愛と資本主義 <TVM> (2003)


 歌舞伎町のホストクラブ、人気ホストのリョウ(伊藤英明)と彼を取り巻く客たちの物語。これは内容も構成もなかなか面白かったです。といっても一度観ただけではなんだかよく分からなくて、何度かリピートしていくうちに内容の理解が深まって良さが分かってきたという感じです。
 実はどこかで”最悪”って感想を見てかなり心配していたのですが、UKIUKIとしてはその意見をこんなふうに消化しました。ここに描かれている様々な愛を、広く一般的な日常の愛を考えるために反映させようとすると、まず受け入れられません。お金で愛を買うということがそもそも最悪ですから。でも、むしろ描かれている世界そのものを味わうことで、すごく想いがふくらんで楽しめました。ホストという職業で生きる者の生きざまもけっこう奥深いし、そこにやって来る女性たちがそれぞれにいろんな思いをぶつけてくるのですから、そこで生まれる感情はすごく興味深く見応えありました。
 そして人の心をもてあそんで踏みにじって金を巻き上げるといった心地悪いだまし合いを観せつけられるというのではなく、それぞれの女性たちが何を求めて多額の金を遣わずにはいられないかや、それに応えようとするリョウの『誠意』について描かれているところが良かったです。
 ただ、けっして三重人格の人物が登場するのを否定するのではないけれど、演出のせいか演技のせいかその描き方が安っぽい感じで、この作品の繊細である意味上品な質感を壊していると思いました。もっとゾクゾクっとするような人格の切り替わりや破滅への過程を観たかったです。

 ところでまず思うのが、伊藤英明のホスト役がほんとスゴイ!そのもの☆前にちらっとTVの密着取材みたいなので見たことある人たちと、いえそれ以上(?)のオーラが・・・。特に店内でのシーン、 立っても座っても、お酒注いだり、ライターさっと出したり、タバコ吸ってグラス傾けて・・・、極めつきは甘いささやきやそっと触れる手。。。完璧に なりきりですね〜。そんな役は受け入れられないって方もいらっしゃるのではー って雰囲気です。でもUKIUKIはまぁこういう世界とはかけ離れた所にいる人だけど、じゅうぶん大人だし(?)こういう彼(の演技)を観るのはかなりOKですよ。つまりここだけだから、うわっいい男!って思う。他の作品や普段もこんなのだったら近寄り難くって、”飛び去る”しかないですけど。とにかく見た目は当然バッチリ♪なわけだけど、話し方やら仕草やらにスキがなく包容力があって、ワーワー騒いでいるヤツらとは違う雰囲気が漂っています。そして店外でのシーンがもっとカッコ良かったりもするんだけど、でもそれだけが、この作品や伊藤英明の見どころではありません。ホストという仕事に自信やプライドを持ちながらも、思いがけない出来事に戸惑い、明かされていく女性たちの気持ちや現実にどう向き合っていくか、そんなリョウのしっかりした部分と繊細な部分をすごく感じさせてくれるのは流石です。現実離れしているのかどうかは分かりませんが、状況悪くなって内心焦っても、慌てふためいたり怒ったり脅したりしない描き方が良かったです。でもただ一度、後輩タカシの裏切り(マリエに手を出すというルール違反)に怒ったリョウにその世界の恐さを見た感じだったけど、それがけっこうドキン!と素敵♪ またリョウの心の内を語るナレーションがたっぷり、あの語り口がUKIUKIとしてはかなりツボ♪なんです。

 愛を金で買おうとしてホストクラブに来る女性たち、求める愛の形は客によって違うわけですが、リョウはそれぞれの客が何を求めているのかを感じ取るセンスがあるんだと思います。そしてホストの仕事として、彼なりの誠意をもって彼女たちとつきあって、彼女たちを夢中にさせる。ミカやマリエやナツミ・・・、言葉を交わす雰囲気とか明らかに違ってますもの。そしてその裏返しに客を信じてしまうのが、彼の弱点だったかな。しかしそんな彼でも、時として気づかない女心、或いは決定的な間違いを犯してしまうのでした。

 リョウにとってナツミ(高橋惠子)は、最高の”太い客”であり ”女神様”。土地つき未亡人の彼女は金を使うことで崇敬という形の愛を求めているのだと理解し、そんな彼女をきちんとリスペクトするつもり。彼女の中に本気の遊びを感じて信じていたんです。ところがそんな彼女に”売掛(ツケ)”400万円を残したまま”飛ばれて(逃げられて)”しまった。リョウがそれを打ち明ける(やだ、相手に合わせて攻め方が微妙に違うよ)と、女たちはなんとかお金を工面しようとするのです。つまりナツミとのことを核にして、時間の行き来を何度も繰り返しながら、リョウの関わった女それぞれとのシーンが交錯し、徐々にそれぞれの人物の現実と心の内が描かれていきます。

 ミカ(松尾れい子)は”ミカの中に存在するコズエ”を巻き込んでお金を工面させてそれをあんな形で貢ぎますが、”ミカの中に存在するハヅキ”もいて彼女の思いとはいつも葛藤していて、「あたし、どうして生まれてきちゃったんだろ。」と苦しんでいるミカにとっては「中途半端な愛ならいらない。私を破滅させるほどの愛をちょうだい。」「あたしを壊して。」というの望みを叶えて生き終えたことになるのかと思いました。
 マリエ(西田尚美)はリョウにとって頼りになる存在、それは「俺の愛がほしいからだ。」と分かっていたのに、「その要求に100%応えてやることができないのが 俺たちホストの仕事」でもあったのです。だからマリエは寂しかった。マリエの想いには、感情移入しやすいです。マリエとのシーンには、優しくて恐くて温かくて冷たいリョウが見られて、あれこれ思い巡らされることが多くて好きです。
 同僚シンヤ(井坂俊哉)もまた、ホストとしてのプロ意識を持ってる人で、リョウへの忠告は鋭い指摘でした。
 マリエやシンヤとともに、ナツミへの”追い込みをかける”リョウ、はじめは何故?という思いが強かったでしょうし、その目的はお金の回収のはずだったでしょうが、次第に見えてくるナツミの過去と現実に、リョウの目的は違ったものになってきたようです。ナツミを懸命に探し求め、待ち続け、ついに再会、あんなナツミの姿を前にして、あそこまで出来るリョウ!! ・・・交わした気持ちの意味は、彼女の尊厳とリョウの尊厳を守るということにあったような気がします。
 嘘と本当を区別するのは意味がない愛の形があるってことを、リョウに教えてもらいました。

 そしてまた新しい客の前に出て行くリョウ。彼女の望みは、行き先のなくなったちっぽけな母性愛を受け止めてくれる息子のような存在でしょうか。。。


(追記)
 ずーっと後になって、原作『愛と資本主義』(中村うさぎ 著)を読みました。
 小説ではマリエを描いた部分が多かったし、後半はマリエとドラマでは少し話題になっただけのルナとその母親だと名乗り出てきた女性との物語になっていました。前半は読んでいて頭の中に 伊藤さんの声や仕草でリョウが登場するので嬉しかったな〜。でもリョウの描き方は、ちょっと消化不良ぎみでした。そしてドラマを振り返ると、脚本の技そして伊藤英明の演技でリョウの存在感が大きく膨らみ、リョウを中心にナツミやほかの女性たちとの物語が深く描かれていたと思います。素晴らしい!と改めて思いました。