スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ (2007)


 この映画を待っている間、ちょこっとずつ情報が入ってくるのを それはそれで楽しみつつ、でもあんまり内容は知らないままで観たいな〜とも思ったりしていたのですが、ある時映画誌読んでて、あらすじと共に ちょっとしたお遊びどころや お決まりのウエスタンやマカロニがどんなところに散りばめられているかというお楽しみポイントなどを予習しちゃったんです。これは今思うと、ちょこっとしか西部劇経験のないUKIUKIにとってすごくラッキーだったなと思います。また映画の雰囲気が、「続 荒野の用心棒」ほど暗くて重い感じではなさそうなので、気が楽にもなりました。なのでオープニングのピリンゴ(クエンティン・タランティーノ)のシーンで、早速次から次へとチェックポイントが、そして何でもないお遊びの お日様を吊している糸が(わざと)映ってるの見てからもう楽しい気分に。とにかくこれは”娯楽作”で、”ハチャメチャなゴッタ煮の世界”にUKIUKIは抵抗無く入って楽しむことができました。
 ところが、あちこちに面白い具がいろんな味を出してるんだけど、すごくかっこいい具や とっても切なくて悲しいのもこの物語の具であって、それがまた美味しくて堪らなく お腹はいっぱいに 心にもいっぱい浸み込んできました〜。


***ここで、思いつくままの感想ですが***
 なんたって 孤高のガンマン(伊藤英明)が、むちゃくちゃ かっこよかったです。
 お馬に乗って登場したガンマンは、ほとんどシルエットなんだけどその姿が美しい。それに源平の間で立っているだけでも、絵になっている。また、ガンマンのアップになるときなんかに、光と影のコントラストをつけて撮られていたのが、すご〜くかっこよくて印象的でした。雪景色の中のガンマンも、ゾクゾクするほどかっこよかった。ラストで勢いよく馬を走らせて去って行くのもね、オォ〜〜〜って感じ。
 ガンアクションも すっごいね〜! コートを翻しての早撃ちや、馬で駆けながら銃を撃つのも、身軽なアクションで右に左に上にと次々命中させていくのもかっこいい。銃をクルクルッシュッとホルスターに収めるのも一瞬だからね〜、お見事!
 そして彼が話すと、そのお声がまた素敵でドッキドキ〜☆ UKIUKIは英語を聞く耳に自信はないけど、ガンマンの英語は彼の雰囲気にとっても自然に馴染んでいました。
 とにかくク〜〜〜ル☆なガンマンを眺めているだけで もう幸せ〜♪
 銃やホルスターなど、伊藤さんの自前なんですってね。衣装のデザインや生地なども ご自分で考えたり選んだり。乗馬もされるのに、ウエスタンのは馬も乗り方も違うのでしょうか、練習しなおしたそうですね。とにかく、撮影以前の練習、練習以前のこだわりや気合いが半端じゃない。

