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赤い月


 第二次世界大戦中の満州、森田波子(常盤貴子)は夫と共に牡丹江に渡り来て約10年で「森田酒造」を築き上げ成功を収めています。しかし、1945年ソ連軍の進攻が始まって、状況は一変するのでした。
 激動の時代激動の地で、3人の子の母として妻として女として、愛を貫き、生き抜くことに執着した女性の物語です。

 この物語、終戦前後の厳しい状況下における悲惨な様子や惨いシーンはあまり見せることなく、この当時の満州を描いた作品としては、後半になって切迫した状況になってもまだ意外なほどキレイすぎるように思えました。映像的にもモノクロやセピア色が多くその中で赤が印象的に使われたり、少ないカラーシーンはとても透明感のある明るさだったりと工夫されています。また常盤貴子の雰囲気がずっとその場に馴染まないような違和感を感じていました。でも、これは戦争の悲惨さを描いた作品ではなく、波子の生き方を中心に夫 森田勇太郎(香川照之)かつての恋人 大杉寛治(布袋寅泰)そして生き抜くために必要だった愛する人 氷室啓介(伊勢谷友介)の生き方を描いた作品、現実感を奥に閉じこめることで人物に注目することができて 良かったです。

 波子は自分の気持ちに正直な人。万歳して子どもを出征させる気にはなれないとか、戦争が終わって嬉しいとか、当時そんなことを内心では思っても人にはなかなか言えなかったでしょうに。。。そして彼女はしっかりした母親だったし、''子どもたちと自分は一つの命、子どもたちを生かすために自分が生きなければ''というのには納得。でもそのために必要な愛ってどうなんだろう、生き抜く気持ちを支えるものだったのでしょうか。。。今さらですが彼女は夫も大切に思っていたと思うな〜、でも夫だけではなかった。勇太郎の抱えていた感情にも、心がシクシクと痛みます。彼女が正直な愛に生きたことはさておいて、''与えられた命を生きること!''に頑張ったし、周りの人にもそれを求めました。もちろん周りの人それぞれに、自分の生き方死に方があったわけだけど・・・。

 終戦当時、満州という地で人々がどう生きてどう死んでいったか、また特に氷室があれ程までに苦しめられるエレナや現地の人々への虐殺や、波子がこれまでを''他人の土地で住んでた人を踏みつけて勝手な踊りを踊って・・・''と振り返ることや、勇太郎の最期・・・等々、直接描かれていないことを想像しつつ観ていていると、単に自由な愛を描いただけではない深まりを感じます。

 この状況だと、人の死にざまで感動させようとしがちになると思うのですが、この作品が生きることにこだわった女を描いて、しかも嫉妬からの密告、夫以外の男性との愛を見せられても、嫌らしさや憎しみがわいてきて許せないといった感情が不思議と出てこないのはなぜかなあ。。。自分には絶対できないしやらないことではあっても、 彼女の思いには共感できるところがあったからでしょうね。

 ラストの展開も美しかったです。氷室の立ち直りも理想的だったけど、いいんです。悲しみ空しさ怒りで絶望感いっぱいだった人々の中で、波子の前向きで明るい表情には、この作品が今までUKIUKIには見えてなかったようなあの時代に生きた一人の女性を、とことん描ききった潔さを感じました。