LOVE SONG (2001)


 公開時コピー”一枚のレコードからはじまるラブストーリー! 会いたい。会いたい。ただあなたに会いたい。”これはちょっと違ってたな〜。ラブストーリーというより、尾崎豊の「SEVENTEEN'S MAP」をきっかけに出会った松岡(伊藤英明)と 彰子(仲間由紀恵)二人それぞれの青春ドラマでした。物語が二人の出会ったところから始まり2年後彰子は松岡さんに会いたいと探しまわっているのですから、彰子には淡い恋心もあったかもしれませんが、彼女が彼に本当に求めていたのは愛とかではなかったですもの。もちろん松岡にとっては、彰子は恋愛の対象にはなってないです。

 この作品何度もリピートしたし、だから好きなんですが、何故かなかなかComentが書けませんでした。淡々と進む物語、感動を狙って特別な出来事で盛り上がるわけでもなく、カッコ良さや可愛さを見せようとするのでもない。みんながあんな思いや状況になるというのでもないけど、普通の若者たちが青春のひとときに感じる心の内を描いています。UKIUKIには松岡や彰子の言葉や思いがすごく心に浸み込んできます。そして、いつの間にか心の奥にしまい込んであったいろんな具体的な思いが膨らんで出てくるんです。でもそれをいちいち書いてもしかたがないってことで・・・。今やっと、落ち着いてComent書けそうな気がしてきました。

 先が見えてしまった人生に、彰子がこのままでいいのかなぁ違うことができるかなぁって思う気持ち、すごくよく分かります。なんかいまだに心の片隅にそんな気持ちを覚えています。
 夢をかなえたのにまもなく挫折し、立ち直れないというかもうこれでいいと思い込もうとしている松岡にも重なる感情がないわけではない。松岡は夢を心の中に閉じ込めて忘れようとしているけど、思い出すことに抵抗するけど、揺れ動いてくる心の内。。。伊藤英明はこういうのを演じるとすごく上手い!って思います。はじめの頃の夢を実現させようとしている純粋な姿や、ラストの前向きな気持ちが蘇った晴々とした姿も素敵です。カッコイイ役柄や面白い役柄の伊藤英明も大好きだけど、UKIUKIは普通の人を自然にじっくり演じる伊藤英明もとっても好きなんです。

 1985年北海道、高1の彰子は 会社を辞めてレコード店で働く松岡に 尾崎豊の「SEVENTEEN'S MAP」を借りることになりました。ある日の帰り道、松岡は「自分の好きな曲だけを集めたレコードショップ作りたいんだよ。 名前はね、クラッシックからそろってるってことで、生きた化石”シーラカンス”・・・」などと夢を語るのでした。松岡は二言目には「まあ子供にはわかんないだろうな〜」と言いながら、「俺は夢で食ってこ。甘いかそんなの・・・?」とつぶやき、彰子は「甘いとは思わない。」って言ったのですが、そのことがずっと忘れられないのでした。松岡は彰子に「おまえ、なんかしでかしそうな顔してる。」と言ってくれましたね。部屋でクラッシックかけてジャケット眺めている姿がいいな〜。そして彼は突然東京へ越していったのでした。
 「SEVENTEEN'S MAP」は昔フラれた彼女が聞いてたんだと後で知り合った知恵に話していました。擦り切れるほど聞いていると、泣けてた曲がだんだん元気になれる曲になったって・・・。もうこの時は、返してもらわなくて良かったのかもしれないな〜。

 ”OH MY LITTLE GIRL”が心地良く流れるなかの、オープニングクレジット。おっとりしたとっても素敵な空気のなか、でもなんとなく若さからくる憂鬱な気分が漂っている作品でした。

 2年後高校最後の夏休みもあと5日、彰子は友人の哲矢(一條俊)と一緒に返せなかったレコードを持って、東京の松岡に会いに行きます。夢を語り夢をかなえて東京に出ていった松岡に憧れを抱いていた彰子。松岡が夢をかなえたレコード店は閉じられていて、彰子は松岡のその後を追うと夢破れた松岡の姿が分かってくるけど、それでも探し続ける彰子のストーリー。
 一方、友人と一緒に夢を実現させたのにすぐに挫折していた松岡は、人間関係もいろいろあったからキズが大きかったのかな、今まだ立ち直れずに夢を捨てて都会の片隅でひっそりと暮らしていました。そんな松岡のストーリー。