 そんなふうに かっこいい〜ガンマンですから安心して、彼の心の痛みや優しさを感じることができました。彼の弱みかもしれない部分を、物足らなく思うのではなく、すごく魅力に感じることができます。ガンマンの心情が心に浸み込んできて、このキャラクターを演じるのは伊藤英明しかいない!!って思います。
 ガンマンが、平八(内田流果)は源氏と平家の血を受け継いで生まれ 父親を殺されたショックで言葉を失っているということを知ったときに、その境遇を自分の過去と重ねて、平八をとっても悲しげに見つめたときの目☆ そして同時に記憶の痛みに耐えているようで、その表情がもう堪らなくよくって 魅入ってしまいます。ガンマンのシーンは み〜んな大好きだけど、なかでもこのときが、UKIUKIにとっての最高のガンマンでした♪ そして、お前もハーフなのかと問われ、そうなんでしょうね、でも深い心の傷に触れるな!というように一瞬睨んで詰め寄った表情にドキン☆としました。これも最高♪ ガンマンがこんなふうに感情を出したのは、このときだけだったような気がします。
 また、静(木村佳乃)や平八やるり子(桃井かおり)の3人に銃が向けられ、全員を救うためには銃を置くしかなかったので、与一(安藤政信)にボコボコに痛めつけられることになり 地面に倒されて這いつくばったガンマンが、さらになぶり殺しにされていく静と ショック状態の平八を、朦朧とした意識のなか やはり過去のフラッシュバックと重ねて見つめている、その悲しげな瞳も忘れられません。
 ついにルリ子も我慢の限界で、伝説の”血まみれ弁天”として復活。助けられたガンマンが、 先住民の末裔である伝七(塩見三省)に看病されて、息遣いも荒く苦しんでいるのがツボ☆だったりします(爆) そのうち平八が ガンマンに寄り添って眠り込んでいて、虚ろな意識のガンマンが平八の手を きゅう〜と握ってやるところが、とっても好きです♪
 回復したガンマンは、そのまま去ることもできたのに、自らやっかいな争いに巻き込まれに行きます。『それが運命なら、逃げないのが俺の流儀だ!』と。。。ガンマンの両親もきっとなぶり殺しにされ さらし者にされたときに、彼はそう決意したんでしょうか。最後まで ”ケリをつける”と 戦う姿が かっこよかったです。それは、”平八のために”だったと思います。だから最後の義経との対決は、義経がモノノフとして戦う形にこだわったのに対し、ガンマンは戦いの美学なんかじゃなく結果にこだわったような気が ふとしました。
 ガンマンの瞳には、悲しみと共に強さと優しさが・・・素敵でした〜☆


 源平ギャングは 埋蔵金目当てに争っているわけなんだけど、そのボスたちといったら・・・
 源義経(伊勢谷友介)はサムライではなくモノノフでありたいと、なんだか別世界で生きているような・・・。巧みなガン&剣さばきも芸術的でした。撮影でなかなかキマらなかったというお話に、やっぱり難しかったんだ〜と変にホッとしちゃったり。あの容姿とセリフとアクションで、ず〜っとクールに描かれておきながら・・・、去勢された弁慶(石橋貴明)に迫られたときのパニック感が可愛かったです。
 平清盛(佐藤浩市)の情けな〜い感じって けっこう愛嬌があって・・・。でも上に立つ者としては何かと自己中心的で、子分を盾に使うなんてどうなんよ、その子分たちがまた情けないし、またアキラ(小栗旬)や静に向けた凶暴さや、都合良く源平合戦から薔薇戦争に乗り移ったり、支離滅裂なキャラに子分が逆らえないという不思議なカリスマ性。でもやっぱり 情けな〜く追いつめられていく。今までいろんな作品で見かけるけど UKIUKIとしては普通な印象しかなかった佐藤さん、今回 映画の中でも外でも素敵な俳優さんだな、いいな〜って思いました。

 作品中、いちばん嫌いなキャラは与一(安藤政信)です。ガンマンを虐めたからとか、静に酷い殺し方をしたからというのではなく、正直言って単純に見た目が あの与一の口元が気持ち悪いんです。UKIUKIがいちばん印象に残っている安藤さんは、「RED SHADOW 赤影」の赤影役、涼しげで美しい目が印象的でした。ところが与一の目は、卑猥でいやらしく、狂気に満ちていく。見てくれも人間性もかなぐり捨てた与一ってキャラに、ぴったり嵌っている。すごい俳優さんなんや〜!って思ったのでした。

 西部劇だから人がいっぱい死んで、それぞれのキャラクターがそれらしく死んでいくのもこの作品らしいと思い、まあ映画なんだからと割り切って観ていますが、静の悲劇は いえ彼女の死に際だけでなく夫が殺されたときからの静のドラマは、観ているのが苦しいです。自分の全てを投げ出して復讐を生きる力にしているような彼女が、アキラとの愛の証に植えた”LOVE”を置き去りにできなかったのが、切なかったです。そしてガンマンは、自分の言ったように 静は平八を連れて逃げていったはずだけど、”LOVE”のことを気にしていた彼女を思い出したのか、彼もまた引き返してきたんですね。。。

