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笑の大学


 戦争モードに突き進みつつある昭和15年、大衆演芸の台本は厳しい検閲で許可されなければ上演されないのでした。緊迫した世に笑いなど必要ないとの考えを持ち、今まで一度も心の底から笑ったこともない検閲官 向坂睦夫(役所広司)と劇団“笑の大学”の座付作家 椿一(稲垣吾郎)が、検閲室で繰り広げる攻防が描かれています。

 ひゃ〜おもろいー!って観てました。最小限のセットで、余分なシーンのない展開と、ちょっと大袈裟っぽい物言いで、まるで舞台劇のような映画でした。
 検閲室でのシーンが中心で、向坂が笑いをとる部分に文句をつけて注文を出しては椿がなんとかその意に沿うように書き直して次の日に出直してくるのですが、その度により面白くより深みのある作品になっていきます。初めは交わる部分なんて全くない二人、そのちぐはぐなやり取りの面白いこと。やがて二人で共同作業のように台本を見直しては、一晩かかって書き直してくる椿ですが、彼がどんなに苦労して書き直しているかそういうシーンを1つも入れていないっていうのが普通の映画と違うんじゃないかな。そして今までになく厳しい検閲官の向坂に笑いの素質が見え隠れし微妙に変化していくのが可笑しく、そのうちに二人の間に情が通じ合ったかのようで最後に椿が本心を話したところ、やはり向坂は権力側の立場を崩さず、というか実は自分が笑いに目覚めたことが照れくさかったのかなと後になって思いましたが、とにかくもはや書き直せるはずのない注文を出すのでした。それでも書き直そうとする椿。。。

 酔っ払って頭をぶつけたなんて余分な会話も実は椿の立場を表すための怪我だったし、優柔不断そうに見えて心底喜劇を愛しているっていうのは感じていたけど、それ以上にずーっと彼なりの闘いをしていたっていうのが分かって感動!・・・単純におもろいから満足〜って思っていたのに、最後に出来上がった完璧な喜劇を”大学座”で上演されるのを見たいなーって思ったのに、ヤダッ終盤の展開ですっかり心に浸みる物語になって、なぜか涙ウルウルに盛り上げてくれました。でも最後に向坂が廊下で叫んだのはクドイよ。その前にちゃんと検閲室で言い伝わっているもの。まだしも毎日漏れ聞いてきて共感してきた警護の警察官が、「自分も切符切りぐらいするよ」とか「その日が来たら、家族で観に行くのを楽しみにしているよ」とかをそっと言う方が良かったな。