イランの映画をいくつか鑑賞したので、ここに集めてみました。
じんわり味わう独特の雰囲気を楽しみました。



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少女の髪どめ   '01 監督・製作・脚本:マジッド・マジディ
風が吹くまま   '99 監督・脚本・編集:アッバス・キアロスタミ
運動靴と赤い金魚   '97 監督・脚本:マジッド・マジディ
白い風船   '95 監督:ジャファール・パナヒ 脚本:アッバス・キアロスタミ
クローズアップ   '90 監督:アッバス・キアロスタミ
ホームワーク   '89 監督:アッバス・キアロスタミ
トラベラー   '74 監督・脚本:アッバス・キアロスタミ












少女の髪どめ


 テヘランの建築現場で働く若者ラティフがアフガン難民の少女に恋をし、彼女を助けるために出き得るかぎりの援助をするものの、ラストはアフガンに帰る彼女ら家族を見送るという、甘酸っぱくも厳しい現実の中で想いを伝えるまでもできないという切なさいっぱいの物語でした。

 ラティフはけっしてよくできた青年ではないけど、純粋で根は優しいと思いました。そして、親方のメマールがまたいい人で、厳しい現場の状況の中でも気持ちは職人思いで、アフガン難民にも同情的で違法と知りつつ彼らを雇っています。ある日事故で足を折ったアフガン人の代わりに、息子のラーマトが働きにやって来ました。
 仕事のキツさや苦しい現実でいっぱいだけど、なんか良い雰囲気の現場なんです。力仕事が駄目でひと言も喋らないラーマトにも仕事が与えられ認められていきます。みんないっぱいいっぱいで働いてる様子に、見ていても力が入ってきます。そんな中ラティフだけはひょこひょこしててメマールに怒鳴られたりしていますが、ある時誰も気づかないことを知ってしまいます。それをきっかけにラティフの変わりようと言ったら・・・。
 ワクワクする感じもあるし、胸がシクシク痛むところもいっぱいのお話でしたが、本当に最後まで気持ちよく観ていられる作品でした。
 「運動靴と赤い金魚」もそうでしたが、全体を通して優しさに包まれているようなところはマジッド・マジディ監督らしさでしょうか。それは現実そのものを描いていないかもしれないけど、作品として観るのに心地良く、UKIUKIは好きです。また、ラストはどちらもハッピーエンドではないのに何故だか受け入れることができてしまう、そんなところも好きです。他の作品も機会があったら観てみたいです。






風が吹くまま


 一台の車が、山岳地帯にある小さな村にやって来ました。一人の少年ファザードが迎えに来ていて、ファザードとの交流を中心に主人公である車の男ベーザードの村での滞在が始まりました。ベーザードの目を通して、長閑な自然に包まれた、迷路のように入り組んだ通路をもつ集落でのゆったりとした人々の暮らしを眺めていました。ところが2,3日の予定がいつまでも村の中をうろうろするばかり。この男たち(姿は出てこないけど同行者がいます)なんでこの村に来たのだろうと思っていたら、どうやら珍しい葬儀の取材に来たのだと分かって なるほど!と思ったものの、結局この男何やってんだって思ったとたん、いや〜な気分になりました。だって少年の祖母の''死''を待っているんですもの。ベーザード自身そのことに気づいてきたのか「自分はいい人か」と問うたりして葛藤している様子。また携帯電話の存在だけでも村とは異質な心地悪さを見ていて感じるのに、何度もかかってくる外部からの圧力に対してしだいに高まるベーザードのイライラが、村の人たちとのギャップを際だたせてきます。といっても村の生活はそんなことおかまいなし、よそ者の彼らに掻き乱されることなく、先祖からの生活を引き継ぎ自然の一部であることに逆らわず生きる村の人たちの姿は、力強ささえ感じさせてくれました。

 テヘランから700キロも離れた山岳地帯にあるクルドの「シアダレ村」が舞台のこの作品。自然も村も登場人物(村の人々)も本物とは・・・。村を去るベーザードや、観ていた私たちにもそれぞれに''本物''の生活があるわけで、みんなに同じ''死''を迎えるまでのそれぞれの''生''をひととき見つめ直させてくれる作品だったように思います。






運動靴と赤い金魚


 妹の靴をなくしてしまった少年アリが、三等の賞品になっている運動靴をもらおうとマラソン大会に出場することになるという物語。しかし、その間の描写が実に素朴で繊細で、淡々と進むストーリーなのですがじんわりといいな〜と思って目を離せなかったです。

 実は、はじめに書いた感想はボツにしてしまいました。初めてのイラン映画なので、物語を楽しみつつ、アリたち兄妹の姿を通して家庭や学校や町の様子、人々のくらしや人と人との関わりなどを興味深く見てしまいました。感じたことを思いつくまま言葉にしていくと、それが作品の感想というよりイランの子どもや人々のくらしや人柄にだったりしてしまい区別がつかなくなってしまったのです。
 でもよく見ていると素朴で自然なその雰囲気ですが、やはり現実そのものではない、綿密に準備された場面で繊細に演出されている作品だと思いました。たとえば家や町の隅々、学校で子どもたちの着ているものやら行動やら、或いは人々の人柄が整っています。イランは検閲がとても厳しいそうで、政治的・宗教的な問題も絡んでいません。だから物語そのものを楽しめばいいやって、なんか安心したような気分になりました。