 彰子は松岡を散々探しまわってそれでもまだ会えないとき、哲矢に「おまえ、ほんとマジであいつのこと2年も好きで会いに来たの?」と聞かれて、「お母さんみたいに、生まれたあの街でそのまま就職なんか、一番嫌だって思ってたことなのにさ、気づいたらそうなっちゃってるし、でも、夏休みが終わる前に松岡さんに会えたら、なんか言ってもらえるって思ったんだよ。なんか・・・ごめんね、何だかよくわかんないんだけど、なんかね。」って答えていました。この曖昧な感情がリアルです。
 哲矢の存在って、彰子は気づいてないけど、本当に彰子のこと好きなんだってわかります。彼は彰子にずっと寄り添ってあげてるよ。言いなりになってるみたいだけど、本当は彼が彰子をおっきく包み込んで守っているよ。大人の恋愛でも、なかなかこんなふうにはできないと思うほど。OZAKIのコンサートチケットを1枚だけ買って彰子に渡してくれる哲矢が、「しょうがねーよ、しょうがね〜。これ、おまえの家出だから。」って言うシーンが、すごく印象に残っています。

 松岡の現実はビルの清掃員と警備員。その仕事自体は松岡が言うように問題ないけど、今の自分に満足していないのに隠している、それを土台に前に進もうとしてない。それに気づいている友人の石川(津田寛治)とのやり取りは、石川も問題を抱えているのを松岡なりに心配しているし、本音からの言葉で話す石川と本音を隠しても態度に出てしまう松岡で、一緒に店を開いた仲間との友情も恋愛もなんとなくズレて いつも間にか離れていってしまってるのに、石川とは何やかや言ってもずーっと友達でいられると思いました。
 また、向かいのビルで草原ディスプレーを作っている千枝(原沙知絵)に出会って、カレー屋ブルックリンの話を聞いて、「何年も頭にこびりついて離れないイメージってさ、あんたにもそういうのない?」と問われて、「ないね〜」と答える松岡、その後部屋で頭抱えてるシーンが忘れられません。耳の聞こえなくなったミュージシャンの話の後「・・・耳の聞こえない彼は、あんたのことかも。」とも言われます。ベッドで頭をかかえる松岡。すごく短いシーンだけどこういうの好き、印象に残ります。押入れに入れたレコード。COELACANTH RECORDS開店記念の絵葉書を握りつぶします。 「俺はここでじゅうぶんだよ。」と言う松岡に、 「あんたずっとあのビルにいるような気がしない。」 「もっとなんかしでかしそうな顔してる。だから見てらんないのよ。」 「あんたはあんたのこと好き?」と千枝。

 今いる場所から飛び出して、やって来たのは・・・、つぶれた店を見上げ、暗い店内で泣く姿、あのころの思いが込み上げてきたのか、・・・そして前に進み始めました。自転車でブルックリンへ。
 やっと見つけた松岡の住む部屋の前に、レコードだけを置いてきた彰子。「もう終わり、帰ろ。」最後に見た松岡の自転車姿。彰子と哲矢は東京に来た甲斐があったと思います。特典のカットシーンで彰子は「大人になるということは、自分で決めること。」と言ってました。これがこの”家出”で彰子が見つけた答え、彰子のストーリーの結末だと思いました。
 松岡はレコードプレイヤーを出して・・・、心の中の草原で・・・、松岡のストーリーの結末はラストの本当に素敵な晴々とした表情が表していました。立ち直るきっかけは、素直にはなれなかったけど石川にもらった気持ち、千枝との出会いで揺さぶられた自分の本心、彰子に夢を語っていた頃の自分を思い出す返ってきたレコード、だったと思いたいです。

 最後はOZAKIのコンサート回想シーン、彰子の涙。。。
 青春時代に感じる純粋な心の中の何ともいえないもどかしさを象徴するように、尾崎豊の歌が心地良く流れるのでした。