さすらいのトラブルバスター (1996)


 生放送番組を大コケさせたTVディレクター宇賀神(鹿賀丈史)は、コケさせた番組これで6本目ということで、ついにその失敗の責任をとって、田所局長(山城新伍)から総務部総務課庶務係へ回されることに、つまり言葉巧みにトラブル解決係(トラブルバスター)を押し付けられました。
 まずはロビーでアイドルタレント春風環(小林恵)に”接触”してきたファンを引き離すことに成功した彼に、局長は「3つのトラブルを解決したら、ディレクターとして現場復帰させる。」と約束します。これ井筒和幸監督が、その約束を信じてテレビ局の裏側で起こる揉めごとの処理に奮闘する宇賀神の姿を中心に、そのトラブルのひとつである記憶喪失の男(村田雄浩)や、新番組の出演者なのに過去をネタにゆすられている環(たまき)、ディレクター仲間の秀子(久本雅美)らとの絡みを面白可笑しく描いた業界コメディです。

 オープニングの生放送”ミッドナイト”シーンを観て、正直言って うわっしょうもない〜!と思ったけど、そのうちに、軽く楽しめるかな〜と気を取り直して観ていました。観終わってもまあ、感動するとか大笑いしたというのではないけど、なんとなく楽しみました〜って感じです。

 ところで、環が所属する日の丸プロは、テレクラ遊び風の子をスカウトしてきて売り出すとか、環の素性を隠そうと画策し、環の代わりに別人を仕立ててそのタレント久美子も売り出そうとするとか、どうもアブナイ感じの事務所です。そしてそこの社長(宍戸錠)の手先になってる取り巻き連中の、それもたぶんいちばんの下っ端というのが阿部純大の役でした。宇賀神らを拉致して閉じ込めていた倉庫の見張り役してた兄ちゃん、数秒だったけど体張ったしね!? なんか落としたカセットテープでワケわかんなかったけど振られて反応する演技してます。その一瞬見て、なんだかニヤケちゃう。愛おしいです♪ 数秒の出演というと、「壬生義士伝」の伊藤英明は出演の意味が違うかもしれないけど、「ワーキング・ガール」「悪影響」などのDavid Duchovnyと同様、ショービジネスの世界に入ったとたんにスター扱いされたのではなく、一からキャリアを築き上げてきたんだということが実感できる作品です。伊藤英明になって、「デボラがライバル」でもそうでしたね。
 また、ドラマデビュー作の「デッサン」では思ってたよりずっと大人の雰囲気の役で意外だったけど、逆のぼって映画デビュー作の「KISS ME」とこの「さすらいのトラブルバスター」を観て、彼って大人の役(まっ、頼りない大人だけどね)でスタートしたんだ〜!って再確認。学園モノや青春モノとかは無かったんですね。UKIUKIの知らないモデルとか他のお仕事では、また違った雰囲気を出していたのでしょうが、このまま阿部純大として俳優さんをしていたら、その後の出演作は今とはずいぶん違っていったような気がします。
 一般社会でアルバイトしたり、事務所を変わったりっていうのがはっきり何時なのかよくわからないけど、そういう経験が彼の人としての懐をふくらませたと思うし、伊藤英明になってからは、事務所の社長さんとかが見出した彼の持つ魅力や才能っていうのもあってか、まず「デボラがライバル」で爽やかで美しいカッコ良さを印象付けてくれたし、その後もいろんな役をやりつつも、純粋さとか優しさとかが彼の中から自然に出てきたと思います。UKIUKIなんかは苦悩する繊細な心情がツボだし、思いっきり面白くて可愛いのも大好きだけど、そんな俳優伊藤英明の最初の一歩が阿部純大時代だと思うと、ほんの数秒のシーンも無くてはならないものだったって思えてくるのでした。