICはカナダを中心とするナードラップシーンの中でもその弱々しいラップスタイル、それと相反する丁寧なヒップホップアティチュードによりかなりの異彩を放つラッパーだと思います。EPIC引用の経緯、アルバムコンセプト、あなたにとってのカナディアンヒップホップについて教えて下さい。


EPIC氏に関してはその通りですね。僕の中でのナードラップとは、「ちょっぴり知的なオタク君たちのラップ」という印象なんですが、その中でもEPICは最高のMCです。弱弱しいキャラクターでハードなことを言って粋がったり、曲数稼ぎ(?)のSKITに他人のアカペラを入れたり、ほとんど同じ内容の曲を違うアルバムに入れてみたり…。そういうズッコケなのに、本人は知的で、至って真剣にやっているところがすごくかっこいい。

ラップにおいては、西海岸アンダーグラウンドの複雑なリズムワークや、ANTICONの持つ白人オタク臭みたいなのがカナダのナードラップ連中から感じ取れるのでとても好きです。音の面でも、哀愁を帯びたメロディの強い上ネタとスッキリした低域、シンプルでループの強い展開が特徴的で、聞きやすい日本人好みの音だと感じます。特にSOSOやMAKI、FACTORの作るトラックが好きです。2006年~2010年頃までカナダのナードラップ盤がたくさん手に入りました。日本のインディペンデントレーベルHueの恩恵が大きいですね。

カナディアンヒップホップから学んだことを生かした作品にしたかったので、当初はすべてオンビートで、グダグダラップするようなアルバムを作ろうと思ったんです。ちょうど彼のように。笑 トラックも、上ネタ1トラック+ベース+ドラムでシンプルにと考えていました。いざ歌詞を書き始めるとだんだん複雑になっていって、完成形は結局いつも通りって感じでした。

尊敬するEPICへの愛を込めてタイトルはそのまま引用で「LOCALONLY」。現在の地方での私生活にもぴったりハマって良かったです。「Music appreciation III」はEPICの「Music appreciation II」の続編を勝手に作るという愚行に出たわけですが、この行為さえもEPICぽくて良かったなって思ってます。「僕のヒーローはあなただよ。今でもCD聴いてるよ。」って内容です。
カナディアンヒップホップはCDの流通さえ減った感じはありますが、まだまだ学ぶことは多そうです。北欧ブームやなんやに乗っかって、もう一波来てほしいところですがどうでしょうか。近年では2013年に出たSOSOの「Not for Nothing」が良かったです。

 

 

平日は仕事に従事するラッパーにとって仕事と音楽の両立は永久につきまとう課題だと思います。多くのラッパーはそれを「ハレとケ」「週末音楽をしている自分こそが本当の自分」と対比して表現することに対して、このアルバムではあくまでも生活の一部として音楽制作が捉えられていることがすばらしいと感じました。ラプタは生活の中での音楽をどのように意識して位置づけていますか。

 


音楽で生計を立てているプロではないので、平日は仕事に従事しています。自営ではないサラリーマンですし、真剣に取り組んでいるつもりですが、人生を懸けて自主的に残業しまくるような働き方はしていません。そんな生活の中で、仕事を音楽生活にどう取り入れるかに悩んだ時期もありました。働きたくない怠け者の代表として、制作に追われるクリエイターの一人として、労働時間とプライベートな時間は常に天秤の上ですからね。

 

でも働くにつれ、仕事で学んだ技術をプライベートで生かせる機会がちらほら。その逆もあって、クラブに通って学んだ交渉術やルーズなマナー(笑)が仕事で活躍すると、おもしろいなと思うようになりました。このまま互いの時間をうまく両立して生かせればと思います。ただ、双方が手抜きにならないよう、気持ちを切り替えて仕事やライブに臨むように注意しています。

 

音楽の位置づけは、本心を語ると生活のピラミッドの頂点です。年齢を重ねるにつれ「自分はもう、これをする人間なんだ。これをやって成長していく人間なんだ。」という意識が強くなってきました。民芸品職人の2代目かって感じですけど。でも頂点であるからこそ、仕事や家事で時間が作れない場合でも、ほんの短い時間に集中して取り組める脳になってきました。今作は2日(1日2~3時間)で一曲の歌詞(ラフですが)を仕上げるペースで制作しました。なんにしても家族や職場、友人たちと周りの理解があってこその活動で、本当にありがたい話です。

 

 

前作と比較すると面白いのが近年の曲ではリリックのところどころに「諭吉」という単語が出てくるところです。しかもメイクマネーといった文脈に限らず使われ、ある意味「諭吉」という言葉は都市や地方、立場に関係なく我々がきってもきれない「大きな力」として表現されているように感じました。これはラプタ自身もかなり意識的に使われているのですか。

 

諭吉は「ヒト」の名前なのに、「モノ」である紙幣を指すのでそのねじれが面白くてよく使います。「諭吉」は全ての人にとっての「大きなシステム」であり、「絶対的な説得力」の象徴でもあると思います。これまではそういった絶対的なものに反抗したり、価値を否定したりが多かったんです。でも生活の変化とともに、自分もその軸上に身を置き、システムを理解して成功を目指す方がスマートなのだと考えるようになりました。

 

考え方一つなんですけど、お陰で悩みも減り、うまく肩の力が抜けたと思います。家、車、子供の学費と、たぶん、ここみたいな地方での生活ほど諭吉の行き先が単純で明確ですね。そのぶん諭吉が持つ説得力も普遍的でゆるぎない。

 

 

日本語ラップシーンではハスリンラップ、エモーショナルラップ、日常モノ、SWAG、などこれまでにあった小さなトレンドも、最近ではより見えづらくなっているように感じます。ラプタは日本語ラップシーンやその動きをどのように意識していますか。

