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あかね空


 「252」に内野聖陽さんが出演と知ったとき、いつものことながら世間知らずなUKIUKIはお名前に覚えが無く、検索してちょこっとチェックしました。舞台のお仕事が多い俳優さんなのね、ドラマや映画もほとんど観たことのない作品でした。NHKのお仕事がわりとあるような印象で、2007年の大河ドラマ「風林火山」で主役 山本勘助を演じたそうですが、全く知らなかったんです。

 それで、ケーブルテレビのチャンネルガイドを眺めてたら 内野聖陽のお名前を発見! 『あかね空』を観ました。なんか初めて見るお顔のような気はしなかったんですけどね〜。。。

 観た後に知ったのですが、原作は第126回(2002年)直木賞受賞作『あかね空』(山本一力)で、テレビドラマや舞台にもなったそうです。この映画版では、内野聖陽が一人二役で、永吉と傳蔵を演じていました。このことも知らずに観てたので、初めに傳蔵が登場したときは、お顔似てるけど永吉とは全然違うしな〜と思って、でもやっぱり・・・あっそうか〜と確信していったのでした。この映画の後にあった番組で、山本一力さんが、「永吉と傳蔵は全く違うが、もっと凄いのは素の内野さんは永吉でも傳蔵でもなかった」というようなお話されてて、UKIUKI好みの俳優さんや〜!って思いました。でも誰かさんに感じてるような 撃沈させられた感はありませんけど・・・(笑)


 オープニングは、相州屋(豆腐屋)の清兵衛(石橋蓮司)と 妻 おしの(岩下志麻)が人通りで賑わう橋の上で知人に出合って立ち話をしている間に、息子の庄吉が握っていた清兵衛の着物から手を離して・・・。庄吉の右手首にアザがありました。

 20年後・・・
 京の豆腐屋で修行を積んだ永吉(内野聖陽)は、江戸に下って深川の蛤長屋で自分の店”京や”を始めます。気持ちよく受け入れてくれた江戸っ子たちも ”京や”の軟らかい豆腐は口に合わなかったり、その辺りで豆腐を売っている嘉次郎(勝村政信)との縄張り争いなど、なかなか上手くいきません。平田屋(中村梅雀)は”京や”を潰したいと このときから思い続けるのでした。永吉を助けて励ましてくれる おふみ(中谷美紀)の口癖は「平気!平気!」。
 相州屋の清兵衛は、 おしの が かつて行方知れずになった息子庄吉の面影を もし生きていたら・・と 永吉に重ねている気持ちを汲んで 陰ながら販路を開く便宜を働き、二人は心の整理をしていったように思いました。
 えっもしかしたら、さらわれた庄吉が京に売られて、こう言ってはなんですけど幸運にも豆腐屋に拾われたの?・・・でも栄吉は「京生まれの京育ち」って言ってたし、手首にアザも無かったです。
 永吉と おふみは 祝言を挙げます。二人は二男一女に恵まれ、”京や”を成功させていったようです。
 二人の祝言が挙げられている頃、清兵衛は おしのに初めて謝って、亡くなります。彼は、あれからずっと あの時立ち話をしたことを悔いながら生きてきたんですね。おしのは清兵衛が自分の気持ちと共に永吉を心にかけてくれたことで、親としての罪を償うための功徳を積めたように思えるに至ったようです。おしのが回想する 清兵衛と幼い庄吉の姿に、もう涙、涙。。。
 また、二人の祝言のとき、賑やかな祝いの場から離れてそっと佇む嘉次郎の様子を見て、もしかして、彼は おふみのことを愛しく想っていたのかな〜 と思いました。嘉次郎は好きな登場人物でした。永吉に縄張りで張り合っても、永吉の根性や豆腐を素直に褒めて、「長屋のおっかぁたちの口には、俺の豆腐があっている。でも・・・あいつの豆腐は江戸じゃあ真似できねえオツな味だぁ〜。上方からの下りものなら・・・」と 永吉に一生懸命なおふみにチャンスを授けるのでした。さっぱりした心意気の江戸っ子です!!

