陰陽師 〜おんみょうじ〜 (2001)


 平安京遷都から150年。オープニング源博雅の笛の音で平安の世の雰囲気が一気に広がります。
 そういえば今までに観たことある時代劇って、戦国時代からから江戸時代そして幕末にかけてのどこかを描いたものがほとんどで、この作品は平安時代劇、その優美な世界の裏に広がる幻想的な闇の世界、今までにない独特の雰囲気を味わえました。

(オープニング ナレーション)
『平安の時代、人と鬼とが共に生きていた時代。
暗闇に潜みし鬼・魔物・あやかしは、それを恐れる人の心に忍び入り、しっかりと息づいていた。』

 陰陽師は、科学が未発達な時代に科学的に説明できないことについて、いわば科学者のように研究もしつつ超能力者のように振舞って占いで政治や人々の心を導いた人たちのようです。確かに存在していたと、学校で習った覚えがあります。ここでは本当に超能力者のように描かれています。

 物語の中心は、人の恨みを次々利用して都を制し新しき都を治めようと企てている陰陽寮の陰陽頭・道尊(真田広之)と都を治めることには興味はないけど都を守ろうとする陰陽師・安倍晴明(野村萬斎)との闘いだと思いますが、直接対決は終盤まで無いので、それまで周りで繰り広げられる物語が豊富で、人物描写が魅力的です。その内容からは、怖ろしく醜くドロドロしたものにもなりそうだと思うのですが、何というこのカラッとした雰囲気。美しくダイナミックな映像がCGも満載で楽しめて、博雅の笛の音の醸し出す清らかさにも包まれて、ユーモア感だってあるという内容との異質感ったら。。。
 このなかで道尊は悪役担当って感じで闇のものを呼び出しては「我怨天子無絶期」の思いが高まっていって・・・、終盤真田広之の熱演が凄かったです。
 晴明は、術をあれこれ見せてくれてそれがまたスマートで見とれるのですがそういう優れた方術の力を持つという魅力と同時に、もしかしたらそれ以上にその人柄が魅力的です。なんだか新鮮なキャラクターで、ドキドキします。でも彼をそう見せるのは、源博雅(伊藤英明)とのやり取りを見ているからだと気づきました。
 博雅のなんともいえないキャラも今まで見たことのないような江戸時代ではあり得ない感じで、天然の面白さと頼りなさも過ぎることなくぎりぎりのところで抑えられ、笛を吹く姿の優雅さや純粋で真っ直ぐな気持ちと優しさにあふれる人柄をことさらカッコ良く見せるのでもない、晴明が彼を”お前は本当に善い漢(おとこ)だ”と言うように飾らない人の良さっていうのを絶妙のバランスで見せてくれていると思いました。
 その博雅が望月の君(夏川結衣)を想う純粋な物語がいいですね〜。でもその望月の君には忘れられない人がいて、そんな彼女をを利用しようとする道尊。また、不老不死の身を持つ青音(小泉今日子)の物語も絡まって・・・。都は滅びるのか! 誰が都の守り人となるのでしょうか。。。


 蝶の命を奪うことを止めようとする博雅、なんと癒し系。見ていて顔がほころんでしまいます。晴明は博雅の人柄が善いのをちゃんと見抜いたのでしょうね。
 博雅は宮廷でもその位と人の良さでけっこう人望が厚いのか、人にいろいろ頼まれ事しますね。おっかなびっくり晴明を訪ね、いちいち術にびっくりしたり、切られた蝶が実は蜜虫(今井絵理子)で殺めたのではなかったのを知って喜んだりする姿がなんとも可愛い♪
 晴明は博雅に「人は心ひとつで鬼にも仏にもなります。」と言うのでした。呪(シュ)をかけられ人を恨んで鬼になって死んだ哀れな女の骸(むくろ)を弔おうと、星空を見上げて吹く笛の音の美しく優しいこと♪♪
 そんな博雅の笛の音に聞き入る女性に、博雅は恋をするのでした。

 敦平親王の身に異変が起きて、陰陽頭でもどうすることも出来ず、博雅は晴明を訪ね、敦平親王を救えるのは清明だけだと救いを求めます。晴明は30年ぶりだという青音(小泉今日子)を呼び出し、強い呪をかけられているという親王を救うのでした。どうやら道尊が呪を操っているようだとわかってきます。

 晴明に恋を見破られた博雅。彼の笛の音に聞き入る女性に気持ちを伝えます。笛を吹く姿や表情のなんとも優雅な美しさと共に、というか それに支えられてと言うべきか、取っ掛かりの晴明受け売り「今宵の月をあなたに・・・」には笑っちゃいそうでいて いやに馴染んでたし、それに続く頼もしいお言葉が まだまだ青そうな雰囲気なんですけどね、素敵〜☆ この高貴な身分を感じさせる上品さが、あちこちで見せるポカーンとしたりおどけたりのキャラとギャップがあるのに不思議と違和感を感じないのは、そのどちらもに彼の真っ直ぐな気持ちが出ていて彼そのもの、彼の本質的な部分が揺らいでないからだと思います。晴明とのやりとりだって、おどけたり頼りなさげな感じが目立ちつつも そのどちらもを絡めて描かれているのがいいな〜と思います。話を戻して、でも彼女には忘れられない人がいて、博雅の笛の音に癒されながらも その気持ちに応えられないのでした。

 青音は不老不死で、早良親王(萩原聖人)の霊が甦らないように将軍塚を守っているのでした。150年の間、誰かに出会えば必ずその人の死に立ち会わなければならないという辛い運命を背負ってきました。彼女は笛の音に誰を想っているのか。。。

 帝と敦平親王を狙う祐姫(望月の君)には、「呪殺 源博雅」の札が貼られていた。 道尊によって生なり(生きながら鬼になった女)になった姫に、 「食らうならこの私を食らえ!」「望月の君、そなたに食われるなら、私はかまわぬ。」と博雅。「・・・望月の君、私はあなたが愛おしい。私はあなたの苦しみに気づいてやらなかった。あなたを救ってやれなかった。」と涙ながらに言葉を絞り出す博雅がお気に入りです♪ この作品で泣いちゃうのはここだけかな、いつも涙が溢れてくるんです。博雅の気持ちを感じて・・・もちろん言ってもらう姫の気分(爆) 姫は、彼の腕の中で人の心に戻るのでした。そして博雅の笛の音を聞きながら、人として最期を迎えるのでした。

 道尊はついに早良親王の呪を解き、将軍塚を壊し早良親王を蘇らせた。そして都中に怨霊を溢れさすのだと、だんだん逆上していくのです。

 道尊が望月の君を鬼に変えたと知っての博雅の涙。「道尊、死ね!」ついに彼にも怒りの感情が沸いてくるのでした。しかし道尊に敵うわけはなく、博雅の死に晴明の取り乱しようといったら。「・・・俺は、おまえだけは失いたくないのだ。」と涙するのです!!

 早良親王の恨みを自らに取り込んでついに都を滅ぼそうとする道尊から、どうやって都は守られるのか。。。

 術をかけても戦っても舞うように美しく、人の心を見抜いても汚い野望など持たない晴明と、純粋で優しい心をもつ本当に善い漢(おとこ)の博雅に魅せられました。彼らのやり取りが面白く、お互いがその人柄に惹かれて信頼できるかけがえのない存在になっていくようすが心地良い物語でした。また祐姫(望月の君)の想いや青音の想いが悲しかったけど、どちらも最期に救われて良かったです。