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博士の愛した数式


 数学の世界がこんなに素敵に語られているなんて、それだけでも感動でした。素数のとらえ方から友愛数やら完全数やら、また√や虚数i 、ネピア数e など、小ネタが面白いしそれどころか無味乾燥だと思っていた数学の世界に夢がいっぱい広がる感じで新鮮でした。

 博士(寺尾聰)は交通事故の後遺症で記憶が80分しか持たなくなってしまい、天才数学博士としての人生をリタイアしました。彼は何年経っても事故の翌日を生きています。母屋の義姉(浅丘ルリ子)に経済的援助を受け、離れに住んでいます。
 義姉の依頼で家政婦の杏子(深津絵里)が、博士の世話にやって来るようになりました。彼女には結ばれなかった人との間にできた10歳の息子(齋藤隆成)がいます。ある日博士は、息子も連れてくるようにと言い出すのでした。

 このお話、悲しく苦しい思いも込められているけど、なんだかとっても心地良く観ることができました。
 こういう物語の定番はラブ・ストーリーでしょ。でも博士と杏子の間に生まれたのは男女の愛ではなく友愛、もっと単純に友達になったのです。数や数式の美しさを語る博士の世界に、魅せられていく杏子。そして博士は彼女の息子を頭のてっぺんが真っすぐなのでルート(√)と呼び、そして二人もすぐに打ち解けあい、三人でとっても和やかで心温かい時間を楽しく過ごすようになるのでした。だから彼らのシーンはとっても楽しく観ていられます。

 義弟と義姉が距離を取ってよそよそしく過ごしているのは最初から気になったけど、そして観ていくうちに義姉が三人の様子を辛そうに見ていたり、博士がルートの体を大袈裟なほど心配したり、「子どものただいまの声を聞くことほど、幸せなことはない。」と言ったり、実はラブ・ストーリーは別のところにあって、それがこの物語の中では虚数 i のように出しゃばらないけど、胸をズキズキとさせてくるのです。

 √記号は、あらゆる数字をその中に包み込んでくれる。-1 だって i になる。数字を心で愛している博士。i は心で見る数。肝心なことは、心で見ないとその存在は解らない、永遠の真実は心の中にあるんですね。この√や i の解釈がとっても素敵。大きくなったルート(吉岡秀隆)が数学教師になって、博士の世界を語ってくれるシーンの優しい雰囲気がとっても良かったです。

 博士とルートが1について話し合っています。全体で1、ひとつの中に全体が調和していて美しい、良いこととはそういうことなんだそうです。

 かつて僕の心は”e の πi 乗イコール -1 ”と義姉への手紙にかいた博士は、もう何も失うものはないって思って、ただあるがままを受け入れて・・・生き抜こうと思うようになったと言い、”e の πi 乗プラス1イコール0”のメモを渡すのでした。矛盾するものが統一され、ゼロつまり無に抱きとめられる。これが博士の愛した数式。
 無関係としか見えない数の間に自然な繋がりを発見した”オイラーの公式”。その美しさを説明するのは難しいけど、感じることが大切と教えてくれた博士、・・・ ”感じることが大切”って、誰かさんと一緒やん♪(んっ!?笑) なんだかこの肝心なところ、セリフを引用しつつ訳の解るような解らないようなこと書いてますが、博士の何もかも解放したような気持ちを感じることはできたような気もします。
 それでも義姉は、今も罪を背負って生きているのでした。彼女の心の内がいちばん痛いです。

 ところで、博士の記憶が80分しかもたないというのは最後まで観てもそんなふうに描かれているように思えなかったです。半日位、あるいは眠るまでは継続しているような描かれ方だと思えました。。