 

日本語ラップの最近の動き、丁寧に把握できてないのが実情です (笑)
一線では数人のカリスマプロデューサーたちが非常にクオリティーの高いトラックを生産し、極々少数のカリスマエンジニアがそれを神のような技術でミックス、マスタリングしている。その生産ラインに乗れるラッパーが成功しているっていう印象でいます。かなりの偏った意見ですが。
女子ラッパーは依然日常モノで、ネットラッパーは依然エモーショナルで。ってこれも偏見ですね。
確かに小さなトレンドの波は消えているのかも。最近の日本語ラップはどれを聞いても僕のラップスタイルと全然違うし、その距離が開いているのを感じます。でも自分のスタイルが古いとも思わないし、これは自分を個として提示できているところもあるのかなってポジティブに解釈してます。

 

 

先ほどカナディアンヒップホップを挙げました。またリリックの中からもPROJECT BLOWEDら西海岸アンダーグラウンドシーンの影響などが読み取れます。アルバム制作の中で影響を受けた作品を是非教えて下さい。

 


影響を受けたのはEPIC、SOSOの全アルバム作品。他に、制作中はELIGHのアルバム”GreyCrow”をよく聞きました。存在感のあるボーカルミックスが特徴的です。グライムでは、SirSpyroのMIXCDをよく聞きました。僕のアルバムはミックス・マスタリングも自分でやったんですが、その手本としてZEEBRAの“25toLife”、SWORDの“ONE PIECE”を参考にしました。ラップ以外だとjaraの“dansadu vid mig”をよく聞きました。次作は彼女みたいに神秘的で冷やかな曲を作ってみたいものです。音楽以外での芸術作品などの影響は特にないですね。

 

Kill Me Softlyの丁寧な歌詞が好きです。特にこのアルバムはRap About Rap(ラップをテーマにラップする曲)が多く、地に足をつけて歌うことが強く意識されていると感じます。ラプタ自身このアルバムで特に思い入れのある曲について教えてください。

ありがとうございます。Rap About Rapという言葉は2007年頃に知り、意識するようになりました。自分の生活を語るうえで欠かせないので、音楽やラップのトピックは多く用います。しかしできるだけ自然な流れで文章に含みたくて、一曲がまるごとラップのトピックになることは無いです。思い入れのある曲は4曲目の「SakuraTouge」です。僕の住む町から、飯南町という隣町の間にある峠の曲なんですが、トピックにとらわれすぎることなく、車で峠を走る様をナチュラルに表現できました。歌詞の中での視点の移り変わりを思考と行動で明確に、かつテンポよく切り替えができたのでなかなかうまくいったなと満足しています。

 

 

緻密なサンプリングやヒップホップマナーに誠実な曲が並ぶ中、ラップフロウについては変則的なものや倍速など豊富なリズムアプローチがこのアルバムを彩っていると思います。ラプタはラップの「技術」、「ラップの上手さ」についてどのように考えますか。

 

 

ラップの魅力は様々な要素から成り立っていると思いますが、本人が容易に変えることのできない「カリスマ性」「ビジュアル」「バックボーン」などの不可変の要素と、「歌詞」「リズム」「メロディ」などの可変要素に分かれると思います。ラップの技術を考える時、この可変要素をどう構成しているかに注目しています。僕のラップは特に歌詞とリズムが持ち味だと自覚しています。曲を作る時は、曲単位でいかに直観的に響くかということを考えると同時に、いかに自分の感情をうまく日本語で表現するか、また、いかに複雑なリズムパターンを組めるか。という細部の技術的な側面も考えながら作業しています。

 

しかし、深く考えすぎたり、作り込みすぎるとごちゃごちゃにな ってしまいがちです。曲を彩るのが目的の「工夫」が、自分の制作工程を納得させるための「まやかし」にならないように注意しています。やはり、体で感じる。心で感じる。といった、感覚的な部分を基礎に制作しないと「技術」がどれだけあっても曲はよくなりませんよね。不思議なものです。
トラックはラップのリズムワークが映えるよう、シンプルに作りました。

 

 

最後にこれからのライブスケジュールや、レーベルのリリース情報ついて教えてください。

 


ライブは月2回程度のペースで、三重、大阪、京都を拠点にクラブ、地域の祭などで。地元でのセッション、サイファーなども積極的に参加していきます。リリースは先日“RIVER SIDE MIX”というMIXCDをリリースしました。CAKRA-DINOMIXのクルーで、2015年9月にインスト集をリリース予定です。次のアルバムも制作していて、またCANADIAN HIPHOPライクなアルバムができそうです。ライブ情報はHPに、新作リリース情報はHPSOUNDCLOUDに掲載していきます。皆さん是非チェックよろしくおねがいします。                    

 Raputa Heaven

 

 

RaputaHeavenSOUNDCLOUDにてアルバム全曲視聴、DL可能です→こちら

アルバムはラプタのライブ時などに配布予定。

 

 

1.New Kicks
2.Technics
3. Midnight Run feat.Catarrh Nisin
4.Sakura Touge
5.SKIT Django
6. Eikyu task
7.Special Combo
8. Music Appreciation III
9. Iinan Relay System feat.寛治,DJ naturalbase,ヒロポジドッグ
10. Kill Me Softly
11.サイン
12. Technics pt2
13. Life is one time

 

All Songs Produced by Raputa Heaven
Rec,Mixed &Mastered by Raputa Heaven
TUNEREX Engineering Mie Japan
Exective Producer: Junk Old Asia
C&P Junk Old Asia
2015 Cakradinomix

 

 

 

 

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