 ルリ子が ”血まみれ弁天”だったなんて、アクション すごくかっこよかった〜! ルリ子とトシオが死ぬシーンも、ベタなお話なんだけど、この作品にしては なんだかホンワカとしちゃって、すごくよかったです。ルリ子は、いろんなLOVEを観せてくれました。

 平重盛(堺雅人)のキャラが、なんとな〜く笑えて 好きです。彼や保安官(香川照之)が、ときどき日本語で「え?!」とか「はい!」とか反応するのも面白い。あっピリンゴ(クエンティン・タランティーノ)も「あ、そう・・」だって〜。与一の「はぁ〜!?!(歯〜)」もね。
 名前ついてたのかと思うくらいあっけなく死んじゃう平宗盛(田中洋次)。お腹にポッカリ空いた穴から向こうが見えてるの、思わずニヤリとしてしまいました。今だったら自分では出来なくても想像できちゃう画像処理ですが、「Xファイル (S6:クリスマス・イブの過ごし方)」で見たときには かなりゾッとしつつ笑えたな〜と思い出して、ちょっと嬉しかったです。

 物語の前も後も変わらなかったのが、伝七・・・上手く言えないけど、彼の存在がなんとなくよかったな〜。

 後になりましたがピリンゴは、オープニングだけのお楽しみキャラなのかなって思っていたのですが、物語の芯になる部分に関わる重要なキャラクターだし、しかもタランティーノがインパクトのある演技を観せてくれて 楽しめました。

 広々とした荒野ではなく 山間の村で西部劇っていうのも、いいじゃないスキヤキ・ウエスタンなんだからって思います。映像や美術関係でも期待していたこの作品。湯田の村の寂れた外観も、源平それぞれが乗っ取ってる館の内も隅々まで楽しめました。伝七の住処周辺の景色や、ガンマンが寝かされていた小屋の中の雰囲気も好きです。季節感のある雪景色などの美しさや、銃撃戦や馬で駆けたりの迫力ある動きのシーン、キャラクターへの迫り方も かっこいい瞬間をかっこよく捉えたり 可笑しさなんかも個性がより伝わってくるようで、すばらしいです。そして心情的な表現の豊かなのも、スキヤキ風だと思います。伊藤さんが、栗田カメラマンの映像について『スケールの大きさ』とともに 『細かい感情の酌み取り方が素晴らしい。 』と話してみえたことに納得! 俳優さんの演技が、すごく生かされていると思いました。また 回想シーンが所々に出てきて、わりと丁寧に説明されている物語でしたが、映像でも今ここにある現実とは雰囲気が違っていて、でもそういう現実があったので今・・・と解りやすかったです。

 三池監督や伊藤さんはじめキャストの皆さん、撮影や美術に関わったスタッフの皆さんの、熱意がいっぱい詰まっているというのを実感できる”娯楽作”でした。


***物語を通しての感想に戻ります***
 スキヤキ鍋から始まって、地名に人名に セットの隅々に景色にセリフに・・・西部劇なんだけど和のテイストが織り交ぜられているのを見つけるのは楽しいです。また反対に、予習してあったマカロニ的なテイストを見つけるのも楽しい。そしてそれらは融合して、全く新しい世界を作っていると思いました。