 アリが妹にすまないという気持ちから、一生懸命靴を探したりなんとかして償おうとします。でも、親や学校の先生には言えません。妹もすごく嫌なんだけど、アリの気持ちを汲み取って誰にも言いません。実際言っても仕方ないと、二人とも分かっているからなんでしょうか。午前と午後でアリの靴を交代に履いて学校に通います。二人とも毎日毎日走ります。繰り返される毎日のシーン、一緒になってハ〜ハ〜している気分で見ていました。でもアリは学校に遅刻してばかりです。母は体をこわし、父は真面目に働いても稼ぎは少なそうですがズルイことの出来ない人です。とにかく印象に残るシーンでもさり気ないシーンを見ていても、アリや妹の表に出せない思いをすごく感じることができて良かったです。
 アリの家族はお屋敷街に住む人たちではないし新しい靴を買う余裕もないのだけど、テレビはあるし、水道もひかれている所に住んでいます。父は家族思いだし、近所とも良いお付き合いをしている様子。ひと昔前の日本の長屋に住む''普通の''人たちのようだと思いました。経済的には豊かでないけど、大人も子供も幸せな生活がそこにある。家庭や学校には礼儀があって、言い争いやケンカもあるけど基本的に皆善人に描かれています。とことんなんともならない状況のようでも、たとえば大家も八百屋も怒鳴り散らしたってそれだけのような気がします。そんな''平和''な場所ばかりではないとも思うんだけど・・・。
 アリが父親と庭木の手入れをしに行って、家でいちばん偉い父親のちょっと頼りないところを手伝えるようになったアリだけど、それでも今まで通りの父と息子が自転車乗って幸せな気分の帰り道、妹に靴を買ってあげてと頼むアリにジーンとしてしまいました。でも、ここでも思い通りにいかないことが起こるんですよね〜。

 作品を最後まで観て気づきました。取り巻く環境は厳しいし、割りきれない思いでいっぱいになったり、辛いな〜ってことが次々起こるのですが、でもそういうところで必ずさり気なく救いがあるのです。UKIUKIはこの作品のそんなところが好き、素晴らしいところだと思います。
 なくした靴を履いている少女を見つけた妹が、どうしても自分では声をかけられなくて、アリと二人で少女の家まで行ったけど、返して!と言えなくなってしまうシーンが何とも良かったです。それまで二人と一緒になってドキドキしながら見ていて、その瞬間ス〜っと力が抜けて、言えないのよね〜しかたないね〜と、ガッカリしながら優しさに包まれました。その後その少女が妹に拾ったペンを渡してくれるシーン、あぁ〜少女は何も知らずに靴を履いていたのよね〜って。
 体育の時間にアリのぶかぶかで汚い運動靴を履いているのが恥ずかしくてたまらない妹ですが、先生がみんなに運動靴を履きなさいと言ってくれてちょっぴりホッとします。
 走っても走っても間に合わず遅刻を繰り返すアリは言い訳もしないので、学校から追い出されそうになったとき、担任の先生が連れ戻してくれたし・・・。
 そしてなんといってもラストにハッピーエンドのシーンを見せるのではないところがいい! でもその直前に救いがあったのがもっといい!! 頑張ってもダメだったという人生の切なさを見ながら、でも大丈夫よ〜って心の中で声をかけてあげられる。物語がそこで終わるというより、その後もイヤなこともあればイイこともあるよって日常が続いていく感じがいいですね。だから重苦しい感じがしないし、人生の応援歌的作品だと思いました。






白い風船


 もうすぐ新年を迎えるために、7歳の少女ラジエーは、お店で見たイランのお正月にはなくてはならないお祝いのための金魚がほしくてたまりません。お母さんにお願いして、新年のために取ってあったお金を出してもらって街へ出かけていくのですが、やっと辿り着いたお店でお金がないことに気がつきます。どこで落としたのでしょう・・・、とうとう見つけたお金がどうしても取れないっていうお話でした。

 可愛らしい金魚が買ってもらえるようになって良かったね。まっすぐお店屋さんに行けばいいのに、道草してしまうのね。あぶないよー。お金巻き上げられちゃうよーってヒヤヒヤもんです。お金がないことに気づいてからは、すごく単調な展開でちょっと退屈っぽかったけど、このお金はどうしても取れないと困るよねって思って最後まで一生懸命見てしまった。兄さんがやって来て助けてくれる様子が良かったな。

 この作品、子供が主人公なんだけど周りの大人を見ているっていう感じでもありました。
 家では父さんの言うことをなんでも聞いている母さんが、ラジエーがお願いしても買ってもらえなかった金魚なのに、兄さんがお願いしたらお金をくれました。男の子の言うことは聞くのかな〜ってふと思いました。兄さんは何て言ってお願いしたのかな。
 町ではラジエーが困っていてもたいていの大人は知らん顔です。おばさんだけは気にしてくれたけどね。
 仕立屋の主人に意見する通りすがりの人たち、また主人もそれに耳をかたむけるし、下町の人情みたいなものを感じるなあ。それでもラジエーのことは気にしてくれないのよね。

 やっぱり子供だね、お金が取れたらスッとんでった。幸せなお正月をお祝いしてね♪ 白い風船の少年も人ごとなのに手伝ってくれて、・・・最後に残って寂しそうだよ〜。彼のお正月はどんなかな〜。。。






クローズアップ


 これはなんかじれったいけどなんとも面白い!と思ったら、実際の事件を基に、しかも裁判シーンなどの実際の映像だけでなく再現映像も含めて登場人物が事件の当事者、ということで限りなくドキュメンタリーに近く、でも巧みに撮影・構成された作品でした。

 イランで人気の映画監督モフセン・マフマルバフに成り切ってしまった男ホセインの物語。彼を信じ込んでしまったある家族が、自宅に招いて食事やお金を渡し、映画撮影のプランに期待を膨らませていたのだけど、ふとしたきっかけで偽者と発覚。彼は逮捕され、詐欺罪に問われるのですが・・・。
 この事件に興味を持った監督キアロスタミは刑務所に面会に行き、また被害者のアハンカ家にもインタビュー、裁判官から公判の撮影許可を受けて映画化したのですが、その様子もちゃんと入っています。
 この事件(映画)の面白いところは、まんまと騙されたアハンカ家の心理的な部分もありますが、それ以上にホセインがマフマルバフ監督に成り切っていく過程でその時の彼の心の内がどんなだったかということです。ホセイン自身は金品めあてに詐欺を働こうとしたという認識がなかったのですから。。。






ホームワーク


 アッバス・キアロスタミ監督が国際的に注目された「友だちのうちはどこ?」の次作がこの作品だそうで、実際の小学校にカメラを持ち込んで撮影していて、監督自身が冒頭で言っているように、「脚本もないし、劇映画にはならないだろう。正確に言えば、映像リサーチだ。」というものです。

 ''宿題''を忘れた子たちや何人かの保護者や先生に、キアロスタミ監督がインタビューしています。
 あんなかわいい子が、叱られるばかりで誉められたことがないなんて・・・。ご褒美って何?って・・・。宿題は多いみたいだし、文盲や教育改革で多くの親は教えられなかったり混乱したりしているようです。日本語は表意文字と表音文字、しかもひらがなとカタカナがあるので、一年生の一番最初はともかく小学生だって自分で書き取り練習するけど、あっそうか〜、文字が一種類だと読む人がいるんだーなんて妙にびっくりして、あれ〜?英語圏ではどうしてるのかな〜とか余分なこと考えてしまった。ベルトでぶつっていう体罰が日常化しているみたい。少し前まで日本でも''愛の鞭''ってビンタくらいはよくありましたけど。女の子や女性は登場しないのね〜、でも家庭では普通に過ごしているみたい。まあ1989年の作品('87撮影)ですが、子供たちを取り巻く文化や家庭環境や教育現場の問題とかが滲み出ていて興味深かったです。






トラベラー


 イランの巨匠キアロスタミ脚本・監督で、長編デビュー作(デビュー作は短編の「パンと裏通り」)だそうです。シンプルな展開だけどつい目が離せなくなるというのはこの作品からありました。
 サッカーが大好きで、テヘランで行われるプロサッカーの試合を観たくてたまらない少年ガッセムが、あの手この手でお金を調達してテヘランへ出かけていく物語。UKIUKIにとっては、少年のひたむきな気持ちを感じて応援したくなる・・・というものではなかったし、或いはやり切れなさが心に染みる・・・というのとも違って、残念ながら初めから終わりまでイヤな感じで、楽しめる作品ではありませんでした。
 教育映画としての価値はあるかもしれない・・・なんて思ったりするけど、最後にガッセムが見た夢やラストのオチで帳尻が合わされる気になれません。ガッセムにはいい経験になったかもしれないけど、つき合わされた親友の少年の気持ちにはずうっとモヤモヤが残ると思います。せめてもの救いはテヘランにはガッセムが一人で行って、ほって行かれたこと。そして、この際親の気持ちや学校のことは横に置いといたとしても、嬉しそうに写真を撮ってもらって次の日をどんなにか楽しみにした子どもたちや一緒にサッカーを楽しんでいた仲間にも酷いよね。とにかく、子どもに対して大人げないと思いつつ、ガッセムの言動やその表情まで受け入れられなかったUKIUKIですが、逆に彼を演じた少年の演技がスゴイと思いました。