赤ひげ <TVM> (2002)


 山本周五郎『赤ひげ診療譚』(新潮文庫刊)原作、黒澤明監督作品『赤ひげ』のリメイクドラマ化というと、なんだか窮屈な感じで、ネットでチラッと見かけた感想でも比べてどうこうと書いてみえる方がいたりしましたが、UKIUKIは元のを知らないのでまあ気楽に楽しめればいいや〜と思って観ました。
 赤ひげが思ってたより若い感じだし、全体的に言葉遣いやら何やら特にラストも時代劇にしては現代風な印象でしたから、UKIUKIのようなたまにこういうのを観る人には分かりやすいと思います。
 そして とてもいい作品を観た!と思いました。これはとにかくヒューマンドラマです。いろんな人の人生が描かれていました。みんなが主人公だって思えるくらいの物語が詰まっていました。舞台は小石川養生所、江戸の最下層で苦しむ貧民のための医療施設ですから、誰の気に留められることもなく表に出てくるはずのない人たちの人生なのですが・・・。
 正直言って、これを観ていて主人公は赤ひげではなく、むしろ六助(上田耕一)や佐八(小林薫)それにおとよ(鈴木杏)といった患者たちや彼らの周りの人物、そして保本登(伊藤英明)だって思えるのですが・・・。 でも赤ひげはそんな患者らの貧困と無知に目を向けるのが彼らに対する医者の重要な役目だという信念を持ち、その姿は保本に影響を与えたし、一方で保本に患者らの病気の陰に隠れているおそろしい不幸を抱えた生ざまに触れさすことで、医者として患者とどう向き合うか、医者としてどう生きるかを保本自身の考えで将来の道を決めるよう導いたのは赤ひげでした。

 保本は彼の育った環境で真面目に医学の勉強をしてきたことはわかるし、長崎で3年遊学した後お目見え医になれるよう天野玄白が幕府に推薦すると約束されていた、そのこと自体は彼の傲慢でもなんでもなかったと思うのです。だから、「行ってみろ」「父からここへ顔を出せ」と言われただけでやって来た小石川養生所で「今日からここで、見習いとして働いてもらう」と急に言われて、「はいそうですか」とはならない彼の反発する気持ちは理解できるし、彼が当初赤ひげにいちいち反抗する姿が実はUKIUKIお気に入りです。

 医者としての信念やら生き方やらが出来上がった新出去定”赤ひげ”のキャラクターとその演技の出来上がった感に比べて、自分の描いていた人生とは違う環境”小石川養生所”に放り込まれて先の見えない日々を過ごす保本登と、そこでいろんな人と関わるうちにそれが心の栄養になり成長していくというどんどん変わっていく内面の部分を演じる伊藤英明の、全然出来上がった感のないところにすごく心惹かれるUKIUKIです。自分のことシティボーイってどこかで言ってた伊藤英明だけど、和服もなかなか似合います。今まで観たのと同様、時代劇全然違和感ないですね。

 とにかく途中いろいろあって見応え満載! 六助父子の恐ろしい不幸、佐八と妻の悲しい過去、娼家の女主人に虐待され心までも病んでしまっているおとよの閉ざされた心、泥棒することで貧しい一家を支えていた長次の悲劇・・・などの物語はもちろんですが、UKIUKIとしてはそんな彼らと向き合った保本に注目して観ていたのです。そのうちのいくつか・・・・・
 食事をとらないで赤ひげに反抗するところ「保本、なぜ箸を取らない。」「食べたくないからです。」「それは腹が減ってないという意味か。それとも、食べ物が気に入らないという意味か。」「ここが気に入らないから、食事をする気にならないという意味です。」から続いて赤ひげに「出て行け」と言わせようとずっと意地を張ってる感じ、・・・好き♪
 正気を失い男を殺してしまうというおゆみ(ともさかりえ)に「お願い、私を助けて。私、狂ってなんかいません。ここのお医者さまはみんなダメ。・・・でも、あなたは違うでしょ。」と言われて、結局殺されそうになるところなんか、まだまだ未熟ね〜なんて思ってしまう。赤ひげに「・・・気にすることはないが、懲りるだけは懲りろ。」と言われて、保本の涙が印象的です♪
 初めて外科手術に立ちあって失神してしまうところのリアルなことったら・・・、かなり落ち込んでしまいます。そして赤ひげに「人間の一生で臨終ほど荘厳なものはない。それをよく見ておけ。」と言われてもそうは思えなかったことで「臨終だって、私は赤ひげのようには見られない。あれが荘厳なんて、ただ醜いだけだった。あなたは、あれが荘厳だと思いましたか。」と森半太夫(山田孝之)に問い、半太夫の話に耳を傾ける保本が良かったです。・・・ここ好き♪
 また保本には3年間の長崎遊学中に許婚だったちぐさ(中山忍)に裏切られたというドラマがあって、たまに思い出してはふと物思いにふけるところ、・・・好き♪ それを気にして訪ねて来たまさえ(ちぐさの妹:長谷川京子)に「・・・もっと威張っている人だと。そういう人は、養生所のような所で働くの嫌がりますよね。もうすっかりお医者様ですね。」と言われ、 思わず口をついて出たのが「医術というものは、無知と貧困のある場所にこそ必要なんです。」と、赤ひげの受け売り!っていうのが愉快でした。
 「保本は、こういう岡場所の類に足を踏み入れたことがあるのか。」と赤ひげに問われ、「長崎で3度ばかり。」 「医者としてか、それとも客としてか。」 「学友に誘われて遊びに行ったのですが、無論、女には触れませんでした。」 「私には、江戸に約束した娘がいました。その娘は、約束を破って他の男と・・・。」などと説明しているところが何とも純粋そうな表情で・・・ここ好き♪
 そして何といっても赤ひげに任された最初の患者 おとよと向き合う保本が一番の見どころだと思いました。娼家の女主人に虐待され身も心も病んで養生所に保護された おとよは「おそろしく疑い深く、人を寄せ付けない目つきだった」し、「あたし、騙されない」と保本や赤ひげの本心を見抜こうとして言うこと聞かなかったり逆らったりして試すのだけど、根気よく気持ちを受け止め続ける保本の看病でしだいに心が回復し優しい心を取り戻していきます。ある時茶碗をわざと壊したおとよが、物乞いをして弁償しようとするのを見た保本が、「夕べ壊した茶碗を買うために。こんなことしなくていいんだ。私は茶碗のことで、おまえを責めたりしない。もしもそんなふうに見えたんなら、謝る。許してくれ。おとよ。。。」と抱き寄せたところ、・・・すごーく好き♪ そのあと赤ひげに自分の心境の変化を告白する保本には、ほんとうに心打たれました♪ それからのおとよは保本に関心がいき、少しずつ周りの人にも気持ちが広がって、お粥を盗みに来た長次への気遣いなどが見られるようになっていき、あぁ良かった〜と思いました。
 その長次一家が無理心中で担ぎ込まれ、死にそうな長次をこの世に呼び戻そうと女たちが井戸に向かって「ちょう坊ーっ!」と叫び、そこにおとよも加わって必死に叫ぶのを見つめる保本。・・・ここも好き♪
 保本は幕府のお目見え医に内定し、まさえとの縁も結ばれることになってその内祝いの席、自分の望みだったお目見え医にあがることを辞退して養生所に残ることを表明し「・・・金にも名誉にも縁が遠くなるということです。あなたにも貧乏を耐えてもらうことになりますが、それでもいいかどうかよく考えてください。」とまさえに問うのでした。さらに、ちぐさには はっきりと許す気持ちを伝えるのでした。
 「おまえはお目見え医になった方がいいんだ。」と言う赤ひげ。 「おまえは汚い手を使ったりできない。」と・・・。確かに!! 「おまえは馬鹿だ。」「先生のおかげです。」「後悔するに決まってる。」「今のはお許しですか。」「もう一度言う。おまえは後悔する。」「試してみましょう。」
 養生所に残ると決意した保本が、はたして赤ひげのように時には権力や金のある者の弱みを利用したり時には力ずくで、養生所を維持するために世間をちょっとはズルく強引に渡り歩いていくことができるのか。。。とやっぱり出来上がった感のないままラストを迎える保本登が良かったです。