 西部劇に時代劇(源平合戦)をワケもなく引っ付けたみたいにどこかで言われていたけど、UKIUKIは絶妙だと思って観ています。
 源氏は白、平家は赤と、はっきり色分けされているのが、シンプルな物語をより解りやすくしています。映像的にすごく美しくもあり、またシーンに合わせて巧みに撮られているとも思うこの作品を通して、例えば回想シーンなんかで色調や色合いが変わっても、白は白、赤は赤でインパクトがあります。
 彼らは、元々平家の落人が拓いた湯田(ユタ)の村に眠っているらしき 埋蔵金目当てのギャングなんだけど・・・。源氏のボス義経は、モノノフ(戦う命そのもの)としての勝負にこだわっていて、子分にもモノノフを強要したりする。一方平家のボス清盛は、子分を盾に使う情けない男。ところがそれぞれの子分たちは、ギャングとしての損得や自分の命を守るために、ボスを裏切ったり、どちら側に入ろうかと悩んだりはしない。ボスにはついていけないよ〜とビクビクおどおどしていたり、なんとも個性的な子分たちが好き勝手にやり出しそうなのに、白は白、赤は赤から逃げ出そうとはしない。それは、源氏と平家の血筋で決まっているからなのでしょう。
 ところが保安官は血筋でフリーだから、悩んでフラフラあちこちしていて、挙げ句の果てに二重人格になっちゃって・・・。彼ひとりが そんなお悩みキャラです。
 そんな湯田の村には、元々素敵なドラマがあったんですね。平家の末裔であるルリ子の息子アキラが、源氏の末裔である静を町から連れ戻り、二人の愛の結晶平八が生まれた。アキラと静が愛の証に植えた花の名前 は ”LOVE”。 アキラは登場シーンが少なかったけど、「もはや平家だ源氏だと、血に縛られる時代じゃないんだ。」というセリフは、世界照準で響かせたいです。
 だけど、清盛はアキラを殺したうえに静にも襲いかかり、彼女は自らの血統である源氏に逃げ込んで復讐を心に誓い義経の女になっている。平八は、目の前で父が殺されて深く傷つき言葉も失っている。このままいけば、やはりこの村は血に縛られて抗争が続き、やがては血に支配されて何もかも奪われるのでしょう。そうなったら平八が立ち直る術はあるのでしょうか。
 そこにガンマンが流れて来たことで、物語が動き始めるのでした。血統による抗争が、内部から沸騰し始めたというか・・・、ガンマンがそう導いたんだと思います。
 それは、与一のガンマンへの嫉妬が引き金になったと思います。与一は静のことが気になってたと思うんです。ところが愛する夫を殺したばかりの清盛に犯されそうになり やっとの思いで逃げ込んできた静を、ボスの義経はすぐに犯して自分の女にしていた。でもこれはボスが真っ先に手を出すことで、 他の者たちの餌食にされにくくなったとも思うんです。静も、そのときの悲壮感は目を覆いたくなるくらいでしたが、憎い清盛を殺してくれる男なら・・・と。だから与一は、ボスの女にはなかなか手を出せなかったのに、ガンマンに横取りされるのは我慢ができない。というので、武器を調達して・・・、源平の最終抗争に展開していきました。
 人がいっぱい死ぬのは西部劇のパターンだと思うのですが、この作品では、娯楽作としてかなり残虐性は抑えてあると思いました。残酷な瞬間が映らなかったり、わざとリアリティのない描き方をしていたりします。西部劇だからかっこいい銃撃戦を楽しんだり、また人の可笑しい仕草を笑ったりもするけど、そして静の最期はさすがに酷い状況で、またしても平八がさらに深く傷つきますが、なんていうか 人が死ぬこと自体を楽しむ映画にはなってないと思います。埋蔵金目当てに対立したギャング同士が殺し合うというだけなら、薄っぺらい物語だったと思います。いえ、ただの凄腕ガンマンが流れて来ただけでも、そういう物語だったと思います。まあ物語はともかく、かっこよさをスカ〜ッと楽しむのが西部劇って気もしますけど。ところがガンマン自身も平八に会ったことで生まれた感情で、葬り去られようとしていた 物語の奥にある ”LOVE”のドラマを掘り起こし、心にも響く物語になったと思います。また逆に、これがあるからバカバカしい可笑しさにも後ろめたさを感じないで気兼ねなく笑えます。これこそスキヤキ・ウエスタンの成せる業だと思いました。
 名もないガンマンがやって来て、村を血の支配から開放し、血の壁を越えた愛の結晶である平八の心に ”LOVE”を取り戻して去って行きました。消すことのできない深い心の傷を持ちつつも、血に縛られずに 運命に負けないで 自分の流儀で生きているガンマンの、強さと優しさを感じて、そんなガンマンに憧れて、平八は自分の道を決めたんだと、ジャンゴになったんだと思いました。