河合継之助 駆け抜けた蒼竜 <TV> (2005)


 河井継之助(中村勘三郎)は越後長岡藩家老にまでなった人物だそうですが、これを観るまで全く知らなかったです。幕末、物凄い勢いで世の中が大きく動いていた時代の物語。

 UKIUKIお目当ての信州松代藩士 稲葉隼人(伊藤英明)は、「・・・ホラ貝の音を追求せんと」などと諸国をまわっていて継之助と出会い、備中松山藩の陽明学者山田方谷を訪ねて再会します。彼らは共に、あの時代ではちょっと変わった自由人って感じで、お互い気が合ったのでしょうか。少なくとも、隼人は継之助に興味を持ち、彼の考えには心動かされるものがあったのだと思います。彼らはそこで、シーンになってないところで、親交を深めた仲だと想像できます。

 欧米諸国が開国への圧力を増す中、強国と対等に上手く付き合うための富国強兵を強く主張する継之助。「そのためには国が割れてはいかん、長州征伐に巻き込まれてはいかん。」と言うのです。各藩それぞれの藩政と経済の改革が重要で、戦などしている場合ではないという彼の主張はなるほど!とは思いますが、それを広めていくのは難しかった。それが国全体の大きなうねりになっていったなら、歴史は変わっていたかもしれませんが・・・。
 薩摩が長州と手を結び一気に高まる倒幕の動きに対して、徳川家譜代の長岡藩は会津藩と共に幕府側について断固戦うのか、西軍に寝返るのか、藩内でも議論が高まる中、継之助は長岡藩の中立を目指したのでした。子供の頃UKIUKIも、詳しいことは何も知らないのにスイスのような中立国家は理想的だと思ってました。そしてずいぶん後になって、スイスには軍隊が存在する(確か徴兵制度がある)と知って驚いたのですが、同時に納得したみたいな気になったことを思い出します。継之助は若い頃から諸国をまわって見聞を広めてきましたが、スイス商人ファーブル・ブラントが「中立には武力がいる」と言っていたのに倣って、最新式の武力を備えてじっと耐えようとするのでした。
 しかしそれに対する誤解そして孤立・・・、結局戦を避けられない状況に陥っての継之助の決断は、戦況が厳しくてもかねてからの友藩である会津側について長岡の誇りを示す!というものでした。ん〜〜〜侍の心を貫くというのなら、初めから会津と共に戦うべきだったような気がします。後から戦に加わるなら西軍側につくべきだったように思いました。「戦はけっしてしちゃならんのだ! 戦をすれば人が死ぬ。 」と言うのなら、”民は国の本 吏は民の雇”が信念だというのなら・・・。

 この物語は、明治4年に稲葉隼人(伊藤英明)が継之助のお墓に立ち寄り、妹の安子(京野ことみ)に出会うところから始まります。安子に継之助の話を聞くシーンと隼人自身の回想を織り交ぜて、ラスト 八十里峠で冥土の継之助に聞かそうとホラ貝を吹くと、そこに姿を現したのは隼人がいちばん継之助らしいと思う彼だったのでしょう。『戦は、戦はけしてしてはならぬのじゃ!』と熱い姿の継之助。

 稲葉隼人は孤立した継之助が西軍の総督府へ藩主嘆願書の取り次ぎを託そうとやって来たとき、「ならぬ。わが藩は、すでに西軍に恭順しておる。会えば、薩摩長州に申し開きが・・・」と拒否します。彼は彼なりに世の中を見て、松代藩が西軍側についたことは藩の立場や領民にとってのより良い選択だと納得していたのだと、そういう断り方だと思いました。しかし継之助の役に立てないという個人の感情としては辛い、松代藩士として苦渋の決断だったと思います。
 こういうシーン(オープニングやラストのシーンでもそうですが)で見せる隼人の姿の奥に、かつて継之助と熱く議論を戦わせて深めた親交や継之助への理解と彼の抱えた苦難への心痛を、大きく深く感じさせてくれる伊藤英明の演技がすごく素敵でした。

 継之助はあんなに積極的に機会があれば自分の考えを人々に訴える人だったし、自分の私利私欲に走っているのでもなかったのですから、他の藩にも個人的には気に留める人もいたと思うのですが、継之助の言葉を借りれば「実戦に結びつかなければ何の役にも立たんと思う。」のです。幕府側と薩長側の大きな動きにどう乗るか!という激流に逆らえるだけの杭にはなれなかった。藩を守り民を守っていくことを考えればそれぞれに事情があり、寝返る藩の行動だって単純に責めることもできないと思います。
 ”彼が生きていたら、明治以降の日本の歴史が変わっていたに違いない”とは、さあどうかな〜、そうあってほしい気はするけど説得力ないな〜と思いました。
 継之助は魅力ある人物だったけど、最後のまとめ(””内2つ)はなかった方が良かったです。隼人のホラ貝の音に呼ばれたように姿を現し、隼人が『あなたがやろうとしたことは理解していますよ』という感じに微笑む姿で終わってほしかったです。(←これは伊藤さんのファンだから言っているのではありません、念のため。)