デッサン <TV> (1997)


 確か死ぬ役よね〜と思って観始めたら、いきなり初めから死んでる! もうすぐに分かりました。自殺した人だって。でも、思っていた以上におっきな存在感のある役でした。

 婚約者の葛木雅人(伊藤英明)を喪ってから2年、麻生沙絵(原田知世)は今まだ立ち直れないでいた。「さよなら」も聞いてなかったし、自殺の前日一緒にいたのに何も聞いてあげられなかった自分の罪を背負っていたのです。雅人との幸せだったろう日々を想像し、沙絵に即感情移入しちゃって、1,2話目なんて、もう涙・・・涙・・・。

 回想シーンで何度となく雅人の姿は映るけど顔は見えない。やっと見えそうでもダークな映像で・・・。でも最初にその姿を見た瞬間、あっ伊藤英明だって分かりましたよ。後ろ姿や暗いシルエットになってる姿でもちゃんと彼だってわかります。今だからね。もしリアルタイムだったら、この素敵な雰囲気の人は誰?って感じでしょうね。そして床に倒れてるアップや赤い顔料を飲んでいる口元なんかははっきり彼だって分かるのに、もっと見せてくれなきゃもったいないじゃないとも思ってしまう。見せてないところが作品的には深みがあっていいんですけどね。ほんとうに愛し合ってる二人の愛の溢れる感じが出ていて、はっきり見えてないぶん、よりいっそう幸せな日々への想像がふくらむのです。また、才能ある若き日本画家というちょっと静寂でピーンと張りつめたような空気の中で、内にこもった精神世界を持っているような、ただでさえ全部が見えない感じの世界に生きている人物って感じにさせてくれます。これドラマデビュー作のはず、思ってたよりずっと大人の雰囲気の役で意外でした。

 ある日偶然、朝倉さとし(大沢たかお)は寂しそうに泣く沙絵に、雅人と同じ言葉で声をかけるのでした。ところが彼は雅人のライバルだった画家で、雅人が自殺する3日前に雅人の絵を切り裂いたのでした。朝倉もまた罪を背負って生きてきました。そして彼は沙絵と出会って、どうすれば”償い”ができるのかと迷い葛藤していきます。

 振り返ると彼(雅人) のこと何も知らなかった、愛し合っていたのになぜ、と沙絵は心の整理がつかないのです。まあ、恋人でも家族でも愛する人のことを想える精神状態の人は自殺なんてしないんでしょうけど。苦しんでいたのを一人で抱え、そのまま逝ってしまった雅人。

 前半はかなり見応えありましたが、沙絵は雅人のことではもう泣かないと決意し、後半は普通にラブストーリーという印象でした。連ドラにありがちなああでもないこうでもないの展開はちょっと苦手なんですよ。でもラストをどうもっていくかが楽しみで観ていました。

 3日前までの雅人の日記、その後の破られたページには何が書かれていたのか。
 「この絵は僕と君の幸せを形にしたものだから・・・」と言っているように、雅人は全身全霊を賭けて仕上げた絵を切り裂かれ、あまりのショックとその喪失感やそれを許してしまった自分への罪悪感もあったんじゃないかな。絵を切り裂いたのが朝倉だと何らかの理由で確信し、彼に対する感情などが書かれていたのでは・・・と想像してたのですが。。。そして直接的な争いを好まないのか慣れてないのか或いは朝倉への怒りが強すぎて完璧な抗議やリベンジを遂げようとしたのか、とにかく苦しみを一人で抱えて逝ってしまった・・・と想像してたのですが。。。終盤になって、日記の残りのページから意外な真実が明かされるのでした。

 最終回、やっと雅人の姿が・・・、そして雅人の声で日記が読まれていきます。

 ナレーションも落ち着いた雰囲気だし音声効果もかけてあって、二人が付き合っていた頃の愛あふれるロマンチックな言葉や、最後日記のなかでその愛に対する不安や犯した罪への後悔を感じさせる言葉がすごく素敵に語られているんだけど、どうしても今の完璧とも思えるナレーションと比べてしまうんですよね〜。言い回しの雰囲気が微妙に少し若いというか、つい緊張して聞いてしまうんです。そんな感じなのが貴重だわ〜。

 沙絵と朝倉がたどり着いた物語の結末は、”恐がらずに信じるところに、愛がある。”ということでしょうか。。。

 こんなところに、演出補 羽住英一郎のお名前を見つけてなんだか嬉しくなりました。