 18年後・・・
 長い歳月を経て親子の葛藤が・・・。豆腐のことになると頑固な父 永吉に反抗し、家族の中で疎外感をつのらせていく長男 栄太郎(武田航平)。永吉と おふみの 栄太郎への思いにはズレがあり、二人の関係もギクシャクしているようです。成功した”京や”を乗っ取ろうとする平田屋(中村梅雀)も絡んで展開していきます。

 これは、”家族の絆と再生を描く人情時代劇”なのだそうです。
 永吉の次の代まで描かれていくという 思ったより長い年数をとばしとばし展開していきましたので、えっ そうなってるんだ〜と思うこともありました。原作では とばした部分のお話があるのでしょうか? それでも その時々で なんとなく先が読めてしまうことの多いお話でもありました。あっこの後 豆腐を握りつぶすんでしょ、って思ったら やっぱりね〜とか(笑) ラストも思った通り、でもいいんです、人情というものに たっぷり浸れましたもの。そのうえで・・・

 UKIUKIがいちばん心掴まれた人物は・・・数珠持ちの傳蔵親分(内野聖陽)です。とにかく、最初の登場シーンが クーーール!! 陰険な悪党というよりは 絶対的な力で賭場を牛耳る堅物の親分ってところでしょうか。
 そんな傳蔵が、相州屋の跡を借りてる”京や”にやってきて、豆腐屋の匂いを嗅いで 懐かしげな穏やかな表情になり、おふみが豆腐を入れて差し出した大きな鉢(って言うのかな、入れ物・・おしのが使っていたものです)に見入ってしまう、そして橋の上で手に残っている感触を覚えてるふうに ふと感慨にふける姿。あっ・・・・・内野聖陽が一人二役で演じている意味を、その時になって気づいたUKIUKIでした〜。最後まで名乗ったり、誰かが気づいたりということはなかったけど、永吉の初七日に平田屋とやって来て、お線香に火をつけるときに手首のあざをはっきり映していました。
 物腰は柔らかいけど頑固な職人気質で、何やかやの葛藤はあっても光の当たる表社会で真っ直ぐに生きた永吉に対して、どんなに人に恐れられる大きな力を持っても陰に隠れた裏社会で生きている傳蔵。幼くして陰の世界に呑み込まれ、一人ぼっちで のし上がってきたであろう 傳蔵の人生に思いを馳せては、胸がいっぱいになってしまいます。
 平田屋から”京や”が相州屋を乗っ取ったように聞かされても、ちゃ〜んと情報網は持っている傳蔵、本当のことを調べ上げた上での あらゆる人材も使っての画策を見せてくれました。それで思ったんです。そんな傳蔵なら、おぼろげに残る記憶の真実を、情報網を使って調べることができたはず。表と裏ではあっても同じ地域ですもの、昔 相州屋の跡取り息子 庄吉が行方知れずになって、その幼子の手首にはアザがあったことなど つきとめることができたでしょう。当時 相州屋はいろんな伝手を使って庄吉を探し回ったようですし、はぐれた時のことも含めて、その気になった傳蔵の耳に入ったでしょうね。それは何時だったのかな〜。。。名乗り出ることはできないところまで、歳月は経ってしまっていたのでしょう。
 終盤の 損得無しでまっとうな気持ちからの行動は、傳蔵の”三つ子の魂”がそうさせたような気がしました。また、自分が継ぐはずだった相州屋の家作を、卑怯な平田屋ではなく おふみと息子たちに託したことで、傳蔵は奪われた庄吉の人生にケリをつけたのだと思えました。あかね空の下 去っていく傳蔵の姿に、ウルウルなUKIUKIなのでした。

 この作品のテーマは 主に栄吉の家族を通して描かれる”家族の絆”でしょうが、栄吉はいかにもっていう描かれ方の真っ直ぐな人物でした。”家族の絆”の描き方も筋書き通りというか、傳蔵がいてこそのハッピーエンドで 感動しなかったわけではありませんが、でもUKIUKIが観終わって味わう余韻は、家族の絆など持ち合わせていない人生をこの先も歩み続ける傳蔵への 胸の痛みなのでした。