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ホテル ビーナス


 ほとんどの人は多かれ少なかれ何かしらかの心のキズを隠して生きていると思うし、それに対して心の整理をどうつけられるのかが人によって違うと思うけど、この映画の登場人物は魂が抜けたようになってる者やあがいている者たちで、見ていても面白くないはずなんだけど、なぜか惹きつけられてしまいました。ほとんどがモノクロ映像で、チョナン(草g 剛)がかつての恋人の国でその端っこの街にとどまっているのでセリフが韓国語(ハングル語と言うべき?)であるということや、言葉にしない言葉としてタップを使ったりBGMの雰囲気など、独特の世界が創りだされていて、そこで繰り広げられる切なくも味わい深い人物の描写に見入ってしまいました。
 人生の重荷から抜け出せない、ある時から時間が止まって前に進めない、行き場所のない者たちが、とにかく生き続けるために辿り着いた居場所、それがカフェ・ビーナスの奥にあるホテルビーナスで、そこで生きている新古さまざまな者たちをオーナーのビーナス(市村正親)が見守っています。しかしビーナスの過去は描かれていないし、人々が頼ってくるようになったいきさつは分かりません。
 もちろん彼らはホテルの外にも日常的に出ていって生活しているはずだけど、その一部分がちらっと描かれているだけ。ホテルといっても、実際はアパートか無料駆け込み寺のような集団生活で、経済的なことを心配する様子がない。などいろいろと、現実感の薄い物語ではありますが、彼らの心情的な部分を味わって、人ってみんな弱いんだと自分の弱さを受け入れてひととき心を休めさせてもらえます。彼らは他人の傷口に無理やりには踏み込まないけど無視をしないのがお互いのいたわりになっているようで、その辺りがなんともいい感じです。
 ビーナスや後半のチョナンやあとアネモネの話等々、けっこうセリフでメッセージをどんどん語らせているなと思いました。UKIUKIは''少しずつ違う毎日を生きている''っていうのが好きです。そうすればいつか背中に翼が生えるほどではなくても、同じ所にいてもちょっと高くまで跳ねて少し遠くが見えてくる、自分の行動を変えてみる、それが未来につながっていくっていうそんな感じがラストの印象で良かったです。

   TV番組「チョナン・カン」から生まれた作品だそうで、そういえば一度だけたまたまTVつけたらやっていてちょっとだけ見たことがあります。韓国語の映画を作るというところから始まった企画のようですが、こんなに気合いの入った映画が出来てしまうなんて凄い!と思いました。韓国語が上手だとか下手だとかいろいろ意見があるようですが、UKIUKIにはどうせ分からないのだからいいとして、韓国語が独特の雰囲気をつくる要素にはなっていると思いました。タップはいらないという意見もどこかで見ましたが、UKIUKIには閉じた心の扉をノックしているように聞こえました。ただどうしてもチラッと顔を出してもらわないとというのかどうかは知りませんが、カメオ出演している方たちのシーンが邪魔に思えてなりませんでした。メニューがひとつだけの繁盛することをめざしていないカフェであることや、ここに住むからには韓国語を話すんだという意味を示しているのだと思いますが、あえてあのようなシーンを入れなくてもいいのにと思いました。だってせっかくの雰囲気がそこで途切れてしまったんですもの。UKIUKI個人的にすごく残